静寂の中で終わる曲
昨日は京阪神巽会から最終新幹線で東京に帰りました。
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新幹線の座席に着いた途端にスイッチが切れたように東京まで眠りました。
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今日も少し遅くまで休ませてもらい、昼過ぎから水道橋宝生能楽堂での「月並能」に向かいました。
私は能「蝉丸」の地謡を勤めました。
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曲の最後、姉逆髪と弟蝉丸の別れのシーンでのことです。
逆髪は橋掛りをトボトボと寂しげに歩んでいき、幕に近い”三の松”で振り返って蝉丸に最後の別れを告げます。
そして舞台の蝉丸は留拍子を踏まず、静かに終曲を迎えるのです。
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逆髪が”三の松”から幕に向いて歩き出した時、見所から少しだけ拍手が起こりかけました。
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しかしその拍手は、蝉丸が舞台から橋掛りへと静かに静かに歩むにつれて、徐々におさまっていったのです。
そして幕が開いて蝉丸の姿が消えていってもなお、水を打ったような静けさは能楽堂を包んでいました。
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御囃子方と地謡が退場する時になって、ようやく拍手が今度は盛大に起こりました。
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曲にもよるのだと思いますが「蝉丸」のように留拍子を踏まない曲では、今日のように静寂の中で終わるのが良いとしみじみ思いました。