兼平稽古3 後シテ
今日も兼平のお話です。
前シテでは中入までずっと小さな船から降りずにいた兼平の霊。
後シテになって武者姿で登場すると、今度は烈しく動き回るかと思いきや、すぐに床几に腰掛けて動かなくなってしまいます。
「仕方話」と言われる合戦の有様を語るシーンでも、ハイライトにあたる粟津ヶ原の合戦の大半は座ったままで演じます。
上半身は自由に動けますが、下半身は足をにじって左右に少し回転するのみの動きしか出来ません。
これは演じるものにとっては本当に難しいのですが、私は以前に何度か、素晴らしい床几の演技を拝見した事があるのです。
故辰巳孝先生が大阪で能景清をされた時、私は先生の鞄持ちの立場で楽屋に控えておりました。
すると装束を付け終えられた先生が、鏡の間に移動されて床几に掛けられた後に、最終確認のように景清の床几の型(演技)を少しだけなさったのです。
横で控えていた私は身体が震える感動を覚えました。
こんなに僅かな動きで、人は人の心を動かせるのか。
いや、僅かな動きであるからこそ、そこに見るものの気持ちが集中することがあるのかと思いました。
それを狙っての床几の型なのでしょう。
私はその境地には程遠い未熟者ではありますが、いつか人の心を動かせる床几の型を目指して、今回の兼平の床几の型を精一杯頑張ろうと思います。