ハイツ加茂の屋上から
今日は終日江古田稽古でした。
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先週くらいまでは涼しかった東京も、今日は関西と同じくらいの暑さと湿気です。
江古田駅から稽古場まで歩く数分の間は、まるで遠赤外線で炙られているような気分でした。。
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稽古場に到着して最初に稽古した方は、謡の個人稽古で曲は「加茂」でした。
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前シテの出からの謡は、旧暦水無月頃、つまりちょうど今頃の加茂川辺の情景を謡っています。
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「御手洗の声も涼しき夏陰や 糺の森の梢より 初音ふりゆくほととぎす…」
と稽古していると、一瞬ふと脳内に浮かんできた記憶がありました。
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10年ほど前に出町柳近くの「ハイツ加茂」という5階建マンションの一室を借りていた頃のことです。
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最近ではマンションの屋上は閉鎖されていることが多いですが、ハイツ加茂は広い屋上に自由に上がる事が出来ました。
屋上からは、大文字山、比叡山、京都タワーなどが見渡せたのですが、中でも西側の景色が好きでした。
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西側のすぐ眼下には”高野川”が流れており、その向こうに広大な”糺の森”が一望できたのです。
“糺の森”の木々は非常に樹高が高く、何やらただならぬ力を秘めているようでした。
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そして今日脳内に蘇ったのは、夏の夜に小さなゴザとビールを持って屋上に上がり、星や川や、黒いシルエットになった”糺の森”を眺めながら過ごした記憶だったのです。
その時の風景には、夜なのに何故か先ほどの「御手洗の…」という加茂の謡が似合うような気がしたものです。
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「それにしてもあのビールは美味しかったなあ…」
とぼんやり思ったところで我に返りました。
まだ稽古開始から20分しか経っていません。
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夜まで頑張らねば!とハイツ加茂の屋上の記憶を振り払って、再び稽古に没入していったのでした。