翁を勤めさせていただきました
一昨日1月14日(日)、宝生能楽堂にて開催された宝生会特別公演におきまして、能「翁」を勤めさせていただきました。
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翁は能でありながら御神事でもあるという特殊な演目です。
翁を勤める楽師は「精進潔斎」をする慣わしがあり、その期間中は四つ足の獣は食べるのも身につけるのも禁じられるなどの幾つかの決まり事があります。
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精進潔斎期間は1週間と言われていますが、別に3週間という説もあり、私は一生に一度の機会と思い本番3週間前の12月24日から精進潔斎に入りました。
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年末年始は規則正しい生活をしながら、ひたすら翁の稽古をしておりました。
元旦には毎年恒例の宝生能楽堂での「謡初」の後に翁稽古をして、夕方に帰路につきました。
そして帰宅前に携帯に速報が入り、能登の地震の第一報を見たのでした。
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翌日からの稽古では、「天下泰平 国土安穏」という文言がそれまでと全く違う切実さで胸に迫りました。
被災された皆様に対して私は何も出来ませんが、せめて心からの謡で平穏な日々が戻る事を祈念しようと思いました。
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翁は「上手く」勤めるよりも「無事に」勤める事が重要だと言われます。
当日は楽屋での御盃事から舞台上の事まで、とにかく間違いの無いように細心の注意を払いながら過ごしました。
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今回はおかげさまでチケットが完売ということで、満席のお客様の前でなんとか滞り無く翁を勤める事が出来ました。
心より安堵しております。
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当日に至るまで、また終演後にも、たくさんの皆様から励ましや御祝の御言葉を頂戴いたしました。
皆様誠にありがとうございました。謹んで御礼申し上げます。
拝見しました。今回は特に大変な状況の中での翁でした。
宝生流には北陸ゆかりの方が多く、いまだ心穏やかに過ごせない、能どころではないという方も沢山おられることと存じます。
我々にできることはあまり多くはないかもしれませんが、せめて離れていても心を寄せることができればと思っています。
生きている限り、災害や争いは避けられないものですが、どうにもならない困難を乗り越えようとする、古から続く人間の祈りの姿を「翁」に感じました。
千歳の鶴田航己さんもとてもキビキビした動きでした。
心に残る翁でした。ありがとうございました。
村井様 ありがとうございました。
私の周りにも輪島で被災した人や、酒屋さんで商品が倒れて大きな被害が出た方がおられます。そのような皆様に一日も早く安穏な日々が戻る事を祈って勤めさせていただきました。