松本の七夕
JR松本駅に列車が到着すると、少し哀愁漂う女性の声で「まつもと〜、まつもと〜」という到着アナウンスがあります。
他の駅には無い独特のトーンのアナウンスで、これが何とも言えず旅情を掻き立ててくれるのです。
昨日の松本稽古を終えて、今朝は新宿行きの特急あずさに乗る為にまた松本駅に向かいました。
改札をくぐると例の哀愁漂う「まつもと〜、まつもと〜」が聞こえてきて、「やはり良いなあ」と思いながらホームに降りようとしました。
すると改札の横で、駅員さんが何か飾り付けをしています。
七夕の飾りでしょうか。しかし笹の葉や短冊ではなく、紙で作った人形です。雛人形ともまた違う雰囲気です。
松本の七夕では人形を軒に吊るして、家族の厄を人形に託して風に吹き払ってもらう、という風習があるそうです。
人形がちょっと大陸的な雰囲気なのは、牽牛と織女をかたどっているからなのでしょう。
能においては、「砧」の前半で夫の帰りを待つシテが七夕の例え話を引いて、自らの身の上を嘆きます。切なく哀しいシーンです。
松本の七夕人形も、華やかなのですがやはり少しだけ哀愁を感じます。
年に一度だけの逢瀬を、雲に邪魔されないよう祈りながら待っている織姫と彦星の切ない気持ちが表れているのでしょうか。
例のアナウンスと相待って、一層の旅情を感じながら、新宿行きの特急あずさに乗り込んだのでした。