無尽蔵な体力

今日は8月2日以来ほとんど1ヶ月ぶりの江古田稽古でした。

稽古日を決めた時は、「8月も30日頃になれば多少は涼しくなっているはず」と期待していたのですが、今日も朝から容赦の無い酷暑でした。。

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今週は月火水の3日間で幼稚園〜大学生までの稽古や舞台や合宿をこなして、朝起きると疲れが残って身体が些か重たい感じでした。

しかし久々の江古田稽古なので、新しい曲を始める会員さんも多く、昼から先程まで疲れを忘れてモリモリと稽古いたしました。

先程稽古が全て無事に終わると、流石に「ふう」というため息と共に疲労が戻って来た気がします。

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それにつけても今週はいくつかの場面で、若者達の無尽蔵な体力に圧倒させられました。

例えば京大の合宿では、「合宿2日目の朝に、6人くらいで朝5時に起きて寂光院まで散歩に行って来ました!」と聞いて驚愕しました。

私ならば、たとえ2日目で体力に余裕があっても、その後の稽古の事を考えて1分でも長く寝ているはずです。

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また京大合宿に飛び入り参加した高校生は、1泊して翌日昼頃にバスで帰って行きました。

その夜に彼からメールが来たのですが、「あれから下鴨神社に行って、その後京都駅前の新福菜館でラーメンと炒飯を食べて、伊勢丹の地下で柿の葉寿司をお土産に買って帰りました!」という内容で、こちらも驚きでした。

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彼は前日の夜は、京大生と共にバウムクーヘン作りなどをして、相当夜更かししているはずなのです。

しかも猛暑の京都の午後です。

やはり私ならば、”観光→ラーメン→お土産”のフルコースは絶対不可能で、速やかに新幹線に乗って眠りに入ったと思われます。。

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若者達の”無尽蔵な体力”を羨ましいとは思いますが、現在の私には望むべくもありません。

とりあえず、これからモリモリと晩御飯を食べて、明日からの仕事に備えて少しでも体力を充電しようと思っております。

岡山子供能楽教室発表会

今日はいよいよ吉備津神社にて、岡山子供能楽教室の発表会がありました。

この1ヶ月で4回も吉備津を訪れて、私はすっかりこの土地と人々が好きになっていました。

今回で一旦終了かと思うと、なんだか学校の卒業式に行く時のような寂しさを感じます。

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いつものように桃太郎線に乗って無人の吉備津駅で降りて、松並木を通って吉備津神社へ。

昼前に社務所に到着して待っていると、年上チームが先ずやって来ました。

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色とりどりの自前の浴衣に、こちらで用意したカラフルな袴をはいてもらいます。

「すっごいかっこいい〜❗️」

と如何にも高校生らしい反応で、お母さんに写真を撮ってもらったりして、テンションが急上昇していくのがわかりました。

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しかし私が「じゃあ一回羽衣キリを稽古しようか」と言った途端に、

「うえ〜…」というような声をあげて、テンション急降下です。。

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それでも、稽古してみるとシテ謡も正確に謡っているし、型もほぼ出来ていました。

皆とても緊張している様子ですが、本番はまず大丈夫だろうという目処が立ちました。

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続いて年少チームが到着して、仕舞「猩々」の稽古です。

こちらはやはり少し苦労している感じでしたが、中には完璧に覚えている子供もいて感心しました。

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稽古を終えて、いよいよ本番の舞台である”拝殿”に向かいます。

今日の岡山は晴れて残暑が非常に厳しく、拝殿も屋根はあるもののムッとする暑さです。

直前に水分補給などは終えており、子供達と我々能楽師は拝殿内にスタンバイしました。

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観覧にいらした子供達の御家族なども席につかれ、宝生和英家元の御挨拶からついに発表会がスタートしました。

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年少チームの「猩々」から、1人ずつ順番に仕舞を発表していきます。

全員もちろん初舞台で、構造も通常の舞台とは異なる難しい環境の中、全員持てる力を全て出し切って、正に必死で舞っているのがわかりました。

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僅か1ヶ月の稽古でしたが、「羽衣」の年上チームまで1人も欠けることなく舞い終えてくれました。

我々能楽師の奉納仕舞を挟んで、最後に全員で「四海波」を謡いました。

こちらも実に大きな声で元気に謡ってくれて、最初の稽古で苦労した事を思い出すと実に感慨深いものがありました。

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こうして吉備津の神様に無事宝生流の仕舞と謡が奉納されました。

ひとつの新しい歴史が生まれたわけです。

しかしここで終わりではなく、この歴史をこの先積み上げていかねば意味がありません。

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年少チームの子供の中には、「来年は妹と一緒にまた来る!」と宣言してくれた子もいました。

今年から始まって、第1回目を今日無事に終えることが出来た岡山子供能楽教室。

来年再来年と繰り返していって、いつかこの吉備津の地にもまた能楽宝生流が根付いて欲しいと願いながら、あの小さな吉備津駅から小さな桃太郎線に乗って帰途に着いたのでした。

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子供能楽教室の関係者の皆様、また吉備津の皆様、色々どうもありがとうございました。

吉備津神社の鳴釜神事

今日は3回目の岡山子供能楽教室の日でした。

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いつものように吉備津神社に到着すると、吉備津造りの本殿の前には無数の赤蜻蛉が飛び交っています。

先週は大粒の雨が降る社殿の写真を載せましたが、今週は強烈な残暑の日差しと赤蜻蛉の群舞です。

吉備津神社は来る度に違う顔を見せてくれる所なのです。

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今回私は、「鳴釜神事」を体験しようと思っておりました。

御釜殿の中にある大きな釜を焚いた時に鳴る音で、吉凶を占うという神事です。

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事前に聞いた情報として、

「この鳴釜神事は必ず当たるので、心して願い事を考えていくべし」とか、

「団体で行っても、全員同じように聴こえるとは限らず、1人だけ聴こえない場合もある」

とか、他にもかなりリアルな体験談があり、

「全然鳴らなかったらどうしよう…」と心配になってしまいました。。

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しかし折角吉備津神社に何度も訪れるこの機会に、やはり鳴釜神事を体験しない手はないと腹をくくり、社務所で祈祷料を払ってまずは「祈祷殿」で御祈祷を受けました。

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私の他に、母娘とおぼしき2人が御祈祷を受けていました。

彼女達は毎年のように鳴釜神事を訪れているベテランで、御祈祷の後に「御釜殿」まで道案内をしてくれました。

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長い長い回廊を通って御釜殿に向かいます。

母娘は、「来る度に違う音に聴こえるのです。」「前から聴こえたり後ろから聴こえたり、床から湧き上がるように聴こえることもあります。」などなど、色々体験談を話してくれました。

「でも、全然鳴らないことは一度も無かったので、きっと今日も鳴りますよ。」と心配そうな私を励ましてくれました。

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ドキドキしながら御釜殿に入り、暫し釜が焚かれるのを見て時間を過ごします。

10分程して、「阿曽女」と呼ばれる巫女さんと、祝詞を奏上する神職の方がいらっしゃいました。

阿曽女さんが鳴釜神事の簡単な説明をしてくださいます。

「天気の具合などで、どうしてか幾らやっても鳴らないことがあります。」と聞き、またまた心配になってしまいました。。

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いよいよ祝詞が始まり、同時に阿曽女さんが大釜に載った蒸籠の上で、玄米の入った笊を振り始めました。

ここからどのくらいで釜が鳴り出すのだろうか…

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と思った瞬間。

玄米の笊はまだ僅か3回程しか振られていなかったと思います。

出し抜けに「ボォーッ!」というような太く大きな音が聴こえてきたのです。

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私の横にいた母娘も思わずビクッと顔を起こしてしまう程の、腹に響くような大迫力の音が長く長く鳴り続けました。

ややして音は少し落ち着いた調子になり、祝詞も終わって鳴釜神事は無事終了しました。

阿曽女さんは釜から離れて、「直会です」と言って我々の所に来て玄米の粒をいくつかくださいました。

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そしてそれを食べようとした瞬間。

もう阿曽女さんがいない釜から、控えめながら再び「ボォーッ」という音が!

また母娘と一緒にビクッとしてしまいました。

「あら、今日はよく鳴りますわね。」と阿曽女さんは平然とされているので、まあ普通にあることのようです。

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しかし、正直ここまで大きくはっきり聴こえるとは驚きました。

何を祈願したのかは言わぬが花ですが、ちゃんと聴こえて安堵いたしました。

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御祈祷の効果か、子供能楽教室もとても順調に進みました。

仕舞も謡も前回より格段に良くなっていて、これは各々がこの1週間でちゃんとおさらいをして来てくれたのだと嬉しくなりました。

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いよいよ来週は、拝殿で神様に向けて謡と仕舞を奉納する本番があります。

今年吉備津神社に参るのもあと1回になりました。

なんだか既に少し寂しい気分なのです。

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いつもの松並木を通って、吉備津駅へと向かいました。

松の影が、青海波ならぬ緑の海に映ってそよいでいました。

東広島こども園能楽教室

今日は東広島のこども園にて能楽教室をして参りました。

私がまだ小学生で、渡辺三郎先生に稽古を受けていた頃にお世話になった方が経営されているこども園です。

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新幹線こだまで東広島駅に到着して早々にびっくりしました。

新幹線ホームに人が溢れているのです。そして改札に向かう階段も大勢の人で埋まっていて、殆ど動きません。

「これは何か特別に混む日に当たってしまったのだろうか…」と思いました。私は度々そのようなことがあるのです。

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しかしそれは見当違いでした。

7月初めのあの豪雨による土砂崩れで、東広島の交通が甚大な被害を受けたのはニュースで見ていました。

それがまだまだ復旧しておらず、広島などから来る人や、東広島からどこかへ行く人は皆新幹線を使うしかない状況だそうなのです。

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ようやく新幹線東広島駅前の広場に出ると、今度はバス乗り場に並ぶ長蛇の列が。

これは本当に大変なことだと思いました。

もっと大きな問題として取り上げて、一日も早く復興出来るようにする方法は無いのでしょうか…。炎天下でバスを待つ人々はとても疲れているように見えました。

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私は園長先生に車でお送りいただいて、豪雨の爪痕を其処彼処に見ながらこども園へ。

到着して、子供の人数と年齢を詳しく伺いました。

そこで今日2度目のびっくりが。

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「子供達は、下は1歳から上は小学校高学年までいます。合計120人です。」

1歳…!

幼稚園での能楽教室は何度もやっていますが、さすがに1歳の子供に能楽を教えた経験はありません。

どうするか、うーむと考えました。

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とりあえず、年齢で2グループに分けてもらいました。

1〜4歳チーム約40人。

5歳以上チーム約80人。

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能楽教室は、先に1〜4歳チームから始めることにしました。

この子達は、何を知っていて何がわからないのだろうか…。

①「正座して挨拶」、②「左は太陽、右は水」、③「5つまでの数」この3つの説明から能楽教室をスタートしました。

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幸いに集中力があり理解も早い子供達で、摺り足や型の体験にちゃんと付いてきてくれました。

能面を見ても怖がらずに興味津々で、仕舞もお行儀よく見てくれました。

30分程の教室を無事に終えて、休憩を挟んで5歳以上チームのスタートです。

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こちらは普段通りの内容で良いので気が楽でした。

むしろサービスで内容を増やして、岡山で教えている「四海波」の謡や、猩々の仕舞まで稽古してしまいました。

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ちょっと長過ぎるかな?と思いましたが、やはり集中力を切らすことなく1時間程の教室を熱心に体験してくれました。

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1歳の子供に能楽がどう感じられたのか、聞く術もありません。

しかし願わくば、潜在記憶のどこかに残っていてくれたら良いと思います。

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園長先生のお嬢さんは、少しの間だけ私のように渡辺三郎先生に仕舞を習っていたことがあります。

今日私の仕舞「猩々」を見て、驚くことがあったそうです。

「園の運動会でのダンスを作った時に、無意識のうちに仕舞の動きを取り入れていたことに、猩々を見て気がつきました!」

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やはり潜在記憶は大人になっても残っているのです。心強く感じました。

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もし次の機会があれば、1歳児向けの稽古の研究もしてから臨みたいと思います。

再び吉備津神社へ〜後編〜

吉備津神社の子供能楽教室では、比較的小さな子供と、年上の子供を2グループに分けて稽古しています。

前半の1時間が小さな子供チーム、後半1時間が年上チームの稽古時間です。

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先週の稽古の様子を聞いたところ、小さな子供チームは集中力の維持が中々難しく、特に謡(高砂の”四海波”)で相当苦労したようです。

そこで私は稽古形態を工夫することにしました。

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これは柏の幼稚園能楽教室で経験したことなのですが、「小さな子供は一瞬でも間延びした時間があるとすぐに集中力が切れる」のです。

これを打開するには、「同じことを長くするより、短い時間で区切って次々に違うことをする」のが経験上良い方法と思われました。

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今回の場合、集まった小さな子供チームに「最初は仕舞から始めます。」と言って仕舞「猩々」の稽古を始めました。

先週「猩々」の前半を稽古したと聞いていたので、後半に出てくる新しい型を先ずいくつか予習したのです。

そして5〜6分稽古したところで、あっさりと「はい、仕舞は一旦終了です!」

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間髪入れずに「はい座ってください!謡の稽古します。」

謡は、昨晩製作した秘密のテキストを持参していました。

これを使うと誰でも簡単に「四海波」が必ず謡える、という我ながら良い出来栄えのテキストです。

このテキストを手に、謡の稽古をこれも5〜6分。

そして「はい!謡も一旦ここまでです!立って仕舞の稽古しま〜す!」

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大人相手にこのやり方だと、立ったり座ったりですぐに疲れてしまうでしょう。

しかし子供の体力は無尽蔵です。

くるくると入れ替わる仕舞と謡の稽古に、何の抵抗も無くついてきてくれました。

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仕舞、謡、仕舞、謡…と4セットほど繰り返すと、仕舞「猩々」と謡「四海波」が一通り完成しました。

ここで年上チームが到着して、四海波テキストを手に合同で一度だけ稽古したら小さな子供チームは今日は解散。

再来週の本番までになんとかなりそうな見通しが立ちました。

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次に年上チームです。

こちらは先週の稽古情報で「恥ずかしがって中々謡の声が出ない」とのことでした。

これは普段稽古している澤風会でも経験していることで、大人になるほど大きな声を出す事に抵抗感を覚えるものです。

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こんな時に無理に大声を出させると、逆に抵抗感が強くなって、最悪謡が嫌いになってしまう恐れもあります。

ここは決して焦らずに、「まあ声は出せる範囲で良いよ」などと言って、精神的負荷を軽くするようにしました。

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そして仕舞「羽衣」の稽古では、巫女舞の経験者に「巫女舞ではどんな手の握り方をするの?」とか、「構えはどうするの?」などと逆に教えてもらったりしたのです。

実は今回私は、「巫女舞のやり方を仕舞の稽古に反映出来ないか」ということを考えていました。

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結果的には、彼女たちが巫女舞を舞ったのはもう何年も前の事で、詳細には覚えていないようでした。

目論見はちょっと外れてしまいましたが、仕舞「羽衣」に関しては、やはり同じ「舞」の経験があるだけあって非常にスムーズに進みました。

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稽古をスマホで撮影しても良いと言うと、2台のスマホを使って、友達の仕舞を前と横から同時に撮影し出したので驚きました。

どうやら何らかのアプリで画像をシェアするようです。

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仕舞の筋の良さを褒めつつ、やはり短い時間で謡と交互に稽古を進めると、徐々に謡の声も出てきた気がしました。

謡も最後に「四海波」を一通りスマホに録音してもらって、1時間の稽古を終えました。

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今回は本番での達成感と同時に、「謡も仕舞も稽古が楽しかった!良い経験になった!」と子供達に思って欲しいのです。

来週の稽古と再来週の本番、私の経験と知力体力を総動員して、何とか良い稽古と舞台にしたいと思います。

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帰りは大粒の雨が降ってきました。

蒸せるような湿気の中を、松並木を通って吉備津駅へ。

帰りの桃太郎線は普通の車両が来ました。

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画面右に写っている男性が変な人で、ホームの小さな待合室で大声で「君が代」を歌ったりしていました。

皆怖くて見て見ぬ振りをしていたのですが、何故か私に向かって「そこのあなた!安全靴、はいてますかぁ⁉️」と大声で聞いてきたのです。

「はあ…?」という顔をすると、「安全でない時に履くのが安全靴。わかりますかぁ⁉️」

とりあえず「はあ…。」というと、何やら満足したようで、親指をビシッと立てて車両に乗り込んでいきました。

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なんだか不思議な終わり方をした、今回の吉備津行きでした。

来週は一体どんなことが起こるのか、またブログでご報告したいと思います。

再び吉備津神社へ〜前編〜

今日は岡山の吉備津神社での子供能楽教室の日です。

先週水曜日は松本城薪能だったので、私は2週間ぶりに吉備津神社に向かいました。

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岡山駅で「桃太郎線」に乗り換えようとホームで待っていると…。

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すごい車両が到着しました。「桃太郎スペシャルラッピングカー」という趣きです。

秋葉原で同じような自動車を見たことがあります。。

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車内の吊り広告もこんな感じです。

爽やか美少年の桃太郎対…

鬼。

鬼がまたイケメンで、金棒型の刀を持っています。強そうです。

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吉備津駅に到着しました。

車両側面はこんな感じ。

流石に犬、猿、雉はイケメンではありませんでした。

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吉備津駅の全景。

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ホームにあるのは小さな待合室だけです。

売店や自販機などは全くありません。

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駅から松並木を通って吉備津神社へ。

曇っているので、前回よりも暑さが控えめで助かりました。

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松並木の横は田圃となだらかな山々。

実に長閑な日本の原風景です。

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吉備津神社の前にあるお土産屋さんの名前も「桃太郎」。

そしてそこに入って食べたお蕎麦が…

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「桃太郎そば」。徹底して桃太郎です。

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写真上の方に見える丸くて黄色っぽいお餅が「きびだんご」でした。

食べると柔らかな食感で甘さは無く、少しキビらしい風味がして美味しかったです。

他に山菜、わかめ、蒲鉾、ツミレ、きのこ、鶏肉、卵、などなどが入った豪華なお蕎麦でした。

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しっかりとお昼を食べて、いよいよ神社へ。

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美しい造りの社殿を横に見て、社務所に向かいます。

さあ、今日はどんな能楽教室になりますか。

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能楽教室の模様は、また明日書かせていただきたいと思います。

昨日の吉備津神社

新幹線で岡山に到着して、在来線乗り換え口に向かいました。

駅員さんに「吉備津まで行きたいのですが、何線乗り換えですか?」と尋ねると、「桃太郎線です」との答えが。

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一瞬耳を疑ったのですが、表示板を見ると…

確かに「桃太郎線」です。

ゆるいネーミングに若干の脱力感を覚えながらホームに向かうと、待っていた電車は2両編成の古いディーゼル車でした。

桃太郎線はどうやら私の好みのとても小さなローカル線のようです。

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ガタゴト揺られて吉備津駅に到着するとそこは、小さなホームにバス停のような待合室があるだけの無人駅でした。

ドラマの撮影に使われそうな鄙びた駅で、こちらも私の好みにピッタリです。

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駅から吉備津神社までも、商店すら一軒も見当たらない長閑な田園風景が広がっているだけでした。

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参道の松並木の僅かな日陰を辿るように歩いて行くと、やがて吉備津神社が見えて来ました。

奥に見える階段に見覚えがあり、「ああ、30年ぶりにやって来たのだな…」としみじみ思いました。

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さていよいよ社務所で能楽教室が始まります。

子供達が来る前に色々打ち合わせをしたのですが、「子供の中には吉備津神社で巫女舞をしている子が何人かいます」とのこと。

おお、それは興味深いです。おそらく摺り足などは共通しているのでは…

と楽しみに待っていました。

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やがてやって来た子供達の中で、年上の3人が巫女舞経験者のようで、更にそのうちの2人姉妹のお母さんが吉備津神社の「鳴釜神事」に携わる巫女さんとのことでした。

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私「実はもう30年ほど前に修学旅行で吉備津神社を訪れて、”鳴釜神事”を拝見しました」

するとお母さんは、「その頃に鳴釜神事に携わっていたのは、おそらく私の上司のそのまた上司です」

なるほど、二世代を経て再訪した訳ですね。

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今回は時間がありませんでしたが、次回の教室の時には「鳴釜神事」を再び拝見したいと思っております。

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吉備津神社の神聖な雰囲気に包まれた稽古場で、子供達の中にも巫女舞経験者などがいて、なにやらこれまでの能楽教室とは一味違う経験が出来そうでとても楽しみです。

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巫女舞経験者の1人が、最後の発表会では1人で舞うと聞いて「えーっ!1人で⁉︎」と目を丸くして本気で驚いていました。巫女舞は同時に何人かで舞うのですね。

彼女達にとっても、きっと色々驚きに満ちた教室になるのだろうと思います。

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この教室の模様は、また続きをご報告したいと思います。

吉備津神社の思い出

今日は「八朔」、8月の始まりです。

私は昨夜、宝生能楽堂の舞台で能「鵺」の稽古をしている途中で日が変わって8月を迎えました。

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そして今朝は早起きして、新幹線で岡山に向かっております。

今日は新しい企画、「岡山子供能楽教室」の開校式があるのです。

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この子供教室を岡山のどこでやるのか、詳しく聞いたのは先月のことでした。

その場所が「吉備津神社」の中にある施設であると聞いて、正直かなり驚きました。

「吉備津神社」は私にとって非常に思い出深いところだったのです。

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私はずっと昔、高校の修学旅行で岡山を訪れました。

私は当時修学旅行委員をやっていて、岡山における「コース別行動」のコースの1つをプロデュースしていました。

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委員が10種類ほどのコースを設定して、学年400人ほどが各コースに分かれて1日を過ごすのです。

「備前焼コース」、「工業コース」、「自然コース」、「倉敷コース」などがある中で、私がプロデュースしたのが「桃太郎コース」でした。

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正式名称は「桃太郎伝説と吉備路巡りコース」で、内容は「伝説に彩られた地・吉備路をレンタサイクルで自由に観光する」というものでした。

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そのコースのスタート地点が「吉備津神社」だったわけです。

吉備津神社近くでレンタサイクルを借りた40人ほどが、そこから各々自由に散らばって、半日吉備路サイクリングを楽しんだのです。

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あの時、「数十年経って君は能楽師になり、子供能楽教室の講師としてこの吉備津神社を再訪することになるよ」と言われても、おそらく信じられなかったでしょう。

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まもなく到着する吉備津神社。

そこでどんな子供達と出会って、どんな能楽教室になるのか。

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不思議な感慨と期待感を抱きつつ、新幹線は今岡山に到着しました。

能楽教室、頑張ってまいります。

今年も幼稚園に行って参りました

今日は毎年恒例の、千葉県柏の幼稚園での能楽教室に行って参りました。

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昨年は教室に入るなり、「あ〜!侍だ〜!!」と言われましたが、今年の子供達はどうでしょうか…?

また人数が昨年の48人に比して今年は73人と、かなり大勢です。

果たして収拾がつくのか、ちょっと心配でもありました。

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朝9時半にいよいよ教室に入ると…

「あ〜!着物着てる〜!!」

おお。今年は至極真っ当な反応です。

挨拶から始めて、「摺り足」や「シオリ」、「六つ拍子」などの稽古では、やはり何人かハイテンションになって、全体が賑やかになりかけました。

するとすかさず園長先生が「みんなうるさい!」と一喝。

そして「騒ぐと先生こうなっちゃうよ…」と、今稽古したばかりの「シオリ」でしくしくと泣いてくださったのです。

そんなこんなで、何とか最後まで終えることができました。

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そして最後の質問コーナーで、ちょっと驚く事がありました。

先ずひとりの男の子が、「先生たちは”文楽”もやりますか?」と質問して来ました。幼稚園で”文楽”を知っているとは大したものです。

「我々はやりませんが、文楽と能はとても近い関係ですよ。」と答えたのですが、ひと通り質問コーナーが終わったところで再びその男の子が手を挙げて、大きな声で、

「僕を弟子にしてください❗️」

と言ったのです。すると隣の男の子もやはり

「僕も弟子にしてください❗️」と言って、2人できちんと正座してさっき覚えたばかりの「よろしくお願いします‼️」という正式な挨拶をしてくれたのです。

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もう10年もこの幼稚園で能楽教室をやっておりますが、弟子入りの希望者は初めてでした。

帰り際に園長先生に「彼らが本気で稽古したいようなら、いつでも連絡をください」とお願いして帰って参りました。

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思えば色々な場所で「能楽教室」をやっておりますが、その場で弟子入りというパターンは皆無です。

果たして今回が初めての例になるのか、しばらく楽しみに待ちたいと思います。

贅沢な能楽教室

今日は京王線沿線の女子中学校で能楽教室のお手伝いをして参りました。

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中学2年生を対象に毎年この時期に開催される能楽教室で、私ももう5回目くらいの参加になると思います。

「今年の子供達は、ちょっとやんちゃらしいですよ」と事前に聞いていたのですが、始めてみると騒ぎもせず、飽きて余所見したりもせずに、面白いところでは良く笑ってくれるという、非常に有り難い素直な生徒さんたちでした。

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朝9時から午前中いっぱいをかけて、四種類の能楽囃子と仕舞の所作を全て体験して、最後に「船弁慶」の一部を鑑賞するというとても贅沢な能楽教室です。

おそらく大半の生徒さんが「能楽」というものに初めて触れる機会だったはずです。

これはある意味で責任重大です。もしここでマイナスの印象を持たれてしまったら、この人たちは今後の長い人生で能楽に二度と接してくれないかもしれないのです。

逆に「能楽は面白かった」という記憶が強く残ってくれたら、将来舞台を観に来てくれたり、稽古を始めたりしてくれる可能性もあります。

果たして今日の生徒さん達の反応はどうでしょうか…?

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例えば大鼓の体験の時のこと。

大鼓は構えて打つのもさることながら、「よ〜オ〜、ほ〜オ〜」という「掛け声」がなかなか難しいのです。特に「オ〜」の部分で裏声になるのが、大人でも恥ずかしくて出来ないことが多いのです。

しかし今日は声を揃えて「よ〜オ〜!」と裏声もしっかり出してくれていました。

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最後の能楽鑑賞でも、ほんの数人が眠そうでしたが大半はとても熱心に鑑賞してくれました。

つい先程自分たちが体験したお囃子の音や掛け声や、また仕舞の動きなどが、すぐ目の前で演じられるのですから、舞台への心の入り方が全く違うのでしょう。

この生徒さんたちの心に「能楽」が良いものとして残ってくれているように願っております。

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終わって教頭先生に、「やんちゃどころか非常に大人しく素直な良い生徒さんでした」と話したところ、先生は「いや〜、それはお互いに牽制し合っていたのでしょう」と仰いました。

成る程。やんちゃしたり牽制し合ったり、色々難しい年頃なのですね。。