農繁期と能繁期
我々能楽業界では、「農繁期」をもじって「能繁期」という言葉を使うことがあります。
春は4月〜5月、秋は丁度今頃の10〜11月にあたり、舞台の数が年間で一番多くなる時期なのです。
ここ最近は正しく「能繁期」で、お仕事を頂戴するのは有り難いことながらもいつも以上にバタバタしておりました。
舞台が増えると稽古の日数が減ってしまうというのが悩ましいところで、澤風会各稽古場の皆様には大変申し訳無く思っております。。
今月後半には少し落ち着いて参りますので、また稽古頑張りたいと思います。
この「農繁期」と「能繁期」はだいたい同じ時期に重なっております。
春と秋の、一番過ごしやすく天候も安定している頃です。
厳しい自然と直接向き合う「農業」と、「能楽」を比較するのは大変失礼かと思います。
しかし、移動中の新幹線や電車の窓から「田植え」や「刈り入れ」が綺麗に済んだ田圃が見えると、「ああ、農業の皆さんも農繁期で頑張っておられるのだな。私も能繁期を頑張ろう!」と元気をいただくことがあるのです。
そして「農繁期」の産物を沢山食べて、更に元気をつけて、この秋の「能繁期」を乗り越えたいと思います。
のうはんきは英語にすると、”no hankie”(ハンカチが一枚もない)。
この「ノーハンキー」という言い回しは、驚くことに、繁忙期に汗を拭き過ぎて、使えるハンカチがなくなってしまうほどに働くことを表す、
というのだったとしたらすごいですよね。(ご、ごめんなさい。)
能繁期と農繁期が重なる、とは面白いですね。
能繁期の方は、過ごしやすい季節に文化的気運が高まるからなのでしょうけれど。
古来から人々が豊作を祈ったり、また収穫に感謝したりする祭りのための歌や踊りも
日本の芸能の大きな流れの中に取り込まれて来たのだろうと思うと、春や秋の
よい季節に能をたのしむのも、昔の人々と同じ心のようで嬉しい気がします。