「後見」の難しさ
シテ方が舞台に出る時、次の3つのうちで一番緊張を強いられるのはどれでしょうか?
①シテ、ツレなどの役。
②地謡。
③後見。
おそらく大半の予想は①でしょう。能楽師にこの質問をしても①と答える人が多いと思います。
しかし私にとっては実は③の「後見」が一番緊張するのです。
「後見」とは、紋付袴姿で横板の隅に2人で座っていて、舞台上の事を色々補佐する役割です。
何故私にとって「後見」が一番緊張するのかと言うと…
・シテの装束は基本的に「後見」が着付けるので、舞台の最中に装束が乱れたりしないか、見え具合は悪くないかなど、常に気を配らねばならない。
・作り物の出し入れも「後見」の仕事なので、出す位置が適切かどうか、また途中で紐が切れたり、竹が折れたりといったアクシデントが無いか、これも常に注意を払う必要がある。
・「物着(ものぎ)」と言って、舞台上でシテが着替える時があり、「後見」は衆人環視の中で装束を素早く正確に着付けることを要求される。
これらに加えて、
・舞台の最中に何かアクシデントがあった場合、静観するのか、何らかの対応をするのかを瞬時に判断せねばならない。
更に、
・シテが急な体調不良などで舞台続行が不可能になった場合、替わりに「後見」が続きを舞う。
という事態も有り得るのです。
そして「後見」はこれら全てのことを、
・決して目立たずに、立ち居振る舞いもお客様の印象に残らないように、何気無く行動しなければならない。
のです。
私は今週火曜日の薪能で「船弁慶」の後見を勤めて、また明後日の日曜日には能「大江山」の後見を勤めます。
舞台が円滑に進んで無事に終わるまで、私は非常に緊張して後見を勤めておりますが、それは決して表面には出さないので、ご覧になった皆様の印象には残らない筈です。
皆様の記憶に残らないように、頑張りたいと思います。