安心して「静寂」を味わうこと

今日は水道橋宝生能楽堂にて、明後日日曜日開催の特別公演の申合がありました。

私は能「石橋」の地謡を勤めさせていただきました。

実はこの曲の地謡は、シテの「獅子」が出て来る前に殆ど謡い終わってしまうという珍しい曲なのです。

今日も前半のツレ「樵童」のところの地謡が終わって、やや安堵して後半の獅子を待っておりました。

すぐに勇壮な獅子の出囃子「乱序」が始まりますが、途中で急にシンと静まる箇所があります。

石橋が架かる深山幽谷に水滴が滴る有様を、数秒の静寂を空けて打たれる小鼓と太鼓の極めて小さな打音で表現する、繊細微妙な囃子です。

今日はその緊張感のある静かな場面を、何故かいつもより安心して聴いている事ができました。

いつもは私はもっと緊張して聴いているのです。

何故だろう…と考えて、

「そうか、申合なので携帯などの電子音が鳴る心配が無いからだ」

と思い至り、微妙な気持ちになりました…。

ほんの少し前、携帯や腕時計の電子音が存在しなかった頃には、本番でも安心して、

「静寂」

を聴いている事ができたのです。

明後日の特別会本番では、もちろんアナウンスで「携帯電話の電源をお切りください」という放送があると思います。

特にこの能「石橋」では「静寂」が本当に大事ですので、どうか一時、携帯が無かった頃に戻って、電源を落として安心して静寂を味わっていただければと思います。