今朝のこと

今朝は伊豆の大仁稽古に行くために、朝自宅を出て三ノ輪駅に向かいました。

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朝8時前の地下鉄日比谷線はいつものことながら物凄い混雑で、最初の一本には乗れずにホームで呆然と見送りました。

次の電車には必ず乗らなければと思ったところで、携帯が震えてニュース速報が入って来ました。

「地震発生 大阪北部で震度6弱」

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身体の真ん中がスッと寒くなるようなとても嫌な感覚を覚えました。

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しかしとにかく次の電車にねじ込むように乗って、東京駅を目指しました。

東京駅に到着して新幹線改札が見えたところで、もう異変に気がつきました。

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改札前は黒山の人だかりで、マイクを持った駅員が、大阪での地震の影響で新幹線は運転見合せと説明しています。

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携帯には次々と情報が入って来ました。

「強い揺れを観測したのは、高槻、茨木、枚方、山崎など…」

どこも私にとって一番身近で大切な人達がいて、大事な香里能楽堂や、稽古場である宝寺のある地名です。

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東京駅に停滞している自分を本当にもどかしく思いながら、何人かの人にメールで安否を問いました。

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結局しばらく待っても東海道新幹線は動く気配を見せず、伊豆の稽古は延期になってしまいました。

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そして夜からは仙台稽古の予定だったので、今度は東北新幹線に乗って移動を始めました。

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何人かの知人からは無事だったというメールが返って来て少しホッとしたのですが、並行して現地の被害状況もわかって来て、これは大変な災害だと思いました。

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しかし、東日本大震災の時もそうでしたが、結局私には直接出来ることは何も無く、ただ行ける稽古場があればそこに行って、頑張って稽古をすることしか出来ないのでした。

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仙台には無事に到着して、夕方から先ほどまで稽古をしました。

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今も大阪や京都や神戸の人達が、そして私の大切な知人達も、余震の心配などをしながら過ごしているかと思うと、いたたまれない気持ちになります。

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どうか被害が広がらないように心から祈りつつ、私は明日もまた別の場所に移動して、私に出来る唯一の事、稽古をしようと思います。

鍛え直す。

舞台と稽古が立て込んでおり、なかなか喉を休める時間がとれない日々が続いております。

しかし昨日会員さんから良い言葉をいただきました。

正確にはその会員さんの知り合いのボイスパフォーマーの方の言葉です。

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「喉が枯れたら、そのガラガラ声から新しい声を発見する!」という内容の言葉で、成る程、そんな前向きな考え方もあるのかと感心いたしました。

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「新しい声」という訳ではないのですが、喉が不調な分、それ以外の部分でいかにカバーするかを毎日考えています。

「口の開け閉めはきちんと大きく」とか、「腹筋に力を入れて、喉には余計な力をかけずに」など、人には毎日のように言っていることを、もう一度自らの身体で確認することが出来ています。

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数年前に、膝を怪我したサッカー選手が、その治療期間を使って上半身など膝以外の部分を鍛え直して、結果より強い選手となって戻って来たのをニュースで見ました。

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私も喉の調子が戻ってきたら、その前よりも良い謡になっているように、この機会に喉以外の要素を色々と鍛え直しておきたいと思っております。

蜂蜜の豊穣

昨日は松本稽古でした。

松本では、稽古前に先ずは会員さんの骨董品店に立ち寄ります。

その後稽古場に向かうのですが、途中でやはり会員さんのイタリア料理店があり、そこも覗いて挨拶をしていくことが多いのです。

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昨日もランチの終わった時間にそのイタリア料理店の前を通ると、店内の会員さんが出て来てくださいました。

「先生!こんにちは!」

私「おお、ごんにぢは…」

「先生、声どうされたのですか?」

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…そうなのです。

先日の夜能「夜討曽我」の後から、声が枯れてしまって中々本調子に戻ってくれないのです。。

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私が「ちょっと声が枯れてしまって…」と言おうとして、「ちょっと声が…」まで言ったところで、会員さんが「そうだ!ちょっと待っていてくださいね!」と店内に駆け込んで行かれました。

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何だろうと思っていると、ややして戻って来られて「先生これをどうぞ!」

その手にはジャムのような小瓶があり、中身は黄金色に見えます。

おお、これはもしや蜂蜜ですか⁉︎

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「そうなんです、この蜂蜜美味しいんです!」

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実は喉の回復の為に色々調べたのですが、「蜂蜜」が一番効果があるようなのです。

自分で買おうかと本気で思っていたところでした。

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「ありがとうございます!ちょうど蜂蜜が欲しかったのです。助かりました!」と有り難く頂戴して、稽古場に向かいました。

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そして稽古場で早速、先ずは熱いお茶に溶かして飲んで、更に直接掬って舐めてみました。

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…なんと美味しい蜂蜜でしょうか。

最初口に含むと、飾り気のない自然な味に感じられました。

しかしやがて口の中で溶けるにしたがって、「豊穣」とでも表現したくなるような豊かな彩りのある濃い甘さが、口一杯に広がっていきました。

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その甘さが喉に流れていくと、これは確かに痛んだ喉を癒してくれそうだと感じられたのです。

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この蜂蜜は、岩手県の…

リンゴと桜の花から採れたものだそうです。

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私が青森稽古の時に東北新幹線で通る、「水沢江刺」の近辺でしょうか。

4月や5月の稽古の時に新幹線の窓外に見えた桜やリンゴの花から、蜜蜂達がせっせと集めてくれた蜂蜜を今私が美味しくいただいているわけです。

しかもその蜂蜜が喉を癒してくれる。なんだか不思議で、とても有り難い気分になります。

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今週末の京都満次郎の会での能「熊野」ツレまでに、この蜂蜜の力を借りて喉を回復させたいと思います。

素戔嗚神社の神輿振り

今朝目が覚めると、窓の外から微かに賑やかな音や声が聞こえて来ました。

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そして松本稽古に向かうべく家を出ると声は一層大きくなり、「ワッショイ!ワッショイ!」という掛け声の合間に「ピッピッ!」という笛のリズムが加わっています。

金曜日から今日にかけて、家の近所の「素戔嗚神社」の「天王祭」という大きなお祭りが開催されているのです。

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掛け声のする方を覗いてみると…

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遠くに御神輿が見えます!こちらに段々と近づいて来ます。

しかし…

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何やら様子が変です。神輿がゆらゆらと左右に揺れているのです。

写真手前の男の子もそれに合わせて…

ゆらゆらと揺れています。

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危ない、倒れる!

と思ったところで、「ヨイショ〜‼️」という掛け声とともに神輿が起き上がり…

今度は逆方向に倒れていきます。

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「ヨイショ〜‼️」ともう一振り!

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これは「神輿振り」と呼ばれる天王祭の名物なのです。

神輿を荒々しく左右に振り倒すことで神威を増して、疫病を退散させるのだとか。

如何にも江戸のお祭りらしい、勇壮な光景です。

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一番大きな「本社神輿」は違う町内を練り歩くはずなので、これはちょっと小振りな神輿です。

しかし、それを担ぐ氏子さん達は実に活き活きと楽しそうです。

この祭のために生きている!という感じに見えます。

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神輿が真横を通り過ぎていきます。

ちょっと驚いたのが、担ぎ手は壮年男性に限らずに、老若男女が入り混じっているのです。

町内総出でお祭りに参加しているようで、それもまた良いなあと思いました。

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台の上に神輿を置いて一休み。

半纏姿のおじいさんが、「若ぇのはもっと気合い入れて担ぎやがれってんだ!」と正統派べらんめえ口調で声を張り上げています。

この町には昔から綿々と続く「江戸」がしっかり息づいているのだなあと嬉しくなりました。

今日の東京は、白い雲がポカリポカリと浮かぶ夏の青空です。

暑くなる午後から夕方まで、まだまだ「神輿振り」は続くのでしょう。

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羨ましいなあ…と思いながら、私は松本稽古に向かったのでした。

「くれは」の日

またしても語呂合わせなのですが、今日5月29日は「529」で「ごふく」、つまり「呉服の日」だそうです。

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「呉服」といえば、能にも「呉服」という曲があります。

しかしこれは「ごふく」とは読まないのです。

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能の曲名には、読みが非常に難しいものが何曲かあります。例えば…

「木賊」、「善知鳥」、「采女」、「女郎花」、「自然居士」、「大会」、「花筐」、「和布刈」、「大蛇」

などは、能を知っていれば難無く読めるのですが、一般の方には馴染みの無い読み方だと思われます。

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また、

「難波」、「海人」、「葛城」、「鉄輪」、「当麻」

と言った曲はすぐに読めそうですが、曲名として正確に読めていない人が意外に多いのです。

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早速答え合わせをすると…

「木賊」→とくさ。

「善知鳥」→うとう。

「采女」→うねめ。

「女郎花」→おみなめし。

「自然居士」→じねんこじ(しぜんこじ ではありません)。

「大会」→だいえ(たいかい ではありません)。

「花筐」→はながたみ。

「和布刈」→めかり。

「大蛇」→おろち(だいじゃ ではありません)。

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また、

「難波」→なにわ(なんば ではありません)。

「海人」→あま(うみんちゅ ではありません念のため…)。

「葛城」→かづらき(かつらぎ ではないのです)。

「鉄輪」→かなわ(てつわ と読む人がたまにいます)。

「当麻」→たえま(たいま ではありません)

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そして「呉服」は「くれは」と読むのです。

現代では殆ど失われてしまった漢字の読み方が、能の曲名や謡の文句には沢山残されています。

こう言った古い読み方は、能楽がある限り未来へと受け継がれていくでしょう。

そんな意味でも、1人でも多くの方に能楽を知っていただければ良いなあと思うのです。

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誕生日ロールケーキ

今日は朝から京都紫明荘組の稽古でした。

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バリバリ稽古して、3時間ほどが経った頃。

私「えーと、では次の方の仕舞を…」

会員さん「先生ちょっと待って!稽古中断して、ケーキを食べましょう!」

と満面の笑みで大きな箱を持って来られたのです。

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開けてみると、とても大きなロールケーキが2本も入っています。

私「…もしかして、誕生日ケーキですか⁉️」

会員さん「はい!私の家の近くのケーキ屋で買って来ました!ハッハッハ!」

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なんと‼️今年は紫明荘組の皆さんが私の誕生日サプライズを用意してくださっていたのでした。

おかげさまで今年も元気に嬉しい誕生日を迎えることができました。

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思えば去年は京大宝生会で手作りケーキをもらいました。

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そして一昨年は松本稽古場で巨大なケーキをいただいたのでした。

他にもメールなどでお祝いしていただき、本当に私は果報者だと思います。

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皆様のお気持ちにお応えするべく、この1年もまた精一杯頑張って稽古に舞台に取り組んで参ります。

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「ワサビ」と「氷」と「正座」?

今日は宝生能楽堂にて「能プラスワン」に出演して参りました。

天候の悪い中をいらしていただいた皆様、誠にありがとうございました。

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今回は京都大学大学院薬学研究科の金子周司教授をお招きして、「正座による”痺れ”の感覚」について色々お話を伺いました。

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我々の体内にある感覚神経には通称「ワサビ受容体」という痛み刺激センサーが存在するそうです。

そして実は「ワサビが辛い!」という感覚と「氷が冷たい!」という感覚と、「正座で痺れて足が痛い!」という感覚は、全て同じこの「ワサビ受容体」によって感知されているそうなのです。

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つまり「ワサビ受容体」の働きを抑制する薬が出来れば、「正座による足の痛み」は解消されるわけです。

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この薬の研究は、本来は正座ではなく「糖尿病治療薬」や「抗がん剤」などの難病治療薬の開発に繋がるものであり、金子先生の研究室は京都大学の中でも最先端を行く研究室のひとつなのです。

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今回は時間の制約もあり、限られたテーマのお話しか伺えませんでした。

しかし金子先生は例えば「茶道・華道」の関係者に招かれて、「足の痺れにくい畳」の開発に向けた会合に参加されたりと、まだまだ色々興味深いお話がありそうです。

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また私としても、今回の「能プラスワン」でようやく初めて「正座」というものに本格的に眼を向けた気がします。

今回は接触できませんでしたが、「日本正座協会」という素敵な名称の組織があることも知りました。

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「正座」を研究して、最終的に「どんなに長く正座しても絶対に立てる方法」を確立するための私の旅は、まだ始まったばかりなのかもしれません。

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今後は金子先生とも交流を続けて、出来れば「日本正座協会」とも接触し、「正座」というものに色々な角度からより深く迫って行きたいと思っております。

今日いらしていただいた皆様には、また何らかの形で続報をお伝え出来ればと思います。

リラ冷えの朝

昨日今日は季節外れの寒さでした。

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東京も気温が低かったようですが、青森は夜に稽古を終えて外の気温計を見ると7℃。

駅や宿などそこここで暖房が効いていました。

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今朝も宿を出ると冷たい風が強く吹いており、少々震えながら青森駅に向かいました。

すると、青森港横の広場に綺麗な花が咲いています。

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「ライラック」と札に書いてありました。

札幌の花というイメージがあり、実物を見るのは多分初めてです。

「ライラック色」とも言うべきグラデーションのかかった紫の小さな花が、15㎝程の高さに房状に咲いていて、印象に残る姿でした。

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確かライラックは「リラ」とも言い、「リラ冷え」という言葉があったような…と思って調べてみました。

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するとやはり「リラ冷え」とは、北海道においてライラックの花が咲く5月頃に急に寒さが戻る事を意味するそうです。

昨日今日は、北海道のみならず本州でも「リラ冷え」が体感出来た日だったのでしょう。

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上の最初の写真でライラックの右側に白い花が咲いていますが、これは林檎の仲間の「姫林檎」だそうです。

林檎もライラックも、北国に初夏の訪れを告げる花でもあるそうです。

今回の「リラ冷え」が過ぎたら、東北や北海道にも暖かな初夏の陽射しが注ぐように願っております。

古本市

今日はぽっかりと空いた休日でした。

私は時間がたくさんある時には、ゆっくりと古本屋さんに行くのが密かな楽しみです。

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そして古本屋さんよりも更にわくわくするのが「古本市」というものなのです。

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京都では真夏の下鴨神社古本市と秋の百万遍知恩寺の古本市が規模が大きく、度々足を運びます。

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東京ではやはり神田神保町の古本市が一番で、ここは水道橋からも歩ける距離なのでやはり毎年のように通っています。

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今日は東京都内では大きな古本市はありませんが、小規模なものを探して行って参りました。

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探している絶版の本などを色々と物色したのですが、結局買ったのは「曽我物語・物語の舞台を歩く」という本でした。

今は本はアマゾンで検索すれば一発で見つかるのはわかっているのですが、やはり今日のように、たまたま出会った本を買う方が好みです。

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今日買った本で、来たる今月25日の夜能「夜討曽我」の事をまた色々勉強しようと思います。

本郷給水所公園

今日は水道橋宝生能楽堂にて「金春流宗家継承披露能」に出演して参りました。

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出番は宝生和英家元の仕舞「八島」の地謡一番だけで、滞りなく終わりました。

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早くに宝生能楽堂を出たので、少し謡を覚える為に寄り道をすることにしました。

宝生能楽堂横の「宝生坂」は度々ご紹介していますが、その宝生坂を登りきった突き当たりに公園があるのです。

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「本郷給水所公園」です。私は「水道公園」とも呼んでいますが、この公園はとても綺麗に整備されていて、私のお気に入りスポットのひとつです。

「都会のオアシス」という趣きなのです。

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今の時期は薔薇園が満開になっています。

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東京都内ではなく、どこかヨーロッパの庭園にでも行ったような気分になります。

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こんなに綺麗な薔薇園ですが、あまり有名ではないからか、連休中にもかかわらず人はそれ程多くありません。

その辺も大変好ましい公園です。

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薔薇はさすがに西洋風な名前ばかりで、かろうじて見つけた和風の名前の「しろたえ」という薔薇がありました。

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園内には菖蒲園などもあります。

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色々鑑賞しつつベンチで暫し謡本をお浚いしてから、帰路につきました。

皆様も宝生能楽堂にお越しの際は、この公園を覗いてみてはいかがでしょうか。

私がベンチで缶コーヒーを飲みながら、謡本もしくは文庫本など読んでいるかもしれません。