映像に合わせて謡うこと

今日もスカイツリー公演のお話です。

今回の公演は、鏡板の部分に映像が映し出されます。

普通の松の映像もあれば、例えば打ち上がった刀の裏面に「小狐」という文字が浮かび上がる映像などが、ストーリーに沿って流れて行きます。

この映像とズレないように舞台を進めるのが、なかなかに難しかったのです。

我々は普段、「大鼓、小鼓、太鼓、笛、地謡、立ち方」で舞台を作っていきます。

能には指揮者がおらず、これらの要素それぞれが速さや強さを微調整しながら、「何となく」調和を保っているのです。

一方「映像」という要素は、100回流しても当然100回とも同じ速さです。

ひとつの固定された要素に合わせて、それ以外の要素はあくまで有機的に合わせていく。

これにはリハーサルの繰り返しが不可欠でした。何回も繰り返すうちに、漸く映像も頭に入って、謡の速さの微調整が出来るようになりました。

しかし普段の舞台では、申合はたった1回だけです。

これは、能楽が「掛声」や「呼吸」、また「謡の強弱」などで、言葉を交わさずとも舞台上で意思疎通出来るようになっているからなのです。

我々が舞台上で言葉にならない言葉を交わし合っているという事を、「映像」という意思疎通が難しい要素と合わせることで再認識いたしました。

しかし映像と合わせる経験は、それはそれで大変勉強になりました。

このような催しは、新しいお客様を増やす為にもとても良いと思います。

今日も紋付で楽屋の外にいたら、小学生の男の子が走り寄って来て「かっこよかったです!」と言ってくれました。

色々充実したスカイツリー公演でした。関係者の皆様、本当にありがとうございました。

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