花傘巡行の思い出

祇園祭の花傘巡行が猛暑のために中止になったというニュースを見ました。

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「花傘巡行」という単語を久しぶりに見て、非常に懐かしい気持ちになりました。

実は私は京大の頃に、花傘巡行のアルバイトをしたことがあります。

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京大狂言会の先輩から斡旋されて、初めて京都らしいお祭りに参加したのです。

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朝に八阪神社の社務所に集合して、巡行の装束に着替えます。

私は何か幟のような物を一本持たされて、行列に加わってぞろぞろ歩いた記憶があります。

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面白かったのは、女の子のアルバイトらしい人達が浴衣姿で巨大な団扇を持って、我々の行列をあおいでくれたことでした。

あれは寧ろ、あおぐ女の子の方が暑いのでは…とちょっと心配になりました。

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しかしその時の花傘巡行は、そこまで暑かった記憶もないのです。

なので、今年の猛暑はやはり尋常では無いということなのでしょう。

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しかし伝統に固執せずに、人々の体調優先で花傘巡行を中止するというのは、とても京都らしいしなやかな考え方だと思いました。

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来年もし復活したら、懐かしい花傘巡行を見にいきたいものです。

豪雨の後の亀岡浴衣会

今日は亀岡で「浴衣会」がありました。

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亀岡は先日の豪雨の時はJR山陰線も、また「老ノ坂」と呼ばれる山越えの幹線道路も寸断され、一時完全に京都市内との交通が不可能になりました。

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私も先週土曜日の稽古には山陰線が不通で行けず、今日はどうなっているか心配しながら東京を出ました。

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しかし京都から山陰線に乗って、嵯峨嵐山から保津峡を越えて亀岡盆地に入る間、豪雨の痕跡は全く見られずに、保津峡も少し水量が多いかな、くらいの流れでした。

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亀山城址にある稽古場も、大きな被害は無かったのとこと。少し安心いたしました。

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能楽には「祈り」の思いが込められています。

浴衣会の初めに主催者代表の方より、「今回被災された方々への祈りの気持ちを込めて、今日の浴衣会の舞台を勤めさせていただきます」とのご挨拶がありました。

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ニュースでは、今日になってからも広島で河川やため池が決壊しそうだと度々報道しています。

「祈る」しか出来ないのは何とも歯がゆいのですが、今はこれ以上被害が広がらないように、祈りたいと思います。

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亀岡の皆様は、先週土曜の稽古が出来なかったにもかかわらず、頑張って謡い、舞ってくださいました。

先週土曜の分の代替稽古日程も決まって、また私も新たな気持ちで頑張って稽古させていただきます。

亀岡の皆さま、本日はどうもありがとうございました。

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おまけですが、亀岡稽古場の「業平の杜若」に種子の入った莢が出来ておりました。

もう少し経つと、莢が茶色になって割れて、種子が見えてくるそうです。

種子から育てて花を咲かせるには3、4年かかると言うことですが…。

岡山と広島の被害

今朝も早朝に起きて、まず関西の大雨のニュースを見ました。

今朝から間引き運転をする予定だった嵯峨野線が、始発から運休になっています。

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やはり今日の亀岡稽古も延期にせざるを得ず、私は東京に2日間停滞しました。

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京都の河川の事を心配していたら、実は広島や岡山や愛媛で大変な被害が出ていたと知り、映像に衝撃を受けました。

二階の屋根に迫るほどの濁流が町を覆い尽くしています。

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あの町の中でまだ救助を待つ人々が多勢いらして、これから夜を徹して救助活動が行われるそうです。

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いつものように私は何も出来ずにただ祈るのみなのですが、一刻も早い救助と、そして救助活動をされている方々の無事を心からお祈りしております。

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そして実は、この8月に私は岡山県の小学生向けに仕舞教室を、また東広島の保育園で能楽ワークショップをする予定なのです。

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これから会うはずのまだ顔も知らない子供達と、その御家族のご無事もまた、心よりお祈り申し上げます。

身の安全を第一に

今朝三ノ輪の自宅で起きてニュースを見ると、やはり大雨のために関西の交通機関は大幅に乱れているようでした。

今回の稽古場所の丹波橋まで、たとえ無事にいらしていただいたとしても、帰りに電車が止まったら大変なことになります。

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早めに決断して、今日の紫明荘組稽古は延期にさせていただきました。

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それでも、夜の芦屋稽古には行けるかもしれません。

午後まで三ノ輪で様子を見て、東海道新幹線とJR京都線普通列車が動いているので何とか芦屋までは行けそうだと、東京駅までは行ってみました。

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しかし東海道新幹線は、動いてはいますが名古屋から新大阪までが150分遅れとの情報がありました。

それでは到着する頃には稽古時間が終わっています。

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やはり芦屋稽古も延期のお願いをして、すごすごと三ノ輪に帰って参りました。

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明日行く予定の亀岡も、今のところ嵯峨野線が不通になっています。

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稽古をお休みにするのは何とも心苦しいのですが、自然災害は本当に恐ろしいものです。

いざ遭遇してからでは、どうにも対処出来ないことが多いのです。

稽古される方々と、私自身の身の安全を第一に考えて行動したいと思っております。

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日曜までには天気も回復するという予報です。

昨日の繰り返しですが、関西の皆さまどうかくれぐれもお気をつけて、無理をなさらず過ごしてくださいませ。

関西の大雨

今日の朝早くに、三ノ輪の自宅で携帯のマナーモードが振動しました。

メールかと思い、「こんな明け方に何だろう…」と寝ぼけ眼で画面を見ると、「京都市左京区に大雨情報」という気象速報でした。

私の携帯には、京都市左京区の気象情報が流れてくる設定になっているのです。

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最近は夕方になるとよく同様の大雨情報があるのですが、「今日は朝からか…」と思い携帯を置いて、再び眠りに入りました。

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ところが、それからも1時間と置かずに繰り返し京都の大雨速報が入って来ます。

「これは余程すごい雨だな…」とちょっと心配に思いながら起きて江古田稽古に向かいました。

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江古田稽古の合間にも関西の気象情報が続々と入って来ます。

「大山崎町、茨木市、高槻市」など先日の地震で大変だった場所に今度は「土砂災害警戒情報」が。

「よりによって地震と同じ場所に大雨とは…」

とますます心配になりました。

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実は私は明日明後日と関西方面で稽古の予定なのです。

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しかし京都は鴨川、芦屋は芦屋川、亀岡は大堰川と、行く先々にある川がそれぞれ水量が大幅に増して危険な状況になっているようです。

JR嵯峨野線などいくつかの路線で終日運休という情報もありました。

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江古田稽古は先ほど無事に終わりましたが、今夜は気象情報をチェックしながら、明日の関西での稽古が可能かどうか様子を見たいと思います。

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関西の皆さま、どうかくれぐれもお気をつけて過ごしてくださいませ。

日本代表のメンタリティ

昨夜というか今朝早く、ワールドカップの日本対ベルギー戦を観ました。

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終わって呆然としつつ眠りにつき、午後からの稽古のために目覚めると、やはりニュースは日本代表のことで持ちきりでした。

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いくつか読んだ中で特に心を動かされたニュースが2つありました。

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ひとつ目は本田圭佑選手のインタビューです。

「このワールドカップが終わったら人生が終わると仮定してみた。その場合、自分はどんな覚悟をして、周囲とどんな会話をしていくかを考えて行動した。」というような内容でした。

ワールドカップという究極の大会で、更に人生がそこで終わってしまうという精神的極限状況に自分を置いてみる。

本田選手ならではの壮絶なメンタリティだと思います。

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ある舞台に臨む時に、そこで人生が終わると仮定して準備したことがあるかと自問してみました。

道成寺の時は、本当にその危険性はありましたが、逆に「怪我はしても死ぬことまではあるまい」と考えていた記憶があります。

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今後大事な舞台に臨む時には、この本田圭佑選手の言葉を思い出してみたいと思いました。

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ふたつめは、ロッカールームの話です。

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ベルギーに惜敗してワールドカップを去った日本代表。

そのロッカールームを掃除しに行った大会関係者が見たのは、すでに綺麗に掃除されたロッカールームと、「スパシーバ」と書かれたメモ、そして日本代表のチームカラーの青い折り鶴だったそうなのです。

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今朝のあの歴史に残る激闘を終えた日本代表が、非常な悔しさの中で、ロッカールームを掃除する人のことまで気遣って行動していたとは。

こちらも驚くべきメンタリティだと思います。

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あのような状況で「後から掃除する人のことを考える」というのは、「想像力」が余程豊かでないと出来ないことです。

そしてそういう「誰かのことを思い遣る想像力」とは、我々能楽の世界においても最も大切なことのひとつなのです。

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日本代表のワールドカップは今回は終わってしまいました。

しかし私を含めて多くの人々が、日本代表に大切なことを色々と教えてもらった気がしております。

街を沸かせたW杯

4年に一度のサッカーW杯が始まっています。

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今夜はいよいよ日本代表が登場しますが、私はその時間まだ稽古中だと思われるので、後でニュースでハイライトを見たいと思います。

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W杯は能楽とは全く関わりがありませんが、個人的に能楽の仕事絡みでひとつだけ思い出に残っている出来事があります。

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2002年6月7日、日韓W杯の予選リーグ、札幌ドームで行われたアルゼンチン対イングランドの試合。

この2チームの対戦は、「因縁の対決」と言われた予選リーグ最大の好カードでした。

(ちなみに1986年メキシコW杯の同カードでは、ディエゴ・マラドーナの伝説的な「神の手ゴール」と「5人抜きゴール」が生まれています)

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そしてその2002年6月7日、私は内弟子として「新潟能」という催しに出演しておりました。

夜にあった舞台が無事に終わり、内弟子達は車に乗り込んで窓を開けて走り出しました。

やがて新潟市街に差し掛かった時。

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街全体から一瞬、「オーッ!」という大きなどよめきがはっきりと聞こえたのです。

本当に街の底から湧き上がって来たようなすごい歓声でした。

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「今のはなんだろう?」と誰かが言って、「そうだ!アルゼンチン対イングランドがやっている時間だよ」と助手席の内弟子がカーラジオをつけました。

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ラジオのサッカーはひたすら騒々しく、しばらくはプレーの内容がわかりませんでした。

しかしどうやらイングランドの"ワンダーボーイ”マイケル・オーウェンが抜け出して、ペナルティーエリア内でDFと一対一になってシュートを放ったという決定的なシーンがあったようです。

それが先ほど新潟市街を沸かせた歓声の瞬間だったのです。

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それまで「街全体」という規模で発せられる人間の声など聞いたことがありませんでした。

W杯開催国の盛り上がりとは、ここまでのものなのかと大変驚きました。

そして世界の名だたる選手達が、今この瞬間にも日本で戦っているのだと、何やら感慨深い気持ちになりました。

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私はサッカーに関しては全く詳しくありませんが、何故か昔から日本代表の試合だけは気になってしまいます。

京大時代に先輩の家で「ドーハの悲劇」の試合をテレビ観戦した時のあの悔しさが、今でも忘れられないからかもしれません。

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今回も、色々難しい状況と聞きながらも、日本代表の健闘を心の底から祈っているのです。

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「ワサビ」と「氷」と「正座」?

今日は宝生能楽堂にて「能プラスワン」に出演して参りました。

天候の悪い中をいらしていただいた皆様、誠にありがとうございました。

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今回は京都大学大学院薬学研究科の金子周司教授をお招きして、「正座による”痺れ”の感覚」について色々お話を伺いました。

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我々の体内にある感覚神経には通称「ワサビ受容体」という痛み刺激センサーが存在するそうです。

そして実は「ワサビが辛い!」という感覚と「氷が冷たい!」という感覚と、「正座で痺れて足が痛い!」という感覚は、全て同じこの「ワサビ受容体」によって感知されているそうなのです。

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つまり「ワサビ受容体」の働きを抑制する薬が出来れば、「正座による足の痛み」は解消されるわけです。

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この薬の研究は、本来は正座ではなく「糖尿病治療薬」や「抗がん剤」などの難病治療薬の開発に繋がるものであり、金子先生の研究室は京都大学の中でも最先端を行く研究室のひとつなのです。

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今回は時間の制約もあり、限られたテーマのお話しか伺えませんでした。

しかし金子先生は例えば「茶道・華道」の関係者に招かれて、「足の痺れにくい畳」の開発に向けた会合に参加されたりと、まだまだ色々興味深いお話がありそうです。

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また私としても、今回の「能プラスワン」でようやく初めて「正座」というものに本格的に眼を向けた気がします。

今回は接触できませんでしたが、「日本正座協会」という素敵な名称の組織があることも知りました。

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「正座」を研究して、最終的に「どんなに長く正座しても絶対に立てる方法」を確立するための私の旅は、まだ始まったばかりなのかもしれません。

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今後は金子先生とも交流を続けて、出来れば「日本正座協会」とも接触し、「正座」というものに色々な角度からより深く迫って行きたいと思っております。

今日いらしていただいた皆様には、また何らかの形で続報をお伝え出来ればと思います。

夏も近づく…

今日は立春から数えて88日目、つまり「八十八夜」です。

この日に摘まれたお茶を飲むと、長生きするとか。

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私が京大宝生会現役だったはるか昔のこと、毎年八十八夜の頃には小川芳先生に連れられて、数人の部員と宇治茶の老舗を訪れたものです。

あまりにも昔のことで、そこでどんな行事があったのか殆ど思い出せませんが、茶摘みをした記憶は無く、ただとても美味しいお茶を何種類もいただいた覚えはあります。

お茶の葉によって適切な湯温があり、その温度で淹れたお茶は実に美味しいものだとそこで知りました。

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私は普段から稽古場でお茶をいただくことが多いです。

それはとても美味しいのですが、私が本当に心からお茶が美味しいと感じるのは、誰かとのんびり会話をしながらゆっくり飲んでいる時です。

丁寧に淹れられた日本茶を何杯もおかわりしながら、ぽつりぽつりととりとめの無い話をして過ごすのが、実はとても好きな時間なのです。

そんな時間も、相手をしてくれる人もなかなか無いのですが。。

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日本で最初にお茶を栽培したのは、能「春日龍神」のワキでもある「明恵上人」です。

師匠である栄西禅師が中国から持ち帰ったお茶の種を、明恵上人は先ず栂尾で栽培して、その後山城国の宇治に移植したということです。

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能「春日龍神」においてワキ明恵上人は、春日明神の御神託によって、中国大陸への渡航を断念します。

その中国大陸からもたらされた「お茶」を栽培することは、憧れの大陸に少しでも近づきたいという明恵上人の気持ちの現れだったのでしょうか。

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今しも新幹線の車窓から、静岡の茶畑のこんもりとした畝うねの連なりが見えています。

そういえば昔の新幹線で売っていたお茶は、蓋付容器の熱いお湯に、静岡茶のティーバッグを自分で入れて、暫し待ってから蓋に注いで飲むというものでした。

思えばあれは美味しいお茶でした。

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こんな風に書いていると、お茶が恋しくなって参りました。

京都駅でお茶を買って、山陰線に乗り換えて明日の舞台のある綾部に向かいたいと思います。

今日は正にお茶を飲みながらの会話のような、とりとめのないお茶の話になりました。

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扇の日

今日から5月がスタートしました。

5月は空気が爽やかで、それ程暑くも寒くもなく、私はとても好きな月です。

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そして今日5月1日は「扇の日」だそうです。

何故なのかと言うと…

①5月1日→「コイ(恋)」という語呂合わせ。

②恋と言えば「源氏物語」。

③「源氏物語」の恋の駆け引きにおいては、「扇」が重要なアイテムである。

…という驚くべき三段論法で、京都扇子団扇商工協同組合によって制定されたようです。

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制定理由は相当に強引な気がしますが、ともかく「扇」という物には日頃から大変お世話になっております。

これが無いと稽古が不可能なので、私にとっては財布の次に大事なアイテムと言っても過言ではありません。

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仕舞の稽古では「扇」、謡の稽古では「張り扇」を常に持っています。

また京大宝生会での仕舞稽古は見ているだけの時間も多くありますが、そんな時も扇をずっと手に持って、無意識のうちに開いたり閉じたりを繰り返しています。

とにかく稽古中は手に扇が無いと落ち着かないのです。

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稽古に使う扇は当然傷みが早く、私の場合は3〜4年で使えなくなってしまいます。

そのような古くなった扇も、何となく捨てられずに押入れに眠っています。数年間を共に過ごした扇には、「家族」「友人」に近いような親しみを感じるのです。

しかしかなりの本数がたまっているので、いつか「扇供養」のような行事に持って行きたいと思っております。

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仕舞においては「扇」一本で実に様々な事物を表現することが出来ます。

「名刀」になり「盾」になり、「筆」になり「牛の角」になり、「天女の羽衣」になり「天狗の羽団扇」になり、「盃」になり「柄杓」になり、「弓」になり「矢」になり、「松明」になり「笠」になり、「風」を吹かせ「波」を立て、また「この世の全てを映す鏡」にもなります。

「恋人との約束の証」が扇であるという曲があり、「ある老武者が自害した場所」が扇で表される曲もあります。

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書けば書くほど、この日本発祥である「扇」という道具の大切さ、また能楽に於ける用途の広さ深さを再認識させられます。

稽古をされている皆さんは「扇」をどうか大切に、そしてまだ稽古をされていない皆さんは、この素晴らしい「扇」というアイテムの魅力を最大限に引き出す「能楽」の稽古を、「扇の日」をきっかけに始めてみるのも良いかと思います。

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最後にもう一つ、「扇」の使い方を思い出しました。

初対面の人と待ち合わせる場合に、「白地に青い雲の模様の扇を持って立っています」などと言っておいて、扇を開いて立っていれば絶対にすぐに見つけてもらえます。

…相当変人だと思われる恐れはありますが。。