阿漕が浦

今日から5月に入りました。私の誕生月で、今頃の季節が私は一番好みです。

私が生まれたのは三重県津の辺りで、実は能「阿漕」の舞台となった阿漕が浦もすぐ近くなのです。

「あこぎ」というと、現代においては「あこぎな商売をする」というように「悪どい、欲深い」と言った意味で使われます。

能においても、「罪深い事を何度も繰り返して、やがて露見してしまう」というやはりネガティブな意味で「あこぎ」という言葉が用いられています。

ところが、私の故郷においては実は「あこぎ」は親孝行な息子で、病弱な母親の為に危険を顧みず密漁をした、という美談として伝わっているのです。

息子の名前は平治と言って、密漁から逃げる時に平治の名前が入った笠を海岸に落として帰った為に捕らえられました。

地元では、平治の笠を象った「平治煎餅」というお菓子まで売られています。

今週土曜日の七宝会において私は能「阿漕」の地謡に入ります。今日は申合があって、地を謡って参りました。

シテは密漁の咎で地獄の責め苦を受け、ワキに救いを求めながら、最後まで成仏に至らずにまた波の底に消えていきます。

しかし阿漕が浦近くの生まれの私としては、ちょっとシテに肩入れして、「そこまで責めなくても良いのでは…」と思ってしまうのでした。

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