虞美人草
能「項羽」の前シテ老人は、ワキ旅人の持った花々の中から、ある一本の花を所望します。
それは虞氏の遺骸を埋めた塚から生えたという「虞美人草」でした。
その花々は造花で、シャガの葉を竹の棒に挟んだ作り物に、更に色とりどりの花々が挿してあります。
中央部に一本だけ「虞美人草」を、これは引き抜けるように工夫して挿し入れるのです。
内弟子の頃に、この「虞美人草」の造花が古くなったので、新しいものを探しに浅草橋に行ったことがあります。
東京浅草橋には造花屋さんが沢山あるのです。
この造花屋さん巡りはなかなかに楽しく、内弟子の頃は何かと理由をつけて度々足を運んだものです。
しかし当時は今のようにスマホなど無く、「虞美人草」で検索など出来ません。
古くなった造花を持って、似た造花を探すしかありませんでした。
しかも別名も知らなかったので「虞美人草、虞美人草…」とラベルを見て探しました。
全部の店をあらかた探して見つからず、今度は最初の店に戻って、見た目だけでも似た造花を探し始めました。
一周目ではスルーしていた洋花の売り場も見て回ったところ、似た花を見つけました。
というより、虞美人草そのものです。
ラベルには「ポピー」とありました。
「虞美人草はポピーだったのか⁈」と当時は驚き、本屋で植物図鑑を見てみました。
虞美人草とポピーとヒナゲシとコクリコは、皆同じ花だったのですね。
今では何でも検索すればわかるので、1日がかりで一本の花を探すことも無いのかもしれません。
しかし、手探りで全部の店を見て回る中で、「このツタは半蔀の作り物に使えそう」とか、「この植物はサカキの代用品になるかも」とか、思わぬ発見が沢山ありました。
私は今でもネット販売を殆ど利用したことが無く、色んなお店を回って探すのが好みなのです。