願念寺のエッセイ
先日東北新幹線で水沢江刺に移動する時のこと。
東北新幹線に乗ると「トランヴェール」という車内誌を読むのが私の密かな楽しみのひとつです。
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最初のページの「駅弁紹介」のようなコーナーが先ず面白く実に美味しそうで、「いつか食べてみよう!」と心に刻んでページを1枚めくります。
そこには私の好きな作家の沢木耕太郎さんの旅のエッセイが載っているのです。
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今回も同じ道順を辿ってエッセイのページに至りました。
ところが1枚だけ掲載されている写真を見て、何とも言えない”既視感”を覚えたのです。
写真の下には「金沢 願念寺」
とありました。
これには心底驚きました。
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「願念寺」とは、現在ドイツで靴職人をしている京大宝生会OBのT君の実家で、もう15年ほど前から京大合宿や大稽古会(琥珀の会の前身)などで泊まりがけで何度となくお世話になってきたお寺なのです。
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かの松尾芭蕉が立ち寄ったこともあるという由緒あるお寺ですが、あまり観光客などに強くアピールしていなくて、それが好ましいお寺だと思っていました。
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しかし沢木さんのエッセイのネタになるとは、最近有名になったのだろうか、一体どんな内容だろう…?
と少々ドキドキしながらエッセイを読み進めました。
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結局、沢木さんもやはり願念寺のそう言った”床しさ”に感じ入った、という文章でした。
特に本堂の前に置かれた箱に「花梨の実」がたくさん入っており、「ご自由にどうぞ」と書いてあったのが良かったとありました。
沢木さんにとっては、願念寺の佇まいの全てが好ましいものだったようなのです。
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なんだか自分が褒められたように嬉しくなり、その場でエッセイのページを写真に撮ってドイツのT君にメールしました。
すると間もなく返信が来ました。
「うちの花梨の実は立派ですが、花梨酒にするくらいしか使い道もないので持って行っていただけるならそれがいいということでしょう。」
とあり、彼のメールにまで願念寺の奥床しさが感じられて更に嬉しくなったのでした。