藤栄の立衆
昨日の「宝生会定期公演」にて鶴田航己君が能「藤栄」の立衆を勤めました。
早くも先週の「千歳」に続いてのツレの役です。
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実はこの「藤栄の立衆」という役はちょっと特殊な役なのです。
胴着を着て楽屋に降りるとたいてい先輩に、
「お、今日は何の役?」
と聞かれます。
立衆「藤栄の立衆です」
すると…
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先輩「そうかぁ。ちゃんと声出ししておいた?
のど飴あげようか?」
立衆「いえ…」
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先輩「開場前に舞台を歩いてみた?」
立衆「いやぁ…舞台には入らないので…」
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そうなのです。
「藤栄の立衆」は謡が一句も無く、橋掛に出てちょっと止まるとすぐに切戸に直行して退場するという珍しい役なのです。
先輩方はそれをわかっていて立衆の後輩をイジっている訳です。
謡が無くて舞台にも入らないツレはこの役くらいだと思います。
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とは言っても、この役でも注意するべき点はあります。
藤栄立衆は5〜6人いるので、橋掛で立ち並ぶ時にうまく等間隔で並ぶのが意外に難しいのです。
事前に一人一人の立ち位置を細かく決めて、また見る方向も同じになるように目印を調整します。
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この作業は、将来のもっと難しいツレである「安宅の同行山伏」や、「七人猩々のツレ」の時などに役立つのです。
やはりどんな役でもきちんと勤め上げるのは大変な事なのです。
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とは言え、藤栄立衆は役が終わって楽屋に戻って来ると…
先輩「お帰り〜!立衆大変だったねお疲れ様‼︎」
立衆「いやぁ…あまり疲れてないっす…」
などと言って、何か申し訳無さそうに自分が脱いだ装束の片付けをいそいそと始めたりするのでした。