能楽における「広葉樹林」
皆様ご無沙汰しております。私は変わらず元気に過ごしております。
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今からちょうど2週間前のことになりますが、大阪で観世流大鼓方の森山泰幸さんのお社中会に出演して参りました。
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実は私の社中会「澤風会」の会員の中で、何人かが森山師に大鼓を習っているのです。
きっかけは一昨年の澤風会京都大会で、そこで森山師に大鼓を打っていただいたご縁で大鼓を始めた人から徐々に増えていったのです。
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今回の出演者の中には大鼓における「初舞台」の人もいて、その大切な初舞台の地謡を謡うのはとても緊張いたしました。
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この大変な時期に何とか無事に舞台を終えられたことは、森山師のみならず私にとっても非常に有意義でありがたいことでした。
そしてまた、この舞台は別の意味で私にとって嬉しい意味を持っていたのです。
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澤風会で長い間仕舞や謡を稽古していた人達が、澤風会の舞台で出会った大鼓方森山師に弟子入りする。
そしてその森山師の大鼓の会に、私が地謡として呼んでいただける。
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これは私の能楽における活動が森山師の活動と融合して、ひと回り大きく、またより豊穣な世界に踏み出した一歩なのだと思うのです。
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森山師のお社中には、もちろん宝生流以外の方々が多くいらっしゃるでしょう。
そういった方々と澤風会が交流することで、能楽界全体に通じる新しい活気が僅かでも生まれていくのではないでしょうか。
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森林に例えてみます。
「杉」しか植えられていない単一な植生の針葉樹林があるとします。
林床は暗く、生き物の気配は希薄です。
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一方で「橅」「楢」「楓」「栃」「朴」などの多様な種の木々が群生する広葉樹林。
そこには豊かな山菜や茸が生えて、動物達も集まり、たくさんのドラマが生まれていくのです。
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私というシテ方と、森山師という大鼓方。
2人の異なる種の能楽師がこの先に互いの社中会を盛り立て合っていけば、きっとそこからまた新たな縁が芽生えていくことでしょう。
そしてそれは私の能楽人生における理想の姿なのです。
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今回コロナ禍の中で万全の対策をして会を催していただいた森山師に心より御礼申し上げます。
今後ともよろしくお願いいたします。