20周年記念松実会大会に出演して参りました

今日は大阪の山本能楽堂にて、石黒実都師主宰の「20周年記念松実会大会」に出演して参りました。

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20年前はまだ私は東京芸大の学生でした。

松実会の20年の遥かな道のりを想像いたします。

無数の出来事や、別れや出会いを経て、今日の晴れやかな舞台があるのでしょう。

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能「絵馬」も大変素晴らしい舞台でした。

その後ツレである男神と女神を勤めた2人が、朝から実に息の合った行動をしていました。

舞台上でも、難しい「神楽相舞」を良く揃えて舞っていたのです。

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終わった後の宴会で、2人は京都女子大宝生会の同期だったことがわかりました。

現役の4年間で喜怒哀楽を共にした2人が、少しの時を経て舞台の上でふたりの神様になり、同じ舞を舞うのです。

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入部当時の彼女達は、将来そんな出来事が起こるとは夢にも思わなかったでしょう。

しかし、大学を卒業してもコツコツと稽古を続けてくれたこと、そしてもちろん石黒実都師が20年間息長く「松実会」の稽古を愛情を持って続けてこられたことで、「同期の神楽相舞」という奇跡のような舞台が実現したのです。

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この上なくパワフルな石黒実都師は、この先も松実会をずっと盛り上げていかれることでしょう。

また次回以降も、今日の記念大会のようなドラマチックで素晴らしい舞台に出会えることを楽しみにしております。

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石黒先生、松実会の皆様、本日は誠にありがとうございました。

予祝いの晩御飯

今日は朝から京都に移動して、久しぶりに「ゲストハウス月と」にて紫明荘組稽古でした。

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21日に開催の「第14回澤風会京都大会」直前の稽古だったので、沢山の方々に来ていただきました。

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京大宝生会のOBOGも沢山で、稽古が終わってから神戸大宝生会OBの方も含めて5〜6人で晩御飯を食べに行きました。

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話題は京大神大、現在過去未来と360度以上に及んで、終盤は半ば混沌としていたのですが、その中で早くも来年の「澤風会15周年記念大会」の話が出ました。

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4年前の「10周年記念大会」では能「加茂」が出ました。

更に9年前の「5周年記念大会」に遡ると、能「夜討曽我」、「藤」、「井筒」、「船弁慶」と4番の能が出たのです。

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今年の第14回大会の能「羽衣」を経て、来年はどんな能が出ることになるのでしょう。

しかし勿論、先ずは今週末の第14回大会が肝心です。

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晩御飯の途中でOBのM君が、「確か新潟辺りでは”予祝い”という慣わしがあるそうですよ」

と言いました。

物事の成功を予めお祝いしてしまう、という風習だそうです。

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あらかじめ盛大にお祝いをすれば、成功に向けてのモチベーションは確かに上がると思います。

それでは今日の晩御飯は「第14回澤風会大会」の”予祝い”になるのだろうと、我々は一層盛り上がったのでした。

シンクロナイズド能楽師

今日は宝生能楽堂にて開催の「月並能」で、能「鵺」の地謡を勤めました。

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地謡では、以前書きましたが座って、扇を抜いて、その扇を前に回して…という作法を全員が揃って同時に行います。

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…実は昨日の「彦根城能」の時に、地謡ではない所で能楽師のシンクロ現象が発生しました。

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昨日私は京都を正午に出て、JR普通電車で彦根駅に向かいました。

車窓の田園風景を楽しみながら1時間ほどで彦根駅に到着して、席から立ち上がって扉の方に振り返ると…

私「あ…」

石黒実都師「あれ…」

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同じ車両のほんの数列後ろに、石黒師が座っていたようなのです(12両編成)

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石黒師「お昼ご飯食べて行っていいかなぁ」

私「済ませてきましたが、コーヒーなら付き合いますよ」

そして、彦根駅前の適当なお店に入りました。

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私「このお店にも誰かいたりして…」

という言葉の途中で、先に入った石黒師の笑い声が聞こえてきます。

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え?まさか…と思って扉をくぐると…

山内崇生師「よ!お疲れ様!」

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ななんと、一番手前のテーブルで、来たばかりの丼を前にした山内師が微笑んでいたのでした。。

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山内師「これ”彦根丼”。美味しそうでしょ?」

石黒師「へぇ〜、じゃあ私は”彦根うどん”ひとつお願いします!」

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…このような石黒師、山内師との奇妙なシンクロ現象は、何故か度々起こります。

普段は全国のバラバラな場所で活動しており、性格も全く異なると思われる我々です。

しかし、長年同じ仕事場を経験して来た結果、ある舞台に向かう時の脳の働き方が、おそらく似通ってしまうのだと思われます。。

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それが嬉しいかと言うと、そうでもありません。

電車でバッタリ会った時…

私「なんか残念というか悔しいですね。。」

石黒師「ほんまやね…私高槻から普通に来ただけやのに…」

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何か運命に負けた感じがある、能楽師のシンクロ現象。

若干不本意ながら、この先も度々続くのだろうと思われます。。

彦根城能に出演して参りました

今日は「彦根城能」に出演して参りました。

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彦根城能舞台は江戸時代の寛政12年に作られたという舞台です。

橋掛りがかなり斜めに付いているのも、歴史ある能舞台の特徴なのです。

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今日の能「望月」の子方は、フルサイズの”羯鼓”の舞があるなど色々と難しい役です。

今回勤めた男の子は、非常に気合いの入った良い演技でした。

聞けばお父さんとお兄さんも以前に「望月」の子方を勤められたそうで、きっとこの役には期する所があったのでしょう。

舞台を無事に終えた男の子は、ひとつ大人になった良い顔をしていました。

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「望月」の地謡座に座っていると、途中でなんだか袴に入れた手が非常に痒くなってきました。。

目だけを動かして辺りを見ると、なんと沢山の蚊が飛んでいます…。

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地謡座では動けないので、「耐えるしかないか…」と思ったところで、ふと気がつくことがありました。

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能「望月」の舞台は”近州守山の宿”で、この彦根からも比較的近い場所です。

そして”近州守山”とは、古来「蚊の産地」として知られているのです。

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「人間ほどもある蚊がいる」という伝説もあって、そんな人間大の蚊が出てくる「蚊相撲」という狂言もあるくらいです。

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なので、

「歴史ある舞台の上で、名高い名所の蚊に刺されるのもまたひとつの思い出になるか…」

と痒さを我慢して地謡に没頭していったのでした。。

第14回澤風会申合が終わりました

昨日は「松実会申合」でしたが、今日は香里能楽堂にて「第14回澤風会大会」の申合がありました。

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今回の澤風会では、舞囃子「高砂」と能「羽衣」が出るので、その2曲の申合でした。

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舞囃子「高砂」シテの会員さんは、去年宝生流教授嘱託になられて、澤風会で能「小袖曽我」の曽我五郎を勤めた方です。

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そして今回能「羽衣」シテを勤める会員さんは、この度教授嘱託の資格を取られることになりました。

10年ほど前に紫明荘で全くの初心から稽古を始めて、澤風会10周年大会では能「加茂」後シテ、去年の能「小袖曽我」でツレ母と、順調に経験を積んでこられました。

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紫明荘で稽古を始めた人が教授嘱託の資格を取る、というのは亡くなられた植田竜二先輩の望みでもありました。

今回ようやく植田さんにそのご報告ができることになり、大変嬉しく思います。

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先ほどの申合での能「羽衣」は、長く稽古を重ねた甲斐あって、ほぼ完成に近い段階に来ていました。

しかし修正点もいくつか見つかりました。

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本番までにはまだ何回も稽古があるので、更に稽古をして、

「紫明荘で稽古を積んだ人はしっかりしている」

と思ってもらえるように頑張りたいと思います。

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当日は植田先輩も能楽堂のどこかで、ニコニコして舞台を見守っておられることでしょう。

見どころ満載の「絵馬」

今朝は京大合宿から大山崎稽古に直行して、その後夜には大阪の山本能楽堂にて、石黒実都師の「松実会」申合に出演して参りました。

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今回の松実会は「20周年記念・第10回」

という記念大会だそうです。

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記念大会に相応しく、能は「絵馬」というお目出度い曲が出ます。

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この能「絵馬」には、前後で4人のシテとツレが登場して、5つの能面が使われます。

なんとこの5面全てをシテの会員さんが打たれたとのことです。

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そして舞台には、前半は伊勢神宮の社殿、後半は”天の岩戸”として用いられる「宮」の作り物が出されます。

この曲の「宮」は特殊な構造で、観音開きの扉が自動で閉まるように細工されています。

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今回これまたなんと、この複雑な構造の「宮」を、石黒実都師ご自身で手作りされたそうなのです。

今日拝見しましたが、布の張力を上手く利用して扉が自動で閉まるようになっており、その精巧さに驚きました。

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もちろん能面や作り物だけでなく、超絶的スピードの後シテ”神舞”や、後ツレの”神楽相舞”も、この曲ならではの演出です。

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このように見どころ満載の能「絵馬」の他にも、沢山の舞囃子、仕舞、謡などが出る「松実会」です。

9月16日(月・祝)午前10時半より、大阪谷町四丁目の山本能楽堂にて開催されます。

皆さまどうかご来場くださいませ。

ワールドワイドなパンフレット

今日は岐阜の「長良川薪能」に出演して参りました。

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長良川河川敷にて行われる予定でしたが、残念なことに天候が良くなかったため、市民会館での開催となりました。

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能は家元がシテの「清経」でした。

楽屋に到着して、置いてあったパンフレットを何気なく手に取ってみました。

“当日用”は内容が少し違うこともあるのです。

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能の解説を読もうとして、ふと違和感を感じました。

見慣れない単語が目に入ったのです。

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「あれ?こんな言葉があったのか。或いは東海地方の方言のようなものだろうか…?」

と思って、本文を読み進めようとしたら、今度は何故か文字が全く頭に入って来ません。

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「…疲れているのだろうか?或いは”文字が読めなくなる病気”というのがあったかも…」

と一瞬不安になったのですが、よくよく見ると理由がわかりました。

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そのパンフレットは全ての内容が”中国語”で書かれていたのです。

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その横には、普通の日本語のパンフレットと、更に全て英語のパンフレットも並べてありました。

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ひとつの薪能公演に3カ国語のパンフレットを用意するのは大変なことと思います。

しかしこれだけ海外からのお客様が増えた現代です。

こうして色々な言語に対応して宣伝するのは、とても効果的で大切なことなのだろうと思いました。

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色々ととても丁寧に準備されている舞台でした。

関係者の皆様どうもありがとうございました。

2019亀岡浴衣会

今日は亀岡・大本宝生会の浴衣会でした。

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いつも「亀岡の花々」のレポートばかりなのですが、会員の皆さまは普段から非常に熱心に稽古を積み重ねておられます。

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今日の浴衣会では、半分以上の仕舞を会員さんだけで地謡をうたわれて、私と満次郎師は拝見しておりました。

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初舞台「鶴亀」の仕舞の方も、先週の稽古から大きく進歩しておられて、ご自分でしっかりとおさらいされたのだなぁと嬉しく思いました。

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ベテラン組の方々の仕舞の時間帯になると、さすがに皆さん落ち着いておられて型も正確です。

ほんの数年前には、この中の何人かの方々は仕舞初舞台だったのかと思うと、その上達ぶりにまたしみじみと嬉しくなりました。

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これだけの歴史があって技術レベルの高い能楽グループは、実は全国的にもそうそう存在しないと私は思います。

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今日初舞台や2回目の舞台だった方、またこの数年で順調に上達された方、そして数十年単位で続けてこられた大ベテランの方々が融合して、大本宝生会はこの先数年でまた大きく発展すると思われます。

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未来への希望を感じた今日の亀岡浴衣会でした。

大本宝生会の皆様どうもありがとうございました。

下からの突き上げ

今日は熱海のMOA能楽堂にて、親子向け能楽教室の舞台に出演して参りました。

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能は「土蜘」で、シテが辰巳大二郎さん、頼光が辰巳和磨さん、小蝶が藤井秋雅さん、トモが上野能寛さんと、とても若い能楽師たちの舞台でした。

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私と同時期の内弟子世代よりも、ふた世代ほども入れ替わった下の世代達が、500人の満員の見所の前で堂々と「土蜘」を演じていました。

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これまで私は先輩達の舞台を見て、「なんとかあのように謡ったり舞ったりしたいものだ」と、少しでも追いつくために努力をして参りました。

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しかし今日若手の舞台を地謡から見ていて、「下からの突き上げ」という言葉が頭に浮かんできたのです。

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少しでも気を抜いていると、この若者達に追いつかれ、追い越されてしまうかもしれないな…

と、改めて気を引き締めました。

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しかし一方で、そのような勢いのある若手がいてくれるのはとても有り難いことだとも思いました。

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先輩達に追いつこうとする努力と、下の世代に追いつかれないようにする努力。

この先は二重の努力が必要であり、結局はその努力が私自身の芸を磨くことに繋がるのでしょう。

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「下からの突き上げ」のおかげで、自分の立ち位置と今後の方針を自覚することが出来た、有り難い舞台でした。

60人の初舞台!

今日は大阪の香里能楽堂にて「枚方市能楽体験教室発表会」が開催されました。

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午前中に大人の部、午後から子供の部の合計60人ほどが、ひと夏の間稽古した仕舞を披露したのです。

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何がすごいと言って、今日舞台に立った60人全員が「初舞台」なのです。

ズラリと並んで出番を待つ生徒さんに声をかけてみました。

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私「普段我々が出る発表会では、1人でも”初舞台”の方がいると大変おめでたいことなのです。今日はめでたさなんと60倍なのですよ!」

すると、

生徒さん「へえ〜、そうなのですか!それはギネスブックものですね!」

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確かに1日に60人の初舞台は、私の経験した舞台では最多記録更新です。

ギネスに申請して、登録されるかは大変微妙なところですが…。

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ともあれ大人から子供達まで、短期間の稽古で驚くほどの成果をあげた今日の舞台でした。

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才能があると思う人が本当にたくさんいらしたので、この教室が今後も続いていけば、更にレベルの高い仕舞が見られるだろうと想像いたしました。

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繰り返しになりますが、今回の能楽体験教室では枚方市のスタッフの皆様には大変お世話になりました。

今日も朝7時半頃から夕方まで、猛暑の中を走り回って舞台のサポートをしてくださいました。

心より感謝申し上げます。