“高砂尽くし”の披露宴
昨日は五雲会の後に、恵比寿のウェスティンホテルにて大鼓方の大倉栄太郎さんの結婚披露宴に出席して参りました。
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大倉栄太郎さんは東京芸大時代の同級生で、当時能楽専攻の仲間たちと栄太郎さんの鎌倉の自宅に泊まりがけで遊びに行ったりしたのが懐かしい思い出です。
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我々能楽師の結婚披露宴では、乾杯の前に「高砂」の祝言小謡「四海波」を謡うのが慣例になっております。
昨日も宝生和英御宗家の御発声のもと、出席した能楽師が全員立ち上がって「四海波」を謡いました。
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昨日はシテ方と三役のたくさんの流儀が勢揃いした披露宴でしたが、実は「四海波」の詞章や節は流儀によって異なるのです。
私も初めて能楽師の披露宴に出席した時は、違う節が聞こえてきて戸惑いました。
しかし今ではそれにも慣れており、昨日も宝生流の「四海波」を大声で謡いました。
ところが最後の部分の「君の恵みぞ有り難き」を「君の恵みぞ有り難や」と謡う流儀があるので、そこは「き」と「や」がせめぎ合って微妙な謡になって終わりました。
聴いていた一般の方は違和感を感じられたかもしれませんが、決して誰も間違えてはいないのです。。
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そして、開宴後しばし経った頃、ふと気がつくと新郎新婦が座る”高砂”の横にあるステージに、いつのまにか数人の能楽師が座っていました。
シテ方、笛方、小鼓方、太鼓方…
あれ?1人足りません。するとおもむろに高砂席の新郎栄太郎さんが立ち上がりました。
なんと手には大鼓を持っています!
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栄太郎さんが座につくと、シテ方の金春流山井綱雄さんが謡い始めました。
「高砂や この浦船に 帆をあげて…」
おお、今日は”高砂尽くし”なのですね!
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そしてまた面白いことがありました。
結婚式で「高砂」を謡う場合、文句を一部変える習わしがあります。
「出汐」を「入汐」としたり、「遠く」を「近く」と謡ったり。
これを謡文句を「かざす」と言ったりするそうです。
昨日の山井さんもこの「かざし謡」で待謡を謡われており、「遠く鳴尾の沖過ぎて」が「春に鳴尾の沖過ぎて」となっていたり、聞きながら思わずニヤリとしてしまいました。
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新郎熱演の「高砂」居囃子も無事に終わり、やがて和やかな披露宴は終盤に差し掛かりました。
最後は新郎栄太郎さんの挨拶です。ところが…
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栄太郎さん「え〜、どうしよう何を言うのかすっかり忘れてしまいました…。あんなに練習したのに!!」
おいおい。
昔からこういうキャラで愛すべき人なのですが、ここは何とか頑張ってほしいところです。
すると…
「そうだ!思い出しました。先ほどの皆様の”四海波”の謡!」
え?
「これまでの披露宴では謡う方だったので、今日初めて高砂席から聴かせていただきましたが、”おめでとう!”というすごいエネルギーが伝わって来て、めちゃくちゃ感動しました!!」
能楽師一同大ウケです。会場全体も温かい空気に包まれました。
栄太郎さんその後なんとか挨拶をまとめて、披露宴は目出度くお開きになりました。
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高砂で始まり、高砂で締めた感じのとても良い披露宴でした。
栄太郎さん、どうか末永くお幸せに!