手品師の手法

先日とある場所で、間近に「手品」を見る機会がありました。

3本の紐が次々に長さを変えたり、繋がったり切れたりを繰り返す手品。

百均で買ったばかりのスプーンが、手品師の手の中でくねくねと曲がってしまう手品。

トランプのカードを当てる手品などなど。

何かタネを見つけようと思っても、至近距離で目を凝らしても全く怪しい動きはありません。

これは不思議なことだと思っていると、手品師が少しだけ解説をしてくれました。

「人間の眼には必ず死角があるので、どこか一点に観客の目線を集めて、その隙に素早くカードのすり替えなどをする」ということでした。

この「人の目の死角を利用する」という話は、実に腑に落ちるところがありました。

というのは、私も舞台上でこの手品師の手法を使うことがあるのです。

能の地謡で正座をしている時に、「如何に目立たないように足を組み替えるか」というのが実は重要な要素のひとつなのですが、私はここに「人の目の死角」理論を応用しているのです。(少々大袈裟ですが…)

つまり、例えば幕が開いてシテが出てきた時、およそ橋掛りの半ばくらいまで歩んで来た辺りで見所のほぼ全員がシテに気がつきます。

この瞬間にシテでは無く地謡をじっと見ている人は、余程の変わり者か地謡の大ファンだと思われます。

そんな人は先ずいないと仮定して、私はそこでちょっと足を直したりするのです。

しかし、偶にこの手法が通用しない恐ろしい舞台があります。それは「地謡の背後にも観客席がある舞台」です。

つい先日の「興福寺薪御能」などがそれで、舞台を地謡の後ろから観ているお客様が100人以上おられました。

こうなると死角は無くなってしまうので、心中「すみません!」と思いながら、出来るだけ控え目に足を組み替えるしかありませんでした。

「後ろからマジックを見られてしまった手品師の気持ち」というのは、こんな感じなのかなあと地謡座で密かに思ったのでした。

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