座ったままで舞う曲

今日は午前中に水道橋宝生能楽堂にて、明後日開催の月並能の申合がありました。

私は能「熊坂 床几之型」の地謡を謡いました。

「床几之型」の小書でわかるように、後シテの大盗賊「熊坂長範」が暫くの間床几に腰掛けたままで演技をする特殊演出です。

あまり詳しく書くとネタバレになってしまうのですが、今日地謡座から見てとても興味深い小書だと思いました。

人によっては「床几にかけて型を出来るので、歳をとってからやる為の小書だ」と考えるようです。

しかし私は少し違う印象を受けました。

通常の「熊坂」は薙刀を担いで登場して、舞台いっぱいを使って牛若丸との大立ち回りを派手に演じます。

そのシーンを床几にかけたままで舞うと、少々地味になるのでは、と思われます。

ところが、確かに動く範囲はごく狭くなりますが、そこにまた違う効果が現れた気がしたのです。

「観客の眼がシテに集中していく」という効果です。

一点だけを見続けることでシテの動きに徐々に感情移入していき、型のひとつひとつが通常よりもむしろ強く印象に残るのです。

因みに床几に長く腰掛けて型をする能は他にもあり、やはり同じ効果を狙っていると思います。

例えば能「頼政」がそうですが、これは途中で立ち上がります。

また能「海人 懐中之舞」は、前シテの「玉之段」を床几にかけて演じますが、後シテは立って舞います。

それらと比べてもこの「熊坂 床几之型」は、「座ったままでどこまで舞えるのか」を究極的に突き詰めてみようという、作者の強い意思を感じるのです。

いったいどこまで座って舞うのか、興味を持たれた方は是非、宝生能楽堂にて明後日の日曜日14時開演の「月並能」においでくださいませ。

きっと驚かれると思います。

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