大阪能楽会館
大阪は梅田に、格式ある大きな能楽堂があります。
「大阪能楽会館」という名前の舞台です。
私が京大宝生会の現役だった頃、七宝会の別会で受付のお手伝いに何度も伺ったのが大阪能楽会館の最初の思い出です。
中でも、私が4回生の秋にあった七宝会は、辰巳孝先生の能「松風」と、辰巳満次郎先生の能「道成寺」があるということで、勇んで受付に参りました。(受付の手伝いの学生は、舞台が始まると自由席で舞台を観られたのです)
「松風」と「道成寺」は勿論とても素晴らしい舞台だったのですが、私にとって一番強烈な記憶は、受付の用事で楽屋に入った時のことなのです。
楽屋の廊下で正座していると向こうから、とても大きな紋付袴姿の先生が歩いて来られました。
ハッとしてよく見ると、写真でしか拝見した事のない先々代宗家、宝生英雄先生です!
その圧倒的な存在感に、正にその場に平伏してしまい、通り過ぎて行かれるまで顔を上げられませんでした。
「オーラ」という言葉は当時使われていませんでしたが、雰囲気だけで圧倒される経験はそれが初めてで、いまだによく覚えております。
その「大阪能楽会館」も、寂しいことですが今年の年末をもって閉館されるということです。
実は明日、私は大阪能楽会館にて開催される「大阪満次郎の会」に地謡として出演いたします。
これは玄人会としては最後の大阪能楽会館の舞台になります。
しかも曲目は辰巳満次郎師の能「松風」です。
受付手伝いだった学生の頃から、能楽師になってからもずっとお世話になって来た「大阪能楽会館」。
そこで最後に謡うのが、思い出深い曲「松風」というのもまた感慨深いことです。
明日は大阪能楽会館に感謝しつつ、精一杯舞台を勤めたいと思います。