“静”から”動”へ

今日明日の二日間、水道橋宝生能楽堂にて

「宝生能楽堂四十五周年記念公演」

が開催されます。

初日の今日は、私は宝生和英御宗家の能「翁」の後見を勤めさせていただきました。

1月に「翁」の初シテを勤めさせていただき、今回はまた初めての「翁」の後見で大変貴重な経験になりました。

「翁」は非常に静かに始まります。

幕が開いてから面箱、翁、千歳、三番叟などがゆったりと歩いて登場して、そこから翁が座に着いて、面箱が翁の面を箱から出して蓋に置くまで、一切無音で時間が過ぎて行きます。

一方で切戸の内では15人近い能楽師が、「ある瞬間」を待ってじっと待機しております。

「ある瞬間」、

つまり「面箱が白式尉の面を蓋の上に置いて準備を終えて、両袖の露を取って立ち上がる瞬間」

が来ると、切戸がサッと開いて、シテ方の後見、囃子方後見、地謡がドッと舞台に出て行きます。

橋掛からも千歳、三番叟、囃子方などがやって来て、あれよという間に20人ほどが舞台や横板の定位置に着きます。

ほとんど間を置かずに笛と小鼓の演奏が始まります。

切戸がサッと開いてから笛の吹き始めまで、30秒も無いと思います。

このスタートの仕方は”緞帳”の無い能舞台の特徴を活かして、

「幕開けから準備段階までの”静”の時間」を全て見せる事によって、

「演奏が始まる時の”動”への転換」をより鮮烈に見せる効果を狙っているのかとも思われます。

この”静”から”動”への鮮やかな舞台転換もまた、能「翁」でしか味わえない醍醐味だと思います。