大文字の思い出
今日8月16日は、京都では「五山送り火」が行われます。
私は「五山送り火」そのものよりも、送り火が焚かれる「大文字山」に、とても沢山の思い出があります。
大文字山に最初に登ったのは、京大に入学してすぐの春の頃でした。
始まったばかりの授業の冒頭で講師が「君達、京都は今最高の季節です。私の授業などに出ている暇があったら、何処か行って来なさい」と言って、真っ先に教室を出て何処かに行ってしまいました。
そこでかねてから登ってみたかった大文字山を目指した訳です。
何の情報も無く、ただ見えている「大文字」を目標に銀閣寺の裏手にまわると、登山口がありました。当時其処には馬小屋があって、林道を馬が歩いていて仰天しました。
山道は分かりやすく、中尾城跡を過ぎて長い階段を登ると、30分程で大文字の火床に出ました。
最初にあの景色を見た感動は、いまだに忘れません。
京都盆地の端から端までが眼下一杯に広がる、正に大パノラマです。
そしてすぐそこに京大のキャンパスも見えて、「こんなに素晴らしい眺望を見ないで、みんな授業を受けているのか。何と勿体無い」と妙な優越感に浸って、暫し火床で過ごしました。
その後、数限りなく大文字山に登りました。
1人で登り、京大宝生会の皆で登り、夜に登って100万ドルの夜景を楽しみ、冬に雪が積もればまた登り…。
夜中にライト無しで登る時もありました。「真の暗闇」というものを初めて知り、夜の山に満ちる何とも知れない「畏れ」を感じました。
能楽部で登る時には勿論山上で謡ったり、笛に合わせて舞ったりもしました。
最近は京大宝生会の新歓企画で夜に登って、大文字で鍋を囲むということもしているそうです。
「鴨川デルタ」「百万遍」などと並んで、京大生の大学時代の思い出に欠かせない存在である「大文字山」。
今夜は私は東京ですが、京大を見下ろすように聳えるあの大文字山に、20時頃に火が灯るのを、想像しながら過ごそうと思います。
送り火の大の字を犬にされないように、本気でパトロールをしているそうだと、昔、大文字山に登っていた友人が言っていましたっけ。