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松本城薪能〜その2〜

松本城薪能前座の松本澤風会発表会はなんとか無事に終わり、次は私自身がシテを勤めさせていただく薪能の本番です。

しかし、時が経つにつれて空模様は次第次第に怪しくなって来ました。

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18時の開演直前にはついに空からポツポツと雨の筋が。

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薪能の途中で雨が降り出した場合、いくつかの選択肢があります。

①能の時間を短くして、例えば「半能」形式で演ずる。

②装束と面をつけずに、「袴能」形式にする。

③雨が強まった時点で演技を中止して、幕に引いてしまう。

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18時開始の初番の能「清経」は、協議の結果②の方式が選択されました。

この時点で、19時頃開始予定の能「鵺」がどのような形式になるかは全く未定で、私はとりあえず胴着には着替えて楽屋に控えておりました。

②になった場合に備えて、紋付袴もすぐに着られる状態にしてあります。

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「清経」が終わった時点で、雨は小康状態でした。

しかし携帯の雨雲レーダーを見た楽師から「19時15分頃には松本周辺は土砂降りという情報です!」との絶望的な報告が。

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「鵺」をどうするか、家元始め数人の先生方が協議に入りました。

私はどのようになっても受け入れようと、胴着で静かに座って協議の結果を待ちました。

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結果は、「鵺はとりあえず前半から予定通り始めて、雨が降った時点で即座に中止する」という③の方針でした。

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とにかく装束と面をつけて舞台に出ることが決定したのです。

即座に藪克徳くんにお願いして装束をつけてもらいました。

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慌ただしく鏡の間に移動して、面をかけます。

普段通り前シテの面「怪士」を手にとって一礼しましたが、今回は「どうか最後まで演じさせてください…!」という強い祈りも込めました。

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そしてついに始まった能「鵺」の舞台。

その前半の見せ場、源頼政が上空の鵺に向けて矢を放つ場面がやって来ました。

さあ行くぞ、と思った所で能面の狭い視界の前に雨の筋が何本も見えました。

ポタポタと舞台を打つ雨音も。

「今から良い所なのに、ここで中止なのか…!」

と思いながらも、後見が止めに来るまではと一所懸命に舞台を続けました。

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そして気がつくと、前半の山場を終えて中入になっていたのです。

雨は本当に危うい瀬戸際で踏みとどまってくれました。

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中入で装束を着替えている時に、「これは最後まで演じられる気がする…!」という不思議な確信が降りてきました。

後シテの能面「猿飛出」にやはり強く祈ってから、後半の舞台へ。

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後半の途中でも一度雨が少し降り出した気配がありましたが、やはり幸いにも強くはならず、ついに橋掛りで留拍子を迎えることができたのです。

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今思い返しても、あの状況で雨がほとんど降らなかったのは不可思議なことだと思います。

ともあれ、私にとって初めての薪能のシテ「鵺」は、こうしてなんとか松本城天守閣の前で無事に終わったのでした。

終演後の打ち上げの席で、東京から観に来てくださった会員さんが「いやあ、天守閣に怪しい黒雲がかかって、本当に鵺が出て来そうで抜群の雰囲気でしたよ!」

…成る程。

こちらは心底冷や冷やし通しだった1日でしたが、結果的には松本澤風会の舞台も雲で少し涼しくなり、その雲が能「鵺」の雰囲気まで演出してくれたようです。

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関係者の方々と共に、今回は本当に天に感謝したいと思います。

最後まで舞わせていただき、ありがとうございました。

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  1. 劇的な一日だったのですね。おめでとうございます。天が味方し、鵺が取り憑いたような、素晴らしい舞台だったことと思います。
    私のほうも東京で、台風直撃ならばその日の仕事(日給も)がなくなってしまうという中、「仕事がなくなるとわかった時点で、特急あずさに飛び乗ろう。いや、直撃ならば松本も危ないか」とそわそわしていましたが、台風は東京から逸れ、私は仕事ができました。澤田先生の鵺は観られませんでしたが、ブログを拝見して、ああ良かった、と思いました。私も仕事、頑張ります。

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