弱法師と香道

最近何ヶ所かの稽古場で「弱法師」の謡を稽古する機会がありました。

「弱法師」の前半には、シテ弱法師が、

「や、花の香の聞こえ候」

と言う場面があります。

香が「聞こえる」という表現は、確か「香道」にあったと思い、香道の知識が全く無いので少し調べてみました。

やはり香道においては香は「聞く」ものであり、それは心の中でゆっくりと香を味わうという意味が込められた表現だそうです。

さらに「香道」とは能や茶道、華道と共に室町時代に出来たものであり、「禅」の思想に強く影響を受けているという事です。

やはり能楽と香道は深い繋がりがありそうで、「弱法師」の中で「香が聞こえる」という表現が出てきたのは香道の影響なのかもしれません。

また宝生流の能装束の「緋の大口」の中には

「源氏香模様」

という物があり、これも香道に使われる模様があしらわれた装束です。

これまで香道とは縁がありませんでしたが、機会があれば香道を体験してみたいものです。

井戸と防災

能にはしばしば「井戸」が出てきます。

「井筒」では恋する2人が影をうつし、「養老」では滔々と湧き出す水が生命力の象徴となり、また「鉄輪の井戸」などと言う恐ろしい伝説もあります。

今回は私の自宅周辺の井戸のお話です。

今日三ノ輪の自宅の近所を歩いていると、こんな井戸を見つけました。

昔ながらの懐かしい井戸です。

近所にこんな風な古い井戸が残っているのかと驚きました。

そして時間があったので、その辺りにもっと井戸が無いか探してみたのです。

すると…

古い形状ではありませんが、そこ此処に井戸を見つけることが出来たのです。

本体は無くなって蓋がしてあるものも…

そして公園にはこんな井戸がありました。

この井戸、単なる防災用水だけで無くて、実はすごい機能があるのです。

なんと奥に並ぶマンホールと併用すると、「災害用トイレ」になるのです。

この使い方は初めて知りました。

他にも防災井戸がいくつもあり、昔ながらの井戸が現代でもこのような形で生きているのだと知りました。

また井戸探しの途中で見つけたお地蔵さんがあります。

「大震災一周年記念碑」

とあったので、東日本大震災の事かと思い、後ろに回って見てみると…

なんと「関東大震災」から一周年の碑でした。

今日は井戸探しから、図らずも防災について考えさせられる日になりました。

またいつ大きな地震がくるかわからないので、特に「災害用トイレ」など、近所の場所を確認しておこうと思いました。

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壇ノ浦の日に

今日3月24日は壇ノ浦の合戦があったので「壇ノ浦の日」だそうです。

尤も旧暦の3月24日なので西暦ではまだ1ヶ月ほど先になりますが。

スマホのニュースで今朝それを知って、何となく「屋島の合戦」の日も調べてみました。

するとまた意外な事がわかったのです。

史実によれば屋島の合戦があったのは、

「元暦2年/寿永4年2月19日」

という事です。

しかしこれは謡の中に出てくる「屋島の合戦」とは全く異なる日付けなのです。

能「八島」では源義経の亡霊が屋島の合戦の日付けを、

「元暦元年3月18日の事」

と語っています。

また別の能「景清」では、平家方の悪七兵衛景清が同じく屋島の合戦を、平家の元号で

「寿永3年3月下旬の事」

と物語ります。

つまり能の世界では源氏方と平家方がともに、屋島の合戦があったのは

「元暦元年=寿永3年3月」

と明言しているのです。

これはどういう事なのでしょうか…

京大合宿中なので、周りの京大宝生会現役とOBOG達に聞いてみました。

色々なヒントがあり、それらを総合して私が想像したのは、

「声に出して謡った時に聴こえ方が良いように日付けを改変したのでは」

という事です。

例えば「元暦元年3月18日」だと、

「ゲン」「ガン」「サン」

と似た発音がポンポンと並んで、強く聴こえます。

また19日を18日にする事で、

「ハチ」「ニチ」とチが並んでやはりテンポ良く聴こえます。

景清の方は、「寿永3年3月下旬」です。

「サン」「サン」と同じ発音が並び、また日付けではなく「下旬」とする事で、

「サンガチ」「ゲジュン」

と、”G”の発音が並ぶ事になります。

…素人の想像なので全然的外れかもしれませんが、今日一日は「壇ノ浦の日」のニュースのおかげで色々楽しく思考を巡らせる事が出来ました。

この「屋島の合戦の日程」に関して何かご存知の方は是非お知らせくださいませ。

イグルーの達人

今日は冷たい北風が強く吹く中、松本稽古に行って参りました。

松本もやはり寒く、気温も前回より大幅に下がりました。

松本駅から見える北アルプスの山々も、半ば雪雲に覆われていました。

きっと山の上は非常に厳しい寒さなのでしょう。

そして稽古場には、久しぶりに「イグルー作り日本一」の方がいらしてくださいました。

前回まではイグルー講習会の講師でお休みだったのです。

稽古が終わって晩御飯をご一緒しながら、イグルーのお話を色々伺ってみました。

「○○岳のリフトを降りて3分くらいの所に、イグルー作りに最適な場所があるのですよ」

「先ず私が3〜40分で見本のイグルーを作って、それから参加者の皆さんに2〜3時間かけてイグルー作りをしてもらいます」

なるほど、やはり初心者だと2〜3時間かかるのですね。

イグルーに向いている雪は3000m近くの高所にあるそうです。それだけで私には未知の世界です。

先程の松本駅から見えた北アルプス山上のような厳しい環境でも、イグルーの中では快適に過ごせるそうです。

イグルーの世界はやはりとても魅力的です。

「この間は、1人用の小さなイグルーを12人で12個作りました。それを全部トンネルで繋げて、自由に行き来できるようにしたのです」

おお、なんだか子供の頃の”秘密基地あそひ”みたいでワクワクします。

イグルー講習会には何人くらいの受講者が来られるのか聞いてみると、

「多くて30人ほどですかね」

では私もいつかそこに参加したいものです。と言うと、

「いや先生ならマンツーマンで教えますよ」

…何か非常に厳しいイグルー講習会になりそうですが、機会があれば2〜3時間かけて作ったイグルーの中で寛いでみたいと思っています。

晩御飯を終えて松本駅前の宿に戻る途中、駅の気温計は氷点下でした。

イグルーの恋しくなる寒さです…

1か月が経ちました

1月16日にこのブログを再開してから1か月が経ちました。

なんとか途切れずに書き続けております。

今回ブログ再開の告知などは全くしていないにも関わらず、何人かの方に、

「ブログ再開されたのですね、いつも読んでいます」

と温かいお言葉をいただきました。

何よりの励みになります。ありがとうございます。

今後も私の小さな日常の出来事をポツポツと書いて参りたいと思います。

またいくつかあった”シリーズ”もぼちぼち再開するつもりです。

「亀岡の花々」シリーズは、間もなく春の花が咲き始めたら再開します。

「隙間花壇」は実はコロナ禍の間に雰囲気が大分変わって、洋風のお洒落な花壇になっております。私としては以前の自然な感じが良かったのですが、こちらも一度今の姿をご紹介したいと思います。

「読んだ本の話」も書いていきたいです。

相変わらず”遅読”で”並行読み”です。

今は、

①戸川幸夫(イリオモテヤマネコを発見した動物文学作家)著のシートンの伝記

②新田次郎著「孤高の人」

③椎名誠の「怪しい雑魚釣り隊シリーズ」

などを読んでおります。

中でも新田次郎「孤高の人」は久しぶりに本にグイグイと引き込まれていく感覚を味わっております。

このように、能楽には全然関わらない内容も多いブログではありますが、頑張って書いて参りますのでどうか今後ともよろしくお願いいたします。

絵画用バッグ

今日は江古田稽古に行こうとして西武線江古田駅を降りると、ちょっと変わったカバンを肩に掛けた高校生達と沢山すれ違いました。

すぐにピンと来たのが、

「ああ、今日は日大芸術学部の入試だったのか」

という事でした。

“ちょっと変わったカバン”というのは絵画や画材などを入れるカバンで、下の写真のような感じのものです。

これを肩に掛けた高校生達は、おそらく美術学科の入試を終えた所なのでしょう、どこかホッとしたような顔をしていました。

ところでこの写真の絵画用バッグ、実は私のモノなのです。

しかし私には全く絵画の心得はありません。

では何のために持っているのでしょうか…?

バッグを開けると中に入っているのは…

何故か100均で買ったコルクボードが2枚…

サイズは40×60cmです。

これでわかる方はいらっしゃるでしょうか。

答えは、

「裃用カバン」

なのです。

ちゃんとした裃用カバンは結構高価なのですが、この「絵画用バッグ」と「コルクボード」の組み合わせだと総額1800円です。

コルクボード2枚に裃を挟んで絵画用バッグに入れると丁度ピッタリと収まります。

またコルクボードの包装ビニールを剥がしていないので、ある程度の防水効果もあるのです。

紋付袴は丸めて収納できるのですが、裃の”カミ”だけは折り畳めません。

裃の持ち運びにお困りの方がいらしたら、この絵画用バッグ、お薦めいたします。

卒寿祝いの「三笑」

今日は私の生まれ故郷の三重県久居に日帰りで行って参りました。

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ここが私の実家です。1939年築のまあまあ古い家で、今は父親が中をリフォームして暮らしています。

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ここ数年の帰省の時には、

父親と顔を合わせる→父親と墓参りに行く→そのまま少し散歩→日が暮れたら近所のハンバーグ専門店で一緒に晩御飯→東京に戻る

というコースがほぼ決まっています。

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でも今回は、ちょっと違う目的がありました。

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実は父親は昨年末の誕生日で卒寿を迎えて、12月25日に親類が集まって卒寿祝いの会を催したのです。

しかし私はその日は奈良と京都で舞台があり、お祝い会への出席が叶いませんでした。

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そこで父親には、「お正月に久居に帰った時に、卒寿祝いの謡をプレゼントするよ」

と伝えておいたのです。

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曲を何にしようかと考えて、「三笑」の

「菊の白露つもりつもって 不老不死の薬の泉よも盡きじ…」

という部分から最後までを謡うことにしました。

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リフォームしたリビングのフローリングの床に正座して、マスクに洋服というなんとも風情の無い有様でしたが、お祝いの心を込めて「三笑」を謡いました。

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父親は喜んでくれて、御礼という訳でもないのでしょうが、趣味で描いた絵をくれました。

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今日はまだハンバーグ屋さんが正月休みなので、2人で珈琲を淹れてゆっくり飲んで、それで帰ることにしました。

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帰り際に1人でお墓参りをした後に、やはり1人で少し散歩してみました。

久居は本当になんにも無い静かな町で、遠くに見える布引山も実に穏やかな姿です。

「子供の頃この辺で土筆採りをしたっけなあ…」

などとしみじみ思いながら、布引山に背を向けて久居駅へと帰路についたのでした。

阿漕の平治が獲った「やがら」

昨年夏に「いとうせいこうの能楽紀行」のための取材で阿漕ヶ浦の「阿漕塚記念館」という資料館に行きました。

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そこで、実は能「阿漕」のシテは母親の病気を治すために密漁をしていたこと、また密漁で獲った魚が「やがら」という名前であることを知りました。

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下は「阿漕塚記念館」にあった説明書きです。

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そして先日、私は思いがけずその「やがら」と初対面を果たしたのです。

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今週月曜日のこと。

私は午前中に大山崎稽古を終えて、午後の亀岡稽古の前に昼ごはんを食べようと思いました。

場所はJR二条駅近くの「三条通商店街」、目当てのお店は海鮮料理の「あみたつ」というところです。

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「あみたつ」は店内に鮮魚がたくさん並んでいます。

その日私が店に入ると、変わった魚が目に入りました。

近寄ってみると…

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なんと「ヤガラ」と書いてあります。

そして大きい!

80cmはありそうです。

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これは何としても食べてみなければ!

早速「ヤガラ」の刺身を注文して定食にしてもらいました。

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するとなんと刺身には長〜い頭がついて出てきました!

割り箸と比較すると大きさがわかるかと思います。

店内のお客さん達が「おお…」と驚きの目で見ています。

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刺身は白身で、淡白で上品な美味でした。

“阿漕の平治”はこの魚を獲ったために海に沈められてしまったのか。そして母親はこの魚を食べて病気を治すことができたのか…

と考えると、なんだか神妙な気持ちになりました。

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しかしそれにしても「やがら」は本当に美味しく、思わず定食のご飯をおかわりしてしまい、大満腹大満足で亀岡稽古に向かったのでした。

またどこかで「やがら」に出会ったら必ず食べたいと思います。

院展鑑賞記〜2021年秋〜

今日は上野の東京都美術館にて開催中の「院展」を見て参りました。

今年春と昨年秋の院展は鑑賞出来なかったので、1年半ぶりの院展でした。

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250枚を超える絵画の迷宮に久々に足を踏み入れます。

桜の花びらが立体的に浮き出て見える絵に驚き、雪と岩の剱岳に曙光が差す荘厳な風景に圧倒され、幼稚園児達が手を繋いで輪になって木を見上げる姿に思わず微笑みながら迷宮を進んでいきました。

澤風会田町稽古場の会員さんの絵も久々に拝見しました。やはり重厚な色彩の植物がモチーフで、今回はお城の石垣が背景になっているのが新鮮でした。

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現実と非現実、写実と空想の境界線を跨ぎながら絵の世界を彷徨っているうちに、ふいに不思議な感情に襲われました。

それは、これまでの人生の中で「心を揺さぶられる風景や物事」を見た時に沸き起こった強い感動と同じようなもので、コロナ禍以降久しく感じていなかった感覚でした。

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コロナ以前には、強く望めば世界の大抵の場所には行ける可能性がありました。

実際私も、仕事や旅行で日本や海外の様々な街や村、山や海に行き、たくさんの景色や出来事を見てそれを心に刻んできました。

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しかし今では、海外どころか国内でも行ける場所はごく限られています。

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ドイツの古都の何気ない朝を描いた絵や、珊瑚礁の海でウミガメが迫ってくる絵などを見て、実際にそんな風景を見た時の感動が、強烈な懐かしさを伴って蘇ってきたのです。

それと同時に「今はそこには決して行けないのだ」という痛みも感じました。

絵の中でしか会えなくなってしまった風景達。

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しかしいつかまた自由にこの世界を飛び回れる日が、きっと訪れることでしょう。

そしてどこかの街でふとした出来事に心が動いたり、目を見張る自然の絶景に感動したりすることが、再びできるようになると信じています。

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今日は院展の絵画に、忘れそうになっていた大切な感覚を思い出せてもらいました。

いろんな五人囃子が…

去年の今頃、近所の「素戔嗚神社」に飾られている雛人形の中に面白い「五人囃子」がいたのをブログでご紹介いたしました。

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今日はちょうど雛祭りの日なので、今年も素戔嗚神社に行ってみたのです。

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定点観測。去年と全く同じように桃の花が咲き始めていました。

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そしてお参りをしてから、早速雛人形のところに行ってみました。

すると期待通り(?)色々と突っ込みどころ満載の「五人囃子」に出会うことができたのです。

いくつかご紹介します。

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わぁ❗️なんだかビックリ‼️

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私はなんだか疲れちゃった…。

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僕も、疲れました…。

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この太鼓の中から、何か聴こえてくるような気がするぞ。

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おーい、中に誰かいませんか〜?

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この太鼓、食べたら美味しいかも…。

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小鼓も美味しいよ。

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大鼓も美味い!

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などなど、個性豊かな御囃子方が揃い踏みでした。

そして帰り際に境内の池を覗いてみると…

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たくさんの”おたまじゃくし”が泳いでいました。

コロナ禍の中でも、花や虫や動物達は確実に明るい春を迎えようとしています。

おたまじゃくしに少しパワーをもらって、良い気分で素戔嗚神社を後にしたのでした。