郭公とホトトギス
昨日の松本稽古で、安曇野在住のお弟子さんが「庭にカッコウが来たのです。ビデオ撮影をしました!」と映像を見せてくださいました。
実は私は中学校の科学部時代から、鳥を見るのが大好きなのです。
しかし郭公については、鳴き声はすれども姿は見えず、という感じで今まで実物を見たことがありませんでした。
映像の郭公は、庭先の電線に止まって、はっきり姿を見せながら「カッコー」と鳴いていました。
郭公に関しては面白い話があって、昔の日本人は「郭公」と「ホトトギス」を同じ鳥と見ていたようなのです。
鳴き声は「カッコー」と「テッペンカケタカ」と全く異なり、大きさもホトトギスが一回り小振りなのにもかかわらずです。
能楽の世界でもこの「郭公とホトトギスの混同」が起こっている曲があります。
能「鵺」で、鵺退治をした源頼政に帝から「獅子王」という御剣が与えられることになりました。
先ず獅子王は宇治の左大臣藤原頼長に渡されます。
それをさらに頼政に与える為に、左大臣が階段を降りようとした所にちょうどカッコウが飛んで来ました。
それを見た左大臣頼長は「ほととぎす 名をも雲居に あぐるかな」と上の句を詠んで、獅子王とともに頼政に渡します。
御剣を受け取った頼政は、和歌の方も「弓張月の 射るにまかせて」と下の句を返して、大いに名を上げたのでした。
平安時代には「郭公」と書いて「かっこう」とも「ほととぎす」とも読んだらしいのです。
私の推測ですが、郭公やホトトギスが日本にやって来る今頃の季節は、山に青葉が繁って鳥の姿が見え辛くなります。
この為、鳴き声は「カッコー」「テッペンカケタカ」と異なっていますが、偶に見える姿が似ている郭公とほととぎすは同じ鳥だと思われていたのかもしれません。
因みに「頼長」は宇治の左大臣、「頼政」は後に能「頼政」のシテにもなる源三位頼政です。
こちらも混同しそうなのでどうか注意してください。