医大生と能楽
自治医大宝生会の学生さんと話していた時の事です。
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6年生で実際に病棟で実習があり、色々な事情を抱えた患者さん達をたくさん見て、しんどくなった事があったそうです。
その時に、能の事を思い出して、
「医師は”ワキ方”に徹すれば良いのだ」
と考えて気持ちが救われたというのです。
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ワキ方は、まずシテに話しかけます。
そして、シテの出身地を聞いたり、外見上の特徴を指摘してその理由を尋ねたりします。
するとシテは詳しい身の上話をワキに語ります。
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身の上話や悩み事を聞くと、大抵はそれに対して何かアドバイスを与えたりするでしょう。
しかし能楽に置けるワキはそれを聞いても、すぐにシテに影響を与える立場にはならず、最後の方までひたすら聞き役に徹します。
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自治の学生さん曰く、
「ワキとシテの間には一本線が引かれていると思います。
一方でシテとツレは同じ立ち位置で繋がっていると思います」
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なるほど確かに。
ワキがお医者さん、シテが患者さんで、ツレが患者さんの御家族とします。
医師がワキに徹すれば、過度にシテツレに干渉する事なく、適切な関係を保てるでしょう。
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その同じ学生さんは3月の澤風会郁雲会で能「砧」などの舞台を観て、
「このシテの心情は現代の患者さん達と変わらないなあ」
と、そこにも何か救いを感じたそうです。
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病棟での実習は命との向き合いの日々で、本当に大変な事ばかりだと思います。
能楽がそういう人の気持ちの助けになるならば、それは私のような能楽師にとって何よりの喜びです。
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自治医大宝生会では、普通の稽古とはまた違った意味で、気持ちを込めて大切に稽古させてもらいたいと思ったのでした。