私にできることは
6年前の今日のことは、軽々しくは言葉に出来ません。
今も沢山の方々が苦しんだり、復興の為に闘ったりしておられます。
何か自分にできることは無いかと考えてみても、私は若輩者の能役者に過ぎません。そもそもできることは能楽しか無いのです。
能の中では、千年近く前の世界の生と死、また死者の想念までもが克明に描かれています。
その頃の美しい森羅万象の有様も、曲の中に封じ込められています。
現代の我々が、どこに向かって生きれば良いのかわからなくなった時、能楽は大昔からのメッセージのように進むべき道を教えてくれることがあります。
またある一曲のシテへの共感によって、生きる力を与えられることもあります。
能とは「我々はこんな風に生きていた。これを参考に君たちも頑張ってほしい」という、遥か昔の先人からのエールとも言えると思います。
今の私にできる唯一のことは、せめて自分の周りの人達に、能楽を通じて先人達の経験や想いを伝えることです。
それが少しでも誰かの力になって、やがては日本全体の元気に繋がってくれたら良いと思っています。
そういう気持を忘れずに、日々の舞台と稽古を務めて参りたいと思います。
今日は能高砂の地謡を全力で謡って参りました。明日は水道橋の月並能にて能藤の地謡を頑張って謡います。
最後に、被災された皆さまに1日も早く平穏な日々が戻って来ますように、心よりお祈りいたします。