一番しんどいのは…?
次の3つのうちで、一番しんどい状態はどれだと思いますか?
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①激しく動きまわっている時。
②ゆっくり動いている時。
③じっと動かないでいる時。
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普通なら①が一番疲れてしんどいと思われるでしょう。
しかし、能においては実は③が最も辛いのです。
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先日の涌宝会の能「船弁慶」の時、私は何人かの楽師と楽屋のモニターで見ていました。
曲も終盤に差し掛かって、後シテの平知盛が長刀を肩に差し当てていわゆる「休息の型」に入りました。
ここから「その時義経 少しも騒がず 打ち物抜き持ち 現の人に」という謡の間、シテはじっとして動かずにいるのです。
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そこで、隣で見ていたある先輩楽師が「ここが一番しんどいんだよね…」としみじみと言いました。
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船弁慶の「休息の型」は、右足に全体重をかけて半身で構えています。
なのでたとえ短い時間であっても、装束も加えた重量と、それまで激しく動いていた疲労が重なって、足がガクガク震える程の辛さなのです。
「休息の型」では全然休息出来ず、それが終わって再び長刀を振りかざした時に「やっと動けた!」とむしろホッとするのです。
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実は明後日の「京都満次郎の会」で出る能「熊野 膝行三段之舞」でも、比較的長くじっと動かずにいる時間があります。
その時間、舞台上の立ち方はかなりの力を使って気張ってじっとしていると思っていただけると有り難いです。。
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繰り返しですが、初めて能を見る方でも「綺麗だなあ」と楽しめて、ちょっと知っている人は途中で「おおっ」と驚きがあり、よくよく知っている方は更に細部にわたって沢山の驚きと発見がある能「熊野 膝行三段之舞」を明後日の舞台でどうか多くの皆様にお楽しみいただければと思います。
・京都満次郎の会
6月9日(土)16時始 於金剛能楽堂
能「熊野 膝行三段之舞」シテ辰巳満次郎
ワキ福王茂十郎 ツレ澤田宏司
仕舞「蝉丸」宝生和英 他