渡り鳥

今日は夜に香里能楽堂で、新作能「復活のキリスト」の稽古がありました。

京都から香里園に京阪電車で向かったのですが、途中車窓から、渡り鳥の編隊飛行を見ました。

淀を過ぎて八幡市との中間くらいの所で、遠くの空でしたが10数羽の比較的大型の鳥達が、逆V字の隊列を組んで、北東から南西方向に向かって飛んで行ったのです。

「ああ、秋だなあ」としみじみ思いました。

私が見たのは、推測ですが鴨の一種で、大阪城公園にある飛来池を目指していたと思われます。

能「花筺」のシテ照日の前は、南に渡っていく渡り鳥である「雁」を道案内にして、越前国を出発し大和国桜井にあった玉穂宮を目指しました。

しかし、実は現代日本においてはこの「花筺」のエピソードは成立し得ないのです。

…というのは、雁がシベリアから飛来する南限が、現在は島根県の宍道湖だそうだからです。

日本海側までしか渡って来ないと言うことは、福井県から奈良県に向かうための道案内にはなりません…。

これにはやはり地球温暖化が影響しているようです。

明治の頃には上野の不忍池にも雁がいたそうで、もっと昔の継体天皇の時代には、大和国辺りまで渡っていたかもしれません。

しかし、じわじわと暖かい地域が北上して行き、もしかすると遠い将来には、本州では雁の渡りが見られなくなる、という日が来るかもしれません。

一介の能楽師の私ですが、やはり地球の環境が変化していくのは気がかりなことです。

渡り鳥を見てしみじみと秋の深まりを感じる風情が、いつまでもこの日本にあってほしいと思うのです。

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