熱海での台風の思い出

台風一過の今日は、熱海のMOA能楽堂で”能楽サークル”という舞台がありました。

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実はMOA舞台では、忘れられない台風の思い出があります。

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もう15年近く前になると思いますが、演能中に台風の直撃を受けて、見所のお客様と一緒に能楽堂に閉じ込められてしまったことがあるのです。

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“MOA定期能”という催しで、能は「紅葉狩」。

シテは先代の家元でした。

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昼前にMOA能楽堂に到着した時は、まだ雨風ともにそれ程強くありませんでした。

しかし最初の狂言が終わって「紅葉狩」が始まる15時頃になると、様子が変わって来ました。

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外に面していないので、本来なら風雨の影響は全く無い筈のMOA能楽堂。

それなのにヒューヒューと吹きすさぶ風の音が聞こえ始め、やがて楽屋に水が吹き込んで来たのです。

何処からかと言うと、換気扇からでした。

換気扇は確かに外と繋がっている筈ですが、外までの距離はかなりあるのです。

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一箇所だけ窓のある小部屋から見ると、外の杉林が強風に煽られて激しく波打っているのが見えました。

しかし、既に演者もお客様も能楽堂内に入っており、寧ろ能楽堂が一番安全だと思われました。

なので、能「紅葉狩」はとにかく普通に演じられたのです。

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そして「紅葉狩」が終わってからニュースを見ると…

「台風は伊豆半島に向かっており、間もなく熱海付近に上陸する見通しです。」

なんと、熱海直撃ですか…。

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…という訳で、我々はお客様と共に、MOA能楽堂で台風直撃を迎えることになったのです。

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今スマホで調べてみたのですが、この台風は「平成16年台風22号」だったようです。

資料によれば、戦後最大級の920hPaというとんでもない勢力のまま伊豆半島付近に上陸。静岡県を中心に大きな被害を出した台風ということです。

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台風直撃前後には、窓のない部屋でじっと時間の過ぎるのを待ちました。

台風さえ過ぎてしまえば、なんとか帰れるだろうと思ったのです。しかしそう甘くはありませんでした。。

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熱海から東京に帰るには、JR、海沿いの道、山中を通る箱根ターンパイクの3つの経路があるのですが、これらが土砂崩れや高波などで全て通行不可能に。

つまり熱海は”陸の孤島”と化してしまったのです。

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雨風が弱まった20時過ぎ、我々演者とお客様はMOA美術館に併設されたホテルに移りました。

そして今度は交通の復旧をひたすらに待ち続けたのです。

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やがて日が変わる頃に、海沿いの道が通行可能になったという情報が入りました。

何台かあった車に強引に分乗して、能楽師達はまさに這々の体で熱海を脱出したのでした。

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今年もまだ台風シーズンは暫く続くことでしょう。

とにかく大きな被害が無く過ぎるように、安全を第一に行動したいと思います。

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