ひと息に冬へ

4日前の土曜日には、宝生会定期公演での能「夜討曽我」の主後見で、汗だくで働いておりました。

もちろん私だけで無く、シテもツレもみんな口を揃えて

「舞台が暑かった!」

とやはり汗にまみれて言っていたのです。

しかし昨日から今日にかけて、季節が一変してしまいました。

気持ちとしては一気に夏から冬です。

しかも私は昨日今日は北の街、青森稽古だったのです。

夕方に青森に着くと気温は3℃。

暑がりの私も流石に震え上がりそうな温度です。

しかし天気予報をちゃんとチェックしていました。

新幹線で上野を出る時はシャツ一枚だけの軽装。

でも荷物にはカーディガン、ジャケット、マフラーを装備して、青森到着前にそれらを着込んでいたので寒さはそれほど感じませんでした。

北の街は暖房設備が充実しているので、稽古場の公民館で仕舞を始めるとむしろ暑いくらいです。

すぐにまたシャツ一枚に戻ってしまいました。。

そして今朝青森を出て上野に向かう新幹線に乗ると、車窓からは白くなった八甲田山が望めました。

今シーズン初めて見る雪景色でした。

まだ綺麗な紅葉をみていないので、どこかで今年の「秋」も味わってみたいものです。

美ヶ原は美しかった

先々週の日曜日10月20日には松本市内の「才能教育会館ホール」にて「松本澤風会大会」がありました。

その翌日21日に、松本澤風会会員で山登りのエキスパートのお2人にガイドしていただき、前日の舞台の参加者9人で「美ヶ原高原」に行って参りました。

車でも上の方までいけるようですが、我々は山登りが主眼なのでちゃんと歩いて登ります。

ここから山に入ります。

最初は川沿いの深い森を歩きます。

道端にはリンドウの花。

そして高度が上がっていくと、まだ早いと思われた紅葉もちらほらと。

やがて森林限界を越えて、巨大な岩山が見えてきます。あの岩山の上が山頂のようです。

思ったよりも本格的な山道でしたが、総勢9人で山の話や能楽の話など楽しくお喋りしながら登ったので、それほど疲れは感じませんでした。

2時間ほど登ってようやく「美ヶ原高原」に到着です。

山頂部はとにかく広大な原っぱで、牛が放牧されていました。

日本ではなく、ヨーロッパアルプスあたりのような風景です。(行った事は無いのですが…)

そしてこの日は快晴で空気も澄んでおり、360°どこを見回しても山また山の絶景でした。

八ヶ岳と富士山。

槍穂高連峰。中央が槍ヶ岳です。

中央アルプスの山々。

ちなみに右端が能楽師東川尚史君、左のお2人が松本澤風会の山登りエキスパートです。

他にも浅間山や、北アルプス、南アルプスの山々もくっきりと見えました。

山頂には各放送局のテレビ塔が林立しており、何か宇宙基地のような光景です。

この山頂まで登って、「王ヶ頭ホテル」という四つ星ホテルで美味しいカレーをいただいてから下山しました。(カレーが美味しすぎて、写真を撮る間も無く食べ終えてしまいました…)

下山して見上げた美ヶ原高原。

山上に小さくテレビ塔が見えます。

あそこまで登って、降りてきたのか…と皆それぞれ感慨深い面持ちでした。

今回は朝10時の登山開始から午後2時半の下山まで、終始快晴で絶好の眺望に恵まれました。

おそらく今後再び美ヶ原高原に登っても、今回程の絶景は見られないかと思われます。

全員の思い出に残る素晴らしい山行でした。

松本澤風会の山登りエキスパートのお2人に、心より感謝申し上げます。

(写真は私が撮影したものと、参加者Nさん、Yさんが撮影したものです。NさんYさんありがとうございます)

北の街の名月

今月から来月にかけて仕事がまた山場を迎えており、鞄には覚えるべき謡本がたくさん入っていて、移動中は殆どがそれらを見るだけで過ぎていきます。

それでもやはり、たまに見るニュースで季節毎の節目を思い出してハッとする瞬間があります。

今日の昼間に北に向かう東北新幹線で見たスマホのニュースの見出しで、

「今日は中秋の名月」

とありました。

能の題材にも多く取り上げられている「中秋の名月」。

綺麗に見える年もあれば、月を見る暇もなく過ぎる年もあります。

今年はどうでしょうか…

北の街に到着して日が暮れると、夜空には少し雲に覆われた名月が輝いていました。

雲が良いアクセントになって、一幅の絵画を見るような美しさでした。

この月のイメージを、またいつかの舞台に活かせたらと思います。

熱帯のような仙台…

先週の金土日は福岡で仕事がありました。

月火は京都で稽古して、夜に東京に戻りました。

そして今日水曜は仙台稽古。

九州から東北まで、段々と北上しております。

仙台まで来ると、福岡に比べてかなり涼しいだろうと思われるでしょう。

ところが仙台駅で東北新幹線を降りると、まるで熱帯のような高温多湿の空気がムッと身体を包みました。

稽古場に向かって歩き出すと、スコールのような雨も降り出して、湿気が一層増してドッと汗が吹き出してきました…

これは寧ろ福岡よりも暑く感じるほどです。

9月半ばの仙台で熱帯のような気候を味わうとは…。

実は2018年の今日9月11日も仙台稽古に来ていて、ブログには「今日の東北の街は涼しくて穏やかで…」と書いてありました。

それからわずか6年ですが、コロナ禍もあり、気候もすっかり変わってしまい、地球はいま大変な状況を迎えているのだと実感してしまいます。

6年前と同じ市場を訪ねてみました。

今年も秋刀魚はやはり高くて、1匹250円でした。

他にも枝豆が一盛り400円で売られていましたが、6年前の写真を見ると一盛り200円で、6年で値段が倍増していて驚きました。

気温も物価も高騰しております…

6年後のブログに書く内容が、どうか今よりも良くなってほしいと願いながら、汗を拭き拭き稽古場への道を急いだのでした。

2024年夏の自治医大合宿

皆様 お久しぶりでございます。

猛暑と仕事の山場が続いて、ブログをお休みしておりました。

松本城薪能の能経政シテや、七葉会などのいくつかの大きな舞台がおかげさまで無事に終わりました。

そして今週は自治医大宝生会の夏合宿に行って参りました。

場所は奥日光の中禅寺湖畔にある自治医大の研修施設です。

研修施設に到着すると…

なんと熊さんのポスターがお出迎えです。。

最近は全国的に熊の出没が増えているようです。

幸い合宿中に遭遇することはありませんでした。

春の自治医大合宿では何人かの部員が体調不良でお休みだったのですが、今回は新入生も含めたフルメンバーが参加してくれました。

京大若手OBの2人も参加して、私を含めて総勢9人という過去最多人数の賑やかな合宿になりました。

謡「黒塚」と、各自一番ずつの仕舞、そして自治医大にとっての”初舞囃子”を目指して全員揃って「中之舞」を稽古しました。

新入生には少々情報量の多い合宿でしたが、

「夏の成果は秋に出る!」

という受験勉強のような格言を言って励ましながら、なんとか全員が目標の稽古をクリア出来ました。

最終日には中禅寺湖から更に奥の「湯ノ湖」や「戦場ヶ原」まで足を伸ばして観光しました。

上は部員が撮影した「湯ノ滝」です。

実に涼やかです。

実際に真夏の奥日光は涼しくて、なんと2泊3日の間はエアコン無しで過ごせたのです。

稽古、食事、観光ともに誠に充実した合宿でした。

2024年夏の素晴らしい思い出として、部員達の心に刻まれた事でしょう。

もちろん私の心にも。

立ち飲み居酒屋新幹線

いつかはこんな日が来ると思っていました。。

今日は亀岡稽古を夜に終えて、帰りの新幹線で晩御飯を食べながら帰ろうと思ったのです。

いつも行く京都駅近鉄エリアにあるマーケットで食糧を買い込みました。

空豆、アジの南蛮漬け、チャーシューメンマ、チキンカツ明太子のり弁当

という我ながら美味しそうなラインナップです。

ビールなども買って、勇躍新幹線ホームに上がり、やって来た新幹線の中の様子を見て愕然としました。

自由席が絶望的な混み方なのです。

考えてみれば今日は、学校が夏休みに入って最初の週末の日曜日なのでした。。

実はこれまで新幹線で晩御飯を食べようと思って、座れなかったことが一度も無かったのです。

しかし今日は自由席通路まで人が溢れかえっています。これは絶対に座れません。

手にはズッシリと食べ物飲み物が入った袋…

なんとか晩御飯を食べる場所を確保しなくては。

自由席は早々に諦めて、指定席の空き席を探す事にしました。

ところが今日は指定席もほとんど埋まっているのです。

グリーン車ゾーンも過ぎて、これはいよいよ詰んだかと思ったその時…

12号車のドア横にこんな表示が。

そして公衆電話があった台は…

小さいながらも物が置けるスペースになっており、私の脳内には「立ち飲み大衆居酒屋」というワードが浮かんだのです。

第一弾の鯵南蛮漬け、空豆、チャーシューメンマを広げて、ビールで乾杯。

なんとか「立ち飲み居酒屋新幹線」を開店して、それなりに幸せなひと時を過ごしたのでした。

この先も、こんな状況に陥った時には迷わず12号車に向かおうと思います。

木彫の狐像

今朝は青森駅近くの宿のチェックアウトから東北新幹線までに時間があったので、青森駅から新青森駅まで歩いてみました。

これまで度々歩いたことのある、1時間ほどの気持ちの良い散歩道です。

途中でいつも曲がり角の目印にしている”稲荷神社”と額の打ってある小さな神社にさしかかりました。

鳥居の手前でちょっと頭を下げて通り過ぎようとしたのですが、何か違和感を感じて戻ってみました。

鳥居の向こうの社をよく見て、違和感の正体に気づきました。

稲荷神社では狛犬の位置に「狐像」がありますが、ここではそれがとても変わっていたのです。

対になる方はこんな感じ。

これまで私が見て来た狐像は、狛犬と比べてホッソリとしたシルエットでした。

能「小鍛冶」の後シテが被る「狐台」の狐もやはり細くて軽快な印象を与えるものです。

それがこの小さな稲荷神社の狐像は、ずんぐりとしていて、丸太から直接彫り出したのがわかるように少々荒っぽく仕上げてあります。

無骨で、どことなく「円空仏」を思わせる彫刻です。

北米先住民族の「トーテムポール」にも通じるような、強さの中に、それでも狐の可愛らしさも無理なく同居していて、私はこの狐像がとても気に入ってしまいました。

社務所も無い小さな神社で、この狐像の由来を聞く事はできませんでした。

でも横に公民館があったので、次の機会に思い切って公民館に入ってこの「木彫の狐像」の事を聞いてみようかと思います。

ねぶた小屋の夜

今日は7月16日。ただ今の時刻は19時です。

京都では今頃、祇園祭の宵山で賑わっているのでしょう。

一方の私は、北の街に来ております。

現在の気温は24℃ほどで、とても過ごしやすいです。

京都祇園祭は今月が本番ですが、青森の「ねぶた祭」は来月8月2日〜7日が本番なので、今がねぶた製作の真っ最中なのです。

今年もねぶた製作を見学に、ねぶた小屋に向かいました。

三角形の「アスパム」の麓、写真の左下に「ねぶた小屋」が並んでいます。

今は夜なので隙間からちょっと覗く事しかできません。

しかしこの時間でも小屋の中には煌々と明かりが灯り、人々が作業しています。

これは龍ですね。

こちらは武将。

題材がわからないのが残念ですが…。

そして今回は、完成したねぶたを載せる”台車”

を見つけました。

この巨大な台車がアスパムの麓に何台も据え置かれて、ねぶたの登場を待っていました。

…実は私は、ねぶた祭も、祇園祭の山鉾巡行も、生で見た事が一度も無いのです。

そろそろ一度くらい眼の前で観てみたいものです。

…そして更に続きです。

稽古を終えた22時頃に、私は再びねぶた小屋を訪ねてみました。

やはりまだ作業は続いていました。

先ほどの龍のねぶた小屋を始め、半数近い小屋に人の姿があり、音楽を流しながら作業されているようでした。

おそらく仕事を終えてからねぶた小屋に来て、夜を徹して作業されるのでしょう。

人々の熱い思いの詰まったねぶた祭、成功をお祈りしております。

現場主義の玄翁和尚

昨日の神保町稽古には、山形県新庄の曹洞宗のお寺で僧侶をしている京大宝生会若手OBが久しぶりに来てくれました。

謡稽古は「殺生石」で、いつも曲の解説資料を作って来てくださる会員さんに今回も解説をしていただきました。

それを聞いてちょっと驚いたのが、ワキの「玄翁和尚」が”曹洞宗”の高僧だったという事です。

たまたま今回来てくれた京大OBと同じ宗派だった訳です。

解説も会員さんと若手OBが交互にする形になりました。

会員さん「玄翁和尚は、總持寺の”峨山禅師”に入門して、”二十五哲”の1人と数えられた偉い僧侶です」

おお成る程。

若手OB「でも…」

ん?

「実は總持寺から”出禁”になった事があるんですよね」

何と!それは一体なぜですか?

「玄翁和尚は、總持寺の経営に参画する立場だったのに、總持寺にはあまり寄り付かずに、諸国を巡って布教活動ばかりしていました。

それで、玄翁さんが亡くなった後に、厳密には玄翁和尚の弟子達が一時期總持寺から出禁をくらってしまったのです」

成る程。事務的な仕事よりも現場で働く方が好きな人だったのですね。

何となく玄翁和尚への好感度が増しました。

若手OB「殺生石以外にも、北は秋田から南は鹿児島まで、玄翁和尚が”悪龍”を退治した、というような伝説は多く残っています」

それはまた興味深いです。

今後どこかの土地で玄翁和尚の足跡を見つけることができるかもしれません。

また移動の楽しみがひとつ増えました。

束の間の涼しさ

連日信じられない程の暑さが続いています。

暑さが一番の苦手な私にとって、家から稽古場に行く道のりが本当に難行苦行で、稽古よりも移動で体力を使っている感じです。

しかし、今日の移動した先はちょっとだけ気温が低めでした。

16時半で26℃です。

小雨模様で湿度はありますが、東京のサウナのような空気に比べたら大分ましです。

さてここはどこでしょうか…?

答えは「仙台」でした。

今は街中に「すずめ踊り」のポスターが貼られています。

有名な「仙台七夕まつり」は来月8月6〜8日だそうで、「すずめ踊り」は7月の目玉なのでしょう。

今日は束の間の低めの気温を満喫(?)して、また明日からは東京、関西の暑さに何とか耐えていきたいと思います。