七葉会の話〜ゾーンに入る〜
話題がちょっと戻りますが、この前の日曜日の「七葉会」のお話です。
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仕舞や舞囃子、また能の地謡などを謡う時、私は謡と平行して色んなことを考えてしまう時があります。
これは「雑念」が入った状態と言うか、良くないことだと思うのですが、ついつい謡と関係ない余計なことが頭に浮かんでしまうのです。
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しかしまた逆に、そのような雑念が一切湧かずに、謡いながらその曲の世界にどんどん深く入り込んでいくような感覚を味わうことがあります。
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スポーツの世界では「ゾーンに入る」という極限の集中状態があるそうです。
その時にはボールが止まって見えたり、何人もの選手の動きが同時に把握できたりするようなのです。
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謡においてもおそらくその「ゾーンに入る」のに似た状態があるのだと思います。
そして今回の七葉会においては、舞囃子「歌占」の地謡でその状態になりました。
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シテの方の力量が非常に高かった事が第一の理由だと考えられます。
私のどんな謡にも付いて来てくださるので、緩急や強弱を自由自在につけて謡っておりました。
「地獄めぐり」を描く、恐ろしい内容の長大なクセを謡っているうちに、自分の意思が段々と希薄になって来ました。
緩急も強弱も節付けさえも殆ど考えずに、無意識のうちに口から謡が溢れるような不思議な状態になってしまったのです。
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ただ舞台への集中力は増していて、囃子方の掛け声がやけにはっきりと聴こえました。
謡っている自分の謡が怖いなあと思いました。
シテと囃子方と地謡が渾然一体となって、リアルに地獄めぐりをしているような錯覚を覚えました。
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最早自分の方が「歌占」にコントロールされていたようで、謡終えて切戸から入った時には、夢の中で大冒険をして来たような奇妙な疲労感と脱力感を覚えました。
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…このような状態の時には、はたして見所にはどのように私の謡が聴こえているのか、気になるところではあります。
気合いの入った良い謡と聴こえているのか、感情が強くこもり過ぎた過剰に荒っぽい謡と思われているのか…。
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今回七葉会で舞囃子「歌占」をご覧になった方に、感想を伺ってみたいものです。