八島の日
少し前にも書きましたが、明日3月18日は八島の合戦があった日です。
能「八島」の前半で、義経の化身の老人が「いで其の頃は元暦元年三月十八日の事なりしに…」と八島での戦物語を始めます。
その中で源氏方の三保乃谷の四郎と、平家方の悪七兵衛景清の「錣引」のエピソードが語られます。景清と三保乃谷が戦場で力比べをして、互いの剛力を讃え合う話です。
ここで興味深いことがあります。
「景清」という別の曲中で、老いさらばえた景清自身が全く同じ「錣引」を語っているのです。
ところが景清は「いで其の頃は寿永三年三月下旬の事なりしに…」と語り始めます。
平家の都落ちの後、元号は「寿永」から「元暦」に改まるのですが、平家方にとってはまだ「寿永」のままなのですね。
また義経は「三月十八日」と日付まで言っているのに対して、景清は「三月下旬」とのみ語っています。
何となく、「緻密な戦略家」の義経と、「剛力無双」な景清の性格が出ている気がして、これも興味深いです。
兼平と巴の所でも書きましたが、能に於いては同じ合戦の有様も、語る主体によって微妙に違う内容になっている事があります。
修羅物は多くあるので、それぞれ読み比べてみると面白いかと思います。