松本での新しい試み

信州松本で私が謡と仕舞の稽古を始めてからもう14年目になります。

途中から太鼓と小鼓の先生も加わり、段々賑やかになりました。

澤風会郁雲会大会で松本から能を出したり、夏の松本城薪能の前座で天守閣前で仕舞や太鼓を披露したり…

そしてこの度、小鼓方の先生より

「今年松本で新しい試みをしませんか?」

という打診がありました。

それに伴いこれまでは”仕舞と謡”、”小鼓”

、”太鼓”

と分かれていた教室を統一するような、新しい団体名を考えようという事になりました。

しかしこれが意外に難しいのです。

「松本」「能楽」「舞」「鼓」

などに関係するキーワードを挙げたり、小鼓方と太鼓方と私の3人を表す単語を探したり…

その「新しい団体名」と「新しい試み」に関しては、また話が進んで行く段階で発表して参りたいと思います。

松本で能楽が深く根付いて発展していくための新プロジェクト、私も今からとても楽しみです。

田んぼの白い鳥

先週文化庁巡回公演で山形県の酒田に行って参りました。

今年2月に続いての2回目の酒田です。

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宿から会場の小学校に向かう途中、バスの車窓から雪と雲を頂く「鳥海山」が美しく見えました。

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雄大だなあと見惚れていると、その手前の水田に白い鳥がたくさんいる事に気づきました。

写真右下の白い点々がそれです。

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最初は鷺の仲間、おそらくチュウサギかコサギだろうかと思いました。

しかしよくよく見ると、サギにしては大きすぎます。

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太った身体に長い首、嘴もサギより太めに見えます。

拡大した画像です。

ボヤけて判りづらいですが、中央上部の個体のシルエットからも、これは「白鳥」だと思われました。

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私はこれまで固定観念で、「白鳥は湖にいる」と思っていたのです。

田んぼにいる白鳥…?と不思議に思いました。

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しかしちょっと調べてみると、シベリアから越冬のために飛来した白鳥達は、水田で落穂を食べる習性があるそうです。

そしてこの庄内平野でもその光景は普通に見られるという事でした。

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それでも何やらすごい新発見をしたような嬉しい気持ちになって、巡回公演の能「黒塚」に臨めたのでした。

今回の公演後の質問コーナーでは、

「ワキの山伏は腰に刀を差しているのに、何故その刀で鬼女と戦わなかったのですか?」という鋭い質問が出ました。

するとシテを演じた楽師が、

「ワキは鬼女に改心して貰いたかったから、怪我をさせないように祈りの力で戦ったのだと思います」

という素晴らしい回答をして、楽屋の皆で感心しました。

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酒田という街は、下の写真のような庄内米の古くて巨大な米蔵が残っていたり、

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“北前船”で財を成した豪商の旧家があったりと、歴史を感じる美しい街でした。

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滞在中ずっと雨模様でしたが、時たま雲が切れると空には虹がかかりました。

今回の巡回公演も素晴らしい経験になりました。関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

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2年ぶりの新歓ワークショップ

今日は京大能楽部BOX舞台にて、京大宝生会の新歓ワークショップを開催いたしました。

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事前に申し込みのあった人に限っての参加、人数制限、全員マスク着用と換気の徹底、またアクリル板の使用など、出来る限りの安全対策を施しての開催でした。

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それでも今の状況で果たして参加者がいるのかどうか…?

始まるまで期待と不安が拮抗した気持ちでドキドキしておりました。

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しかし蓋を開けると、新入生や留学生など10人近い参加者が来てくれて、とても充実した新歓ワークショップをすることが出来たのです。

対面での新歓活動が一切出来なかった去年を思うと、とても大きな成果だと思います。

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今後もおそらくサークル活動には様々な制限がかかると思われます。

それでも何とかして新しい部員に入ってもらい、可能な方法で稽古を続けていきたいと思っております。

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また今日はとても驚く出来事がありました。

新歓ワークショップの開始前、1人の新入生らしい青年がBOXに入って来ました。そして…

「澤田先生、私は○○と申します」

その苗字を聞いて、改めて青年の顔を見てすぐにピンと来ました。

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青年のお母様は、私の京大宝生会時代の同期の女性。

そしてお父様は当時の京大宝生会OBだったのです。

卒業後にめでたく結婚されて、2人のお子さんたちと私の舞台を何度も観に来てくれました。

子供達に最後に会ったのは、私の「道成寺」の披きの時でした。

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そのお子さんが大きくなって今年見事に京大合格し、今日能楽部宝生会の新歓ワークショップに来てくれたという訳なのです。

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時の流れをしみじみ感じると共に、えも言われぬ深い喜びに包まれました。

青年は宝生会への入部はまだ躊躇しているようでしたが、何とか初の”親子二代での宝生会”というのが実現してほしいものです。

新歓ワークショップの成功とともに、とても嬉しい日になりました。

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「養老」の語源は…

今月は文化庁の巡回公演が続いていて、昨日は愛知県豊田市の小学校にて午前午後2回の公演が無事に終わりました。

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名古屋からバスで公演会場の豊田の小学校に向かう途中に「猿投(さなげ)」という地名があって興味を惹かれました。

由緒ありげな地名を見るとわくわくしてしまうのです。

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ちょっと調べると、「日本武尊」や「景行天皇」といった能にも登場する方々に由来する地名であることがわかってますます嬉しくなりました。

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そういえば先月の紀伊半島巡回公演の時には、和歌山から奈良に向かう山中をバスで走っている時に、「丁」という地名を見かけました。

古い地名には一文字のものが珍しくないのですが、この時は「え?」と驚いてしまったのです。

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「丁」という地名の下にローマ字で「YORO」と書いてあったのが、通りすがりの一瞬ですがはっきりと見えたのです。

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丁と書いて「よろ」。

全く初めて見る読み方です。

これも調べてみると、古代の朝廷に使えて土木作業をしていた人々を「丁(よろ)」と呼んでいたと知りました。

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さらに驚いたことにこの「よろ」という読み方は、「養老(ようろう)」という地名にも通じているとのことなのです。

能の曲名として今まで親しんできた「養老」

の語源を、紀伊半島の山中で知ることができるとは思いもよらぬことでした。

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巡回公演はまだ来月まで続きます。

子供達との出会いとともに、初めて行く土地の地名や伝承に触れることも、とても楽しみです。

山形巡回公演

一昨日の月曜日には、文化庁巡回公演で山形県の酒田に行って参りました。

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山形県は実はこれまでの人生で一度も降り立ったことの無い県のひとつでした。

公演前日の日曜夜に感慨深い気持ちで酒田駅を出ると、最初の感想は「風が強いな…」ということでした。

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降ってくる雪も、地面に積もった雪も、絶え間なく吹く強風に飛ばされて一緒くたになって舞い狂っているのです。

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公演会場の「庄内能楽館」の周辺には、広大な松の防風林が続いていました。

その松の様子がまた何とも壮絶なものでした。

多くの松が根元から同じ方向に半ば倒れて生えていたのです。

海側から絶え間なく吹きつける強風に晒されて育って来た結果なのでしょう。

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先日の紀伊半島巡回公演とは全く異なる環境でしたが、小学生の子供達はここでも元気でした。

この辺りには「黒森歌舞伎」という民俗芸能が伝わっていて、この小学校の子供達による「少年歌舞伎」というのも行われているそうです。

地域の伝統文化と共に育った子供達は、能楽も眼を輝かせて観てくれました。

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公演後は能楽師皆でバスに乗り、最上川に沿って新庄駅へ向かいました。

車窓からは”風車”が多く見られました。

松を捻じ曲げるほどの強風を、発電に利用しようということなのでしょう。

厳しい環境を逆手に取った、強かな発想です。

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日が暮れて新庄駅に到着すると、雪が激しさを増していました。

「雪の降る街を」という古い歌が聴こえてきそうな、寒さが身に沁みる北国の風景でした。

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余談ですが今回の山形では、食べ物の美味しさに何度も驚かされました。

ホテルの朝食で出た「塩納豆」や本場の「芋煮」は、本当に毎日食べたくなる美味しさなのです。

また最上川を遡上する鮭で作られた「鮭とば」も、これまで食べた鮭とばとは全く別ものの芳醇な味わいでした。

そして何より「お米」と「味噌汁」の美味しさです。

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山形県はまた度々訪れてみたくなるような、しみじみと良い土地でした。

今回お世話になった皆様どうもありがとうございました。

紀伊半島巡回公演

昨日今日と、文化庁主催の紀伊半島巡回公演に出演して参りました。

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昨日は和歌山県の有田川に面した中学校での公演、今日は奈良の小学校での公演でした。

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校庭には”登り棒”や”吊りタイヤ”など、私の小学校にもあった遊具が並んでいて、とても懐かしい雰囲気の小学校です。

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そして公演会場の体育館のすぐ裏手には…

能「当麻」に出てくる「二上山」が聳えていました。

来る途中のバスの車窓からは「畝傍山」「耳成山」「葛城山」なども見られて、悠久の歴史を感じる巡回公演になりました。

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今日は私が能「黒塚」のシテを勤めて、終了後には装束のままで子供達からの質問を受ける時間がありました。

過去の巡回公演でも中々に鋭い質問が出て、油断ならないこの「質問コーナー」です。

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今回もやはり、

「鬼女はいつから”鬼”になったのですか?」

というような深遠な問いがあり、回答に四苦八苦いたしました。

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しかし、お囃子の体験コーナーでは逆に「小鼓と大鼓の皮の材質は何でしょうか?」というお囃子方からの質問に、

「アルパカ!」

と答えた子供がいて楽屋は静かに爆笑していました。

小学生とは面白いですね。

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今回の巡回公演はやはりコロナ禍の影響で何ヵ所かの公演が無くなってしまいました。

行けなかった学校、会えなかった子供達のことを思うと非常に残念ですが、せめて昨日と今日、ふたつの学校で公演出来たのは大変有り難い事でした。

関係者の皆様誠にありがとうございました。

またコロナが落ち着いたら、今回行けなかった学校でも公演が出来たらと思います。

龍田神社への短い旅

今日は奈良の中学校で能楽教室がありました。

今年はこれまで、能楽教室の予定が軒並みキャンセルになっていたので、おそらく今年最初の能楽教室です。

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昼過ぎに奈良の中学校に到着すれば良い予定でした。

しかし私は今回、宿泊付きの割引ツアーを申し込んだため、東京からの新幹線が早朝便になって朝8時半には京都に到着してしまいました。

3時間ほどポッカリと空いています。

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「何か有効な時間の使い方は無いだろうか…」

と新幹線の車内で考えて、

「龍田明神にお参りしようか」

と思いつきました。

先月の五雲会で能「龍田」を舞ったので、その御礼参りをしたいと思ったのです。

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ところが「龍田明神」を検索したら、「龍田神社」と「龍田大社」の二つの神社がヒットしました。

両方とも行く時間はありません。どちらにお参りするべきか…。

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更に色々検索して、「龍田神社」には近鉄の「竜田川」という駅で降りてから「竜田川」沿いに歩き、「龍田大橋」を渡ってから「龍田の古い町並」を抜けて到着する事がわかりました。

という訳で今回は「龍田尽くし」の「龍田神社」を目指すことにいたしました。

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京都から1時間ほどで「竜田川駅」に到着。

小さな無人駅でした。

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辺りの町名は「龍田」です。それだけでも何か嬉しい気持ちになります。

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不動産屋も「タツタ」です。

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更に歩いていくと、いよいよ「竜田川」が見えて来ました。

果たして紅葉が流れていたりするのでしょうか…?

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この続きはまた明日書きたいと思います。

居合女子!

今日は都内の私立女子中学校での能楽教室に行って参りました。

始まってからもう7年目になる能楽教室です。

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各教室に分かれて色々なお囃子や型や謡を体験します。

教室では、掃除の時のように机が後ろに下げてありました。

そしてその机の間に、私は気になるものを見つけました。

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どう見ても、能に使う「太刀」にそっくりなものがキャリーケースに入れて置いてあったのです。

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そのキャリーケースも、今日の実演曲「船弁慶」の太刀を入れて来たケースと全く同じものでした。

しかし船弁慶の太刀は控え室に置いて来たので、この教室にある筈がありません。。

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中学校の先生に「あの…この”太刀”は誰のものなのですか?」と聞いてみました。

すると…

先生「ああ、”居合道部”の子がいるのです」

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なんと、居合に使う刀なのでした。

後で詳しく聞くと、その学校に居合道九段の達人の先生がいらっしゃるとか。

なので、家で親御さんに「クリスマスプレゼント何が良い?」などと聞かれると、

「新しい刀!」

と答える居合女子が沢山いるそうです。。

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150人程の生徒さんは、皆とても熱心に能楽体験をしてくれました。

「この中にいる”居合女子”さん達は、きっと能の型をやっても格好良くきまるのだろうな…能も稽古してくれないかな…」

と思いながら、最後の実演の「船弁慶」を頑張って謡ったのでした。

トンネルを抜けるとそこは…

昨日松本から東京に戻って、国立能楽堂の稽古会にて袴半能「石橋」の地謡を勤めました。

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そして今日また別の仕事で松本にとんぼ返りしたのです。

ちなみに一昨日のブログに載せた写真がこちら。

塩尻の手前くらいの松本平です。

晴天でした。

北アルプスの上の方だけが雪を被っていますが、平地には全く雪は見られません。

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そして今日、諏訪からトンネルをくぐって松本平に出て、ほぼ同じ位置で撮った写真がこちらです。。

なんと1日で一面の雪景色になっておりました。

このような経験をすると、”自然の力の気まぐれさ”のようなものを改めて実感します。

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私の乗った特急あずさは雪による倒木の影響で15分遅れで松本に到着しました。

今日はまた一昨日とは別の方々に、能楽の魅力をお伝えして参ります。

能楽を通じて結ばれた御縁

昨日の松本ワークショップはおかげさまで無事に終了いたしました。

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60人のお客様のうちの多くは、実は見知ったことがある方々でした。

松本澤風会会員さん、そのご家族、そして以前に稽古されていた方、またそのご家族など。

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それらの皆さんは、10年の時をかけて松本澤風会稽古を通じて御縁が出来た方々なのです。

ワークショップをしながら見知ったお顔、懐かしいお顔を見つけるたびに、感慨深い気持ちになりました。

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ワークショップの途中の休憩時間に、私はひとりの記者の方に声をかけられました。

なんとその記者さんは、8年前まだ稽古を始めて間もない頃に、松本澤風会新年会の記事を書いてくださった方でした。

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そして当時、その記事をタウン情報紙で読んだ1人の男性が新年会に来てくれました。

彼は私の京大時代の知人で、金春流太鼓を長く稽古している人でした。

そしてすぐに彼が太鼓の稽古場を開設することになり、松本澤風会と密に連携しながら、この8年間で松本の能楽の裾野を広げてきてくれたのです。

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記者さんは今度は太鼓の稽古場を取材してくださるとのこと、またその記事が元で御縁が繋がっていくと良いです。

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今回のワークショップでは、また新しい方とも何人もお知り合いになれました。

こうして松本で能楽を通じた御縁を広げていって、やがて能楽堂建設へ、さらにこの地が能楽の大きな拠点のひとつになることを目指していきたいと思います。

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昨日のワークショップに関わった皆様、そしていらしてくださった皆様まことにありがとうございました。

今後もどうかよろしくお願いいたします。