紫明荘組稽古 点描

今日は朝に京都に移動して、紫明荘組の稽古でした。

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若手OG「実は京都市内に就職が決まりまして。これからずっと稽古出来ると思いますので、よろしくお願いします。」

おお!それはめでたいです。

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新OB「こんにちは。今日からよろしくお願いします。」

おお!こちらは卒業後初めて、紫明荘組稽古に顔を出してくれました。

力強い戦力がまた増えたことになります。

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また、1年ほどお休みだった会員さんも…「先生、1年間ご無沙汰してすみませんでした。今日からまたよろしくお願いします。」

と元気なお顔を見せてくださいました。

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再来週には京大宝生OB会の全国大会が開催されますが、その舞台に紫明荘組からゲスト出演する会員さん達も、仕舞の最後の仕上げに入りました。

その中でも植田竜二先輩に捧げる「融」の仕舞が、とても良い仕上がりになってきました。

会員さん「植田さん、融見たら笑わないですかね?」

私「きっとニコニコ満足そうに見ていらっしゃいますよ。」

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そして更に先の、秋の澤風会に向けても。

初めて能を出される方、初めて舞囃子に挑戦する方、初めて荒い仕舞を稽古している方など、それぞれが着実に歩みを進めておられました。

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新人からベテランまで、今日もとても充実した紫明荘組稽古が出来て、満足して夜の京大稽古に向かったのでした。

鍛え直す。

舞台と稽古が立て込んでおり、なかなか喉を休める時間がとれない日々が続いております。

しかし昨日会員さんから良い言葉をいただきました。

正確にはその会員さんの知り合いのボイスパフォーマーの方の言葉です。

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「喉が枯れたら、そのガラガラ声から新しい声を発見する!」という内容の言葉で、成る程、そんな前向きな考え方もあるのかと感心いたしました。

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「新しい声」という訳ではないのですが、喉が不調な分、それ以外の部分でいかにカバーするかを毎日考えています。

「口の開け閉めはきちんと大きく」とか、「腹筋に力を入れて、喉には余計な力をかけずに」など、人には毎日のように言っていることを、もう一度自らの身体で確認することが出来ています。

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数年前に、膝を怪我したサッカー選手が、その治療期間を使って上半身など膝以外の部分を鍛え直して、結果より強い選手となって戻って来たのをニュースで見ました。

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私も喉の調子が戻ってきたら、その前よりも良い謡になっているように、この機会に喉以外の要素を色々と鍛え直しておきたいと思っております。

「謡」という乗り物

昨日の大山崎稽古では、試みにこれまで稽古した謡本を全部持って来てもらいました。

15曲ありました。

毎月一回、1時間ほどの団体稽古をコツコツと積み重ねて来た結果です。

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そして昨日はその15曲を、短い範囲で次々に謡っていくという「プチ・半歌仙会」のようなことをしてみたのです。

(半歌仙会とは、18曲を1日かけて謡う素謡会のことです)

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「竹生島」から始めて、「土蜘」「加茂」「船弁慶」「小鍛冶」「咸陽宮」「大江山」「鞍馬天狗」「安宅」…

と謡って、最後に「高砂」の千秋楽できっちり100分間謡い続けました。

15曲制覇はなりませんでしたが、「四半歌仙会」にはなりました。

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これだけまとめて謡うと、謡というものが如何に多彩で幅広く、奥深いかが良くわかります。

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何も知らないで聞いていると、謡は全部同じように聞こえてしまいます。

しかしきちんと稽古してから謡ってみると、一曲毎に時空間が全く異なる、目眩くような世界が広がっているのです。

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琵琶湖縦断の長閑な舟旅。

源頼光と怪僧の緊迫した闘い。

賀茂の神様の不思議な縁起。

嵐の海上で義経に襲いかかる平知盛の怨霊。

天下の名刀小狐丸の誕生秘話。

始皇帝を暗殺から救った琴の秘曲。

酒呑童子が大江山に住み着くまでの放浪の日々。(月にまで行って来たのです!)

春の鞍馬山中での大天狗と牛若丸の邂逅。

安宅の関での、富樫と弁慶の命懸けの攻防。

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「謡」とは、このような沢山の物語世界に自在に入り込んで行ける「乗り物」のようなものだとも言えます。

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大山崎では、来月から新しい曲「草紙洗」の稽古が始まります。

今度は美しい平安の宮中絵巻の世界へと、大山崎の皆さんと共に「謡」に乗って入って行きたいと思います。

蜂蜜の豊穣

昨日は松本稽古でした。

松本では、稽古前に先ずは会員さんの骨董品店に立ち寄ります。

その後稽古場に向かうのですが、途中でやはり会員さんのイタリア料理店があり、そこも覗いて挨拶をしていくことが多いのです。

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昨日もランチの終わった時間にそのイタリア料理店の前を通ると、店内の会員さんが出て来てくださいました。

「先生!こんにちは!」

私「おお、ごんにぢは…」

「先生、声どうされたのですか?」

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…そうなのです。

先日の夜能「夜討曽我」の後から、声が枯れてしまって中々本調子に戻ってくれないのです。。

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私が「ちょっと声が枯れてしまって…」と言おうとして、「ちょっと声が…」まで言ったところで、会員さんが「そうだ!ちょっと待っていてくださいね!」と店内に駆け込んで行かれました。

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何だろうと思っていると、ややして戻って来られて「先生これをどうぞ!」

その手にはジャムのような小瓶があり、中身は黄金色に見えます。

おお、これはもしや蜂蜜ですか⁉︎

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「そうなんです、この蜂蜜美味しいんです!」

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実は喉の回復の為に色々調べたのですが、「蜂蜜」が一番効果があるようなのです。

自分で買おうかと本気で思っていたところでした。

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「ありがとうございます!ちょうど蜂蜜が欲しかったのです。助かりました!」と有り難く頂戴して、稽古場に向かいました。

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そして稽古場で早速、先ずは熱いお茶に溶かして飲んで、更に直接掬って舐めてみました。

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…なんと美味しい蜂蜜でしょうか。

最初口に含むと、飾り気のない自然な味に感じられました。

しかしやがて口の中で溶けるにしたがって、「豊穣」とでも表現したくなるような豊かな彩りのある濃い甘さが、口一杯に広がっていきました。

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その甘さが喉に流れていくと、これは確かに痛んだ喉を癒してくれそうだと感じられたのです。

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この蜂蜜は、岩手県の…


リンゴと桜の花から採れたものだそうです。

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私が青森稽古の時に東北新幹線で通る、「水沢江刺」の近辺でしょうか。

4月や5月の稽古の時に新幹線の窓外に見えた桜やリンゴの花から、蜜蜂達がせっせと集めてくれた蜂蜜を今私が美味しくいただいているわけです。

しかもその蜂蜜が喉を癒してくれる。なんだか不思議で、とても有り難い気分になります。

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今週末の京都満次郎の会での能「熊野」ツレまでに、この蜂蜜の力を借りて喉を回復させたいと思います。

加茂川のベンチ

今日は午前中に大山崎稽古、そして夕方から京大稽古でした。

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合間に少し時間が空いていたので本屋でも行こうかと思ったのですが、今日の京都は年間に何日あるかという実に爽快な初夏の日和です。

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こんな日にはぴったりな私の好きな場所があるのです。

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ここは出町柳駅前の、加茂川の西側の河原です。

すぐ前には、鴨川を「加茂川」と「高野川」に分ける通称「鴨川デルタ」があり、その向こうには左の比叡山から右の大文字山まで、新緑の東山のパノラマが広がります。

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そして写真の下の方に写っているのが、私のお気に入りのベンチなのです。

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ここに座って本を読んだり謡を覚えたりしていると、今の時期は乾いた風がいつも吹いて来て実に良い気分になります。

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しばらくベンチで休んで、河原にて夜討曽我の稽古などしてから京大稽古に向かいました。

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京大稽古は相変わらず怒濤のような勢いで、密度の濃いものでしたが、それはまた次回のブログにて。

本日はこれにて失礼いたします。

兄弟とは…

今日は江古田稽古場にまた新しい仲間が増えました。

小学生の男の子です。

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実は彼のお祖父様、お祖母様、そして高校生のお兄さんも江古田稽古場でずっと稽古をしています。

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お兄さんの影響で稽古を始めてくれたのでしょうか。

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因みに私にも年子の兄がおりますが、何故か私と兄は正反対の選択をしながら人生を歩んで来た気がします。

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小学校の時には、兄も私も同じように母親の能の稽古に連れて行かれましたが、私は稽古を始めて、兄は一切興味を持ちませんでした。

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また、私は高校の時漠然と、「大学に入ったらサイクリング部に入りたいな…」と思っていました。

しかしなんと1年早く大学生になった兄がサイクリング部に入ってしまったのです。

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仕方なく、という訳では無いのですが、私はサイクリング部をやめて能楽部宝生会に入りました。

思えば兄がサイクリング部に入っていなければ、私はほぼ確実に京大サイクリング部に入部して、今こうして能楽師にはなっていなかった筈なのです。

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あるいはまた、私が小学2年生で稽古を始めていなければ、兄がかわりに稽古を始めて私のポジションに現在いる可能性もあった訳です。

兄弟とは不思議で面白いものです。

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私と兄はかように異なる道を選んで来ましたが、兄弟で何か同じことをやるのは本当は素晴らしいことだと思っております。

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今日稽古を始めてくれた男の子も、家でお兄さんと仕舞の話で盛り上がったりしてくれたら嬉しいものです。

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…しかしながら例えば私の兄がある日突然「稽古したい!」と言い出す可能性もあるわけで、そうなればそれはまた面白いことだと思うのです。

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誕生日ロールケーキ

今日は朝から京都紫明荘組の稽古でした。

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バリバリ稽古して、3時間ほどが経った頃。

私「えーと、では次の方の仕舞を…」

会員さん「先生ちょっと待って!稽古中断して、ケーキを食べましょう!」

と満面の笑みで大きな箱を持って来られたのです。

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開けてみると、とても大きなロールケーキが2本も入っています。

私「…もしかして、誕生日ケーキですか⁉️」

会員さん「はい!私の家の近くのケーキ屋で買って来ました!ハッハッハ!」

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なんと‼️今年は紫明荘組の皆さんが私の誕生日サプライズを用意してくださっていたのでした。

おかげさまで今年も元気に嬉しい誕生日を迎えることができました。


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思えば去年は京大宝生会で手作りケーキをもらいました。


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そして一昨年は松本稽古場で巨大なケーキをいただいたのでした。


他にもメールなどでお祝いしていただき、本当に私は果報者だと思います。

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皆様のお気持ちにお応えするべく、この1年もまた精一杯頑張って稽古に舞台に取り組んで参ります。

五月病と四月病

ゴールデンウィークも明けて、今日から通常稽古モードの松本稽古です。

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先週は使えなかった回数券も今日は無事に使えて、特急あずさの座席にも随分と余裕があります。

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思えば昨年も連休明けは松本稽古で、車窓から「桐の花」が綺麗に見えました。

しかし今年はもうとっくに終わっていて、今日は山梨辺りの葡萄の棚の緑が鮮やかでした。

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途中降り出した雨が、松本駅に到着すると本降りです。

久しぶりに傘の出番でした。

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連休が終わってしまって、しかも雨模様だと何となく気勢が上がりません。

世に「五月病」という言葉がありますが、これはゴールデンウィーク明けの気分を指すのかもしれないと思いました。

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因みに私が京大現役時代には「四月病」という言葉があり、これは2回生以上がかかる病いと言われていました。

「新しい年度がスタートした4月に、柄にもなく真面目に毎日大学に通って授業に出てしまう」という症状で、これが当時の京大では病気とみなされた訳です。

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四月病の時期は、大学周辺の自転車の台数が異常に増えて危ない上に、生協の食堂も混み合って往生します。

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しかしゴールデンウィークが明ける頃にはこの「四月病」はすっかり影を潜めて、京大周辺は平穏な日々を取り戻すのです。

これはつまり私を含めた駄目学生達が、また大学に寄り付かなくなる事を意味します。

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尤も最近の学生はとても真面目なので、年間を通して授業にちゃんと出ているので、この「四月病」という言葉も死語になっているのかもしれませんね。

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名物の「立て看」も規制されるようで、何とは無しの寂しさを感じてしまうのですが、京大周辺を取り巻くのんびりとした自由な空気感だけは、何時迄も無くならないでいてほしいものです。

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扇の日

今日から5月がスタートしました。

5月は空気が爽やかで、それ程暑くも寒くもなく、私はとても好きな月です。

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そして今日5月1日は「扇の日」だそうです。

何故なのかと言うと…

①5月1日→「コイ(恋)」という語呂合わせ。

②恋と言えば「源氏物語」。

③「源氏物語」の恋の駆け引きにおいては、「扇」が重要なアイテムである。

…という驚くべき三段論法で、京都扇子団扇商工協同組合によって制定されたようです。

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制定理由は相当に強引な気がしますが、ともかく「扇」という物には日頃から大変お世話になっております。

これが無いと稽古が不可能なので、私にとっては財布の次に大事なアイテムと言っても過言ではありません。

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仕舞の稽古では「扇」、謡の稽古では「張り扇」を常に持っています。

また京大宝生会での仕舞稽古は見ているだけの時間も多くありますが、そんな時も扇をずっと手に持って、無意識のうちに開いたり閉じたりを繰り返しています。

とにかく稽古中は手に扇が無いと落ち着かないのです。

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稽古に使う扇は当然傷みが早く、私の場合は3〜4年で使えなくなってしまいます。

そのような古くなった扇も、何となく捨てられずに押入れに眠っています。数年間を共に過ごした扇には、「家族」「友人」に近いような親しみを感じるのです。

しかしかなりの本数がたまっているので、いつか「扇供養」のような行事に持って行きたいと思っております。

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仕舞においては「扇」一本で実に様々な事物を表現することが出来ます。

「名刀」になり「盾」になり、「筆」になり「牛の角」になり、「天女の羽衣」になり「天狗の羽団扇」になり、「盃」になり「柄杓」になり、「弓」になり「矢」になり、「松明」になり「笠」になり、「風」を吹かせ「波」を立て、また「この世の全てを映す鏡」にもなります。

「恋人との約束の証」が扇であるという曲があり、「ある老武者が自害した場所」が扇で表される曲もあります。

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書けば書くほど、この日本発祥である「扇」という道具の大切さ、また能楽に於ける用途の広さ深さを再認識させられます。

稽古をされている皆さんは「扇」をどうか大切に、そしてまだ稽古をされていない皆さんは、この素晴らしい「扇」というアイテムの魅力を最大限に引き出す「能楽」の稽古を、「扇の日」をきっかけに始めてみるのも良いかと思います。

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最後にもう一つ、「扇」の使い方を思い出しました。

初対面の人と待ち合わせる場合に、「白地に青い雲の模様の扇を持って立っています」などと言っておいて、扇を開いて立っていれば絶対にすぐに見つけてもらえます。

…相当変人だと思われる恐れはありますが。。

休みの日に働くこと

今日はゆるいお話です。

今朝松本稽古に行こうとして、いつものようにJRの改札機に「あずさ回数券」を入れたところ、何故か「この切符は使用出来ません!」と弾かれてしまいました。

そこでようやく、「ああ、今はゴールデンウィークか…」と思い当たったわけです。

回数券はゴールデンウィークや年末年始などは使用不可なのでした。

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「こっちはいつもの仕事なのにな。。」と思いながらすごすごと券売機に向かい、正規料金の切符を買いました。

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能楽師は人様が休みの日に働くことが多い職業で、時にその影響を受けてしまう事があります。

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内弟子の頃には、遠くで薪能などの舞台がある時は大きなワゴン車に装束、作り物、何人かの内弟子を載せて移動するのが常でした。

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舞台が無事に終わると、疲れた身体に鞭打ってまた全てをワゴン車に積み込んで、「もうひと頑張りだ!」と水道橋を目指して出発します。

しかしそれが連休最終日だったりすると、高速道路であえなく大渋滞に巻き込まれてしまうのでした。。

しかも、周りの車を見回すと殆どが休日帰りで「楽しく遊んで来ました!」という雰囲気を漂わせた車なのです。

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一方こちらは仕事帰りで疲れて目つきの悪い男達が満載の、何となく「護送車」という雰囲気のワゴン車です。

周りの車を見渡しながら、「あのベンツ、いけ好かないカップルですよ」「くそ、奴らには絶対抜かれるな!」

「あの赤いマーチ、女子4人乗りです」「よし、ちょっと並走して見て」

などと勝手な事を言いながら渋滞の中をゆるゆると走っていきます。

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こうして書いてみると、それはそれで良い思い出なのですが、当時は「こんな時は高速に”労働車専用レーン”を作ってくれ!」と本気で思ったものです。

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今も松本に向かう「特急あずさ」には、楽しそうな家族連れなどがたくさん乗っています。

それらの「休日客」の喧騒を聞きながら私は「ふう」とため息などついて、せめて車窓から見える甲州路の滴るような新緑に、旅行気分だけでも味わおうと努力してみるのでした。