院展鑑賞記〜2021年秋〜
今日は上野の東京都美術館にて開催中の「院展」を見て参りました。
今年春と昨年秋の院展は鑑賞出来なかったので、1年半ぶりの院展でした。
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250枚を超える絵画の迷宮に久々に足を踏み入れます。
桜の花びらが立体的に浮き出て見える絵に驚き、雪と岩の剱岳に曙光が差す荘厳な風景に圧倒され、幼稚園児達が手を繋いで輪になって木を見上げる姿に思わず微笑みながら迷宮を進んでいきました。
澤風会田町稽古場の会員さんの絵も久々に拝見しました。やはり重厚な色彩の植物がモチーフで、今回はお城の石垣が背景になっているのが新鮮でした。
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現実と非現実、写実と空想の境界線を跨ぎながら絵の世界を彷徨っているうちに、ふいに不思議な感情に襲われました。
それは、これまでの人生の中で「心を揺さぶられる風景や物事」を見た時に沸き起こった強い感動と同じようなもので、コロナ禍以降久しく感じていなかった感覚でした。
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コロナ以前には、強く望めば世界の大抵の場所には行ける可能性がありました。
実際私も、仕事や旅行で日本や海外の様々な街や村、山や海に行き、たくさんの景色や出来事を見てそれを心に刻んできました。
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しかし今では、海外どころか国内でも行ける場所はごく限られています。
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ドイツの古都の何気ない朝を描いた絵や、珊瑚礁の海でウミガメが迫ってくる絵などを見て、実際にそんな風景を見た時の感動が、強烈な懐かしさを伴って蘇ってきたのです。
それと同時に「今はそこには決して行けないのだ」という痛みも感じました。
絵の中でしか会えなくなってしまった風景達。
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しかしいつかまた自由にこの世界を飛び回れる日が、きっと訪れることでしょう。
そしてどこかの街でふとした出来事に心が動いたり、目を見張る自然の絶景に感動したりすることが、再びできるようになると信じています。
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今日は院展の絵画に、忘れそうになっていた大切な感覚を思い出せてもらいました。