マナーモード
私は乗り物の中でも良く寝られるのが特技のひとつです。
ところが昨日の早朝に乗った新幹線で仮眠していると、誰かの携帯の着信音で目が覚めました。
iPhoneの、ちょっと祭り囃子風のコミカルな着信音です(わかりますかね?)。
ずいぶん長く鳴ってから切れました。やれやれと思っていると、なんとこれが数分置きに断続的に繰り返されるのです。
持ち主は私の斜め前にいる茶髪の中年男性で、何故なのか決して電話に出ようとしません。見かねた近くの人が「マナーモードにしてよ」と言っても、これまた何故か無視しています。
ついに京都まで一睡も出来ませんでした。。
これも困った事でしたが、能楽堂での着信音はもっと深刻です。
5年前の事ですが、私の道成寺の披きの時に、乱拍子の最中に着信音が鳴りました。
乱拍子は無音の空白の時間が大切なので、これは全く参りました。
それ以来、自分がシテで無くても例えば石橋の「露ノ手」の所などでは「ここで携帯が鳴ったらどうしよう…」とドキドキしてしまいます。
ひとつの舞台はシテの稽古の積み重ねと、ワキ方、囃子方、狂言方、後見、地謡のそれぞれの力の発揮と、楽屋での見えない沢山の作業によって成り立っています。
それらの繊細な努力が、携帯着信音ひとつで崩れ去ってしまうことがあるのです。
これは能楽師にとっては実に怖ろしい事なのです。
お気に入りのメロディを着信音にするのは素敵な事だと思いますが、どうか能楽堂ではマナーモードにしていただくように、くれぐれもお願い申し上げます。
あと新幹線でも。