虹の力

松本稽古始めから一夜明けて、今日は午後から亀岡稽古でした。

朝に宿を出て松本駅に向かったのですが、北アルプスの山々は雪雲に覆われてほとんど姿が見えません。

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特急しなのに乗って、木曽路を名古屋方面に向かいました。

すると途中でその雪雲が段々と下に降りてくるように見えました。

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やがてついに雪雲の中に入ったようで、外は雪が降りしきっています。

視界も悪くなり、実に寒々とした風景です。

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しかし、それから少しうたた寝をして目覚めると、特急はもう名古屋の市街地に出ていて、空はすっかり晴れていました。

なんとなくホッとして、新幹線に乗りかえて京都方面へ。

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ところが今度は米原あたりで再び怪しい天気になって、雨が降って来ました。

琵琶湖の向かいの比良山系や比叡山は、先ほどの北アルプスのように厚い雲に隠れています。

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京都に到着しても雨は止んでおらず、山陰線で亀岡に向かう間も先頭車両のワイパーはずっと動いていました。

困ったことに今日私は傘を持っていません。

「亀岡駅から稽古場まで、走るしかないかな…」

と覚悟を決めて電車に揺られていました。

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保津峡のトンネル地帯を抜けて亀岡盆地に入ると、驚くことに空の様子が全く変わっていました。

青空がのぞいており、どうやら雨も降っていないようなのです。

そして馬堀駅を過ぎて終点の亀岡駅に近づくにつれて、青空の範囲が見る見る広がっていきます。

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その時車内で、

「うわー、虹!」

という声が聞こえました。

「こんなに近くで見るの初めて…」

という声も。

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ハッとして外を見ると、新しく出来たサッカースタジアムのすぐ横の、手が届きそうなところに見事な虹がかかっていたのです。

画面からはみ出す程の大きな虹でした。

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能「石橋」クセの中で「虹」という言葉が出て来ます。

千丈に及ぶ深い谷に架かる”石橋”の有り様が、

「たとえば夕陽の雨の後に 虹をなせる姿」

のようだ、という内容です。

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そしてこの「虹をなせる姿」という部分を、何故かひときわ強い気迫を込めて謡うことになっているのです。

“虹”という自然現象には、人の心を高揚させる力がある気がします。

その”虹の力”が謡にも反映されたのでしょうか。

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今日の私は雨が上がった有り難さと虹を見た高揚感で、とても気分良く亀岡稽古場に向かうことが出来たのでした。

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