記憶に残る日にするために

私が能「鵜飼」のシテを勤める「五雲会」が、いよいよ明日本番を迎えます。

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今回は澤風会郁雲会の皆さんに加えて、京大宝生OB会の方々、また京都からは京大宝生会現役達、そして松本から、仙台から、青森からも、合わせて50人を超える知己の方々が観にいらしてくださる予定です。

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そして驚いたことに、15年前に京大宝生会で能「鵜飼」のシテを舞ったOBが、ドイツから今回の私の「鵜飼」に合わせて一時帰国して観に来てくれることになりました。

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さらに。

京大宝生会から今春自治医科大学に転学した青年が、早速能楽部を立ち上げた話を先日ブログに書きました。

その自治医科大学能楽部員と顧問の教授が、明日初めて宝生能楽堂にやって来るというニュースもあるのです。

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明日は色々な意味で記憶に残る日になることでしょう。

でも先ずは能「鵜飼」の舞台を無事に勤めることが第一です。

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今朝は渋谷のNHKに行き、ラジオ録音で「采女」の地謡を謡いました。

その後に水道橋に行き、昨日の申合で御指摘いただいた点をいくつか修正するための稽古をしました。

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胴着など明日必要なものの準備も終わって、あとは静かに本番を待つばかりです。

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皆様明日はどうかよろしくお願いいたします。

ギャラリーでの紫明荘組稽古

今日は京都紫明荘組の稽古でした。

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紫明荘が使えなくなってから、いくつもの稽古場を並行して使ってきた紫明荘組稽古です。

今回はまた新しい場所を使うことになりました。

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四条木屋町から高瀬川沿いに5分ほど下った所にあるギャラリーです。

築100年以上の町屋を改装した建物で、窓のすぐ前を高瀬川が流れるという何とも風情のある稽古スペースでした。

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そしてギャラリーだけあって、稽古を始めると何人もの芸術家の方々が見学に来られたのです。

写真をベースにした現代美術作品が、三十三間堂に飾られているという方など、それぞれ個性的で魅力的な皆さんでした。

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ここ2年ほど色々な場所で紫明荘組稽古をすることで、人との出会いが確実に増えたと思います。

今日の出会いによって、将来なにか新しい企画や舞台が生まれたら嬉しく思います。

ミュージシャン大集合…?

今日は江古田稽古でした。

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午後は謡の団体稽古で、夕方16時頃から個人稽古に移行します。

仕舞の個人稽古をしていると、横の待合室でおもむろに私に向けてスマホのカメラを構える人が。。

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謡の稽古を終えたばかりの、常に元気一杯のボーカリストの方でした。

パシャパシャと何枚分かのシャッター音が聞こえました。

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仕舞稽古を終えて、「今のはもしかして宣伝用でしょうか…?」

と聞いたら、

「そうです!知り合いに何人か興味を持っている人がいるのです!」

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おお、それは有り難いです。

実はこの4月から、受験準備などのために、3人の中高生がお休みしているのです。

なので、夜の時間帯が結構空いています。

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ボーカリストさん「それはつまり、今がチャンスってことですね!わかりました。頑張って宣伝します!」

いや本当に有り難いことです。

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「江古田近辺の知り合いのミュージシャンは皆誘ってみます!」

え?

なんと皆さんミュージシャンなのですね。

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もしかしたらちょっと未来の江古田稽古場では、夜にはミュージシャンの方々が集合するということになるのかもしれません。

それはそれで大変面白そうなので、期待してお待ちしたいと思います。

話題は豊富なのですが…

今日は午後に国立能楽堂にて能「藤栄」の地謡を謡い、その後宝生能楽堂にて私自身の能「鵜飼」シテと能「草紙洗」ツレ貫之の稽古を受け、さらにその後夜に田町稽古でした。

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田町稽古では、産経新聞の読者投稿欄に先日京都大江能楽堂にて開催された「関西宝連」をご覧になった方の投稿が載っていた話を聞き驚きました。

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更に、今日も自治医科大学から授業を終えて田町に来てくれた青年より、「自治医科大学能楽部」の大学への申請が認められたとの嬉しいニュースもありました。

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色々話題は豊富なのですが、今日は帰宅してからも細かな仕事がまだまだ残っており、短いのですがこれにて失礼いたします。

ちょっと背伸びですが…

今日は松本稽古でした。

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松本駅に到着すると、乾いた熱気が身体を包みました。

駅前の気温計は32℃。

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しかし乾燥しているので、不快感はありません。

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稽古場では、前半に2人の開智小学校の男の子が来てくれました。

2年生の男の子は、既に舞台を何度も踏んでいるベテランです。

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仕舞「安宅」を今日で卒業して、「次の仕舞は何にしようか?」とお母様が聞いたところ、なんと「加茂がしたい!」と言ったのです。

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仕舞「加茂」は、京大宝生会では3回生相当の難易度の曲ですが、去年松本稽古場の先輩が舞ったのを見て格好良いと思ったそうです。

ちょっと背伸びですが、ここは本人のやる気に賭けて、「加茂」を始めてみました。

“飛び返り”まで稽古したのですが、とても楽しそうに稽古していて安心しました。

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4年生のサッカー少年は、今年から稽古を始めたばかりですが、こちらも今日から思い切って仕舞「竹生島」の稽古を始めました。

身体を使う、型の大きな仕舞の方が向いているように見えたのです。

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こちらもやはり背伸び気味の難易度でしたが、終わってから「楽しかった」と照れながら言ってくれました。

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松本澤風会の舞台は11月に予定されているので、暫くは実力をつけるための時期になります。

頑張ってちょっと難しい仕舞に挑戦して、11月には大人の会員さんも含めて見所が驚くような上達ぶりを発揮して貰いたいと期待しております。

風に吹かれて…

昨日は全国的に記録的な暑さになりました。

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「関西宝連」が開催された大江能楽堂は、舞台と見所ではエアコンがよく効いて涼しかったのですが、楽屋の廊下はエアコンがありません。

廊下の気温計は午後には31℃を示していました。

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関西宝連の後半には、京大宝生会は素謡「清経」、仕舞「三輪キリ」、舞囃子「船弁慶」「春日龍神」、そして半能「高砂」とほとんど立て続けに出番がありました。

上回生は汗だくで舞台から帰って来て、廊下で更に大汗をかいてからまた舞台に出て行くという可哀想な有様でした。。

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来月末の全宝連の舞台では、熱中症にならないように充分な注意が必要だと思います。

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そして京都は今日も同じくらいの暑さでした。

私はその暑さの中、紫明荘組稽古のために「ゲストハウス月と」に向かいました。

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汗をかきながら「月と」に到着すると、いつもは閉まっている玄関の引戸が全開になっています。

「珍しいな…」と思いながら2階の和室に上がると、なんと2階の窓も全て全開になっていたのです。

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北側の窓から覗くと、向かいのゲストハウス棟の何ヶ所かの窓も同様に全開でした。

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最初少しの間は、「エアコンが恋しいなぁ…」と思ってしまいました。

しかし稽古を始めてみると、実に良い風が和室を通り抜けていくことに気づいたのです。

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和室だけでなく、「月と」全体を爽やかな風が吹き抜けているようでした。

宿泊客が窓辺に椅子を出して、風に吹かれて読書をする姿がとても心地好さそうに見えます。

昔ながらの日本家屋の”自然と共生する力”を改めて実感しました。

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また、窓を開けることで思いもよらぬ効果がありました。

仕舞の稽古をしていると、全開の窓の向こうに丁度”丸太町通”が見えます。

そしてその丸太町通の向こう側の歩道を歩く人々が、結構な確率でこちらを興味深げに眺めていくのです。

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確かに、古民家の窓から扇を持って舞う人が見えるというのは、京都らしい風情ある景色なのでしょう。

中にはわざわざ立ち止まって見ている人までいました。

窓を開けるだけで、良い宣伝効果が得られたわけです。

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夕方になると気温も少し下がって来て、風は一層気持ち良く吹いて来ます。

結局1日エアコンを使わずに、実に健康的な稽古日になりました。

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流石に真夏には難しいと思いますが、これからも「月と」では可能な限り窓を開けて稽古して、日本家屋の良さを味わいたいと思います。

「ずく」とは如何に…?

今日は芦屋稽古で、謡の稽古曲は「加茂」でした。

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シテ謡で「あざあざしくは申さねども…」

という文句があり、「あざあざしい」とはどういう意味だろうと思って調べてみました。

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するとあっさり「鮮鮮しい。はっきりしている様」

と出てきて、拍子抜けしました。

「鮮やか」の「あざ」だったのですね。

知らない言葉はまだまだ沢山あるものです。

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そう言えば先日の松本稽古の時に、面白い言葉を知りました。

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稽古が終わって何人かで食事をしている時のことです。

そのお店の御主人がわざわざ能登半島に出かけて釣ってきたという「黒鯛の刺身」と、同じくお店の女将さんがわざわざ木曽の山奥で採ってきたという大量の「山菜の天ぷら」が出てきました。

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どちらも大変美味しかったのですが、それを食べた地元松本在住の会員さんが、

「美味しいけど、これを採りにいく’ずく’が無いなあ」

と。

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私「’ずく’ってなんでしょう?」

会員さん「う〜ん、”めんどくさい事を苦にせずやる為のエネルギー”ですかね…」

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また別の会員さんは「そうそう。”あの人は意外と小ずくがあるよね〜”とかも言いますね」

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なるほど。

ずく。

微妙なニュアンスを僅か2文字で表現していて、大変興味深い言葉です。

また、自分で使ってみたくなる言葉でもあります。

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私は本来’ずく’の全く無い人間なのですが、内弟子の頃には’ずく’を全開に出していた気がします。

しかし今はまたせいぜい’小ずく’があるくらいに戻ってしまいました。。

明日からも’小ずく’エネルギーを何とか絞り出して、頑張って参りたいと思います。

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…なんだかちっとも上手く使えていませんね。。

もっと良い文例を考えたいのですが、’ずく’が無くなったので今日はこれにて…。

涼しげなお坊さん

今日は昼から江古田稽古でした。

三ノ輪の自宅を出ると、外は完全に夏の暑さです。

暑さの苦手な私にとって辛い季節が、早くもやってきてしまったようです。。

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上野で山手線のホームに上がったところで、1人の若いお坊さんが電車を待っていました。

紗のような薄手の夏用の僧衣を纏っていて、頭は当然ながら丸坊主です。

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これが私には実に涼しそうに見えて、

「坊主頭羨ましいなあ…」

などと不謹慎にも思ってしまいました。

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江古田稽古が終わって、帰りの電車で携帯のニュースを見ると、週末の京都はなんと35℃まで上がる予報です。

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土曜日には大江能楽堂にて「第120回京宝連」にあたる関西宝連が開催されます。

学生達はさぞかし暑い思いをすることでしょう。

我々能楽師も最後に番外仕舞を舞うことになっております。

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「いっそのこと丸刈にしていこうかな…それは無理か。でもせめて着物はもう夏用の絽にしたいなあ。。」

とは思えども、5月ではまだ絽にするわけにもいきません。

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昼間の涼しげな若いお坊さんを思い出して、「やっぱり羨ましいなあ…」と溜息をついた帰り道でした。

僅か2ヶ月足らずで…!

今日は田町稽古でした。

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栃木の大学から、授業を終えて2時間かけて田町に駆けつけてくれる青年がいます。

今日約1ヶ月ぶりに顔を見せてくれました。

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彼はこの3月までは京大宝生会で稽古していて、4月から心機一転新しい大学に行くことにしたのです。

そろそろ新天地の生活にも慣れてきた頃だろうか…と思っていると、彼から驚くべき話を聞いたのです。

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「実は大学で能楽部を立ち上げました!」

え?

まだ入学して2ヶ月にもならないのに、どういうこと…⁉︎

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「知り合いを数人集めて、顧問の先生も見つけて、今大学に申請しているところなのです!」

なんと!一体どんな知り合いが集まったのでしょうか?

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「えーと、1人は”大和絵”が好きな人、あとは着物が好きな人、歌舞伎が好きな人、狂言を少し体験したことがある人などなどです」

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なんとなんと、それぞれ一癖ありそうな、面白い人達ではないですか。

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今後の活躍形態はこれから模索していくとのことですが、とりあえず6月15日の五雲会に何人か観に来てくれるそうです。

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京大宝生会からいなくなってしまうと聞いた時は寂しく思いましたが、彼の行動力はむしろ新しい大学で大きく発揮されたようなのです。

私の想像の斜め上を行く展開で、非常に嬉しい驚きでした。

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彼の大学の能楽部と、京大宝生会が今後交流していってくれると、また色々と面白いことが出来そうです。

私も出来る限りサポートしていきたいと思います。

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復活への一歩を踏み出した日本女子大宝生会と並んで、令和元年に新しく歩き出したこの能楽部が、末永く続いていくことを願ってやみません。

鶴亀稽古で気づいたこと

昨日の松本稽古では、また新しい見学の方が来られました。

最近松本では新しい会員さんが次々と増えて、昨年暮れから昨日迄に大人6人、小学生1人が増えたことになります。

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新しく設けた「初級者向け謡」の参加者も多くなり嬉しく限りです。

曲は、昨日から「鶴亀」になりました。

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ベテランの会員さんでも、途中から入会して「鶴亀」はまだ習っていないという人は一緒に稽古しました。

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初心者向けなので、”アタリ”や”マワシ”などの記号も一から説明して、ゆっくりと稽古を進めていきます。

ベテラン組には少々退屈な稽古になるかもしれないな、と心配しながら冒頭から初同までの2ページほどを30分かけて稽古しました。

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終わってベテランの人に「すみません、ちょっと物足りなかったのでは…?」

と聞いてみると、

「いえいえ、初めて聞くことがあって良かったです」

との答えが。

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ベテラン組の謡稽古では、説明する内容を少しずつ省略して、稽古スピードを徐々に上げていく方針をとっています。

しかし、偶に振り返って細かな説明をするのも大切だと、昨日の「鶴亀」稽古で気がつくことが出来ました。

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短期間で沢山の新人さん達を迎えた松本稽古場。

今後ベテラン組と上手く融合して稽古場全体が活性化していくように、私も色々工夫して頑張って参りたいと思います。