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「地水火風」ご報告と御礼

岩手県奥州市の曹洞宗古刹 正法寺における「地水火風」の舞台は、おかげさまで昨日無事に終了いたしました。

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正法寺本堂は、決して装飾的な派手さはありませんが荘厳で巨大で、何か圧倒的に骨太な力を感じる建造物です。

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その本堂の堂内、能舞台が5面はとれる程の広大な空間に、マグダレナ・ソレ氏の写真を映し出すスクリーンが3面据え付けられていました。

スクリーン前の、2部屋にまたがった縦長のスペースが私が舞う舞台になります。

そしてラルフ・サミュエルソン氏が尺八を演奏する椅子と譜面台は、舞台左前方に据え置かれていました。

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装束をつける部屋には、釈迦如来像、文珠菩薩像、普賢菩薩像の三体の小ぶりで非常に美しい仏像が置かれています。

「よろしくお願いいたします」と合掌して、能装束への着替えに入りました。

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「地水火風」は、地・水・火・風それぞれが5〜6分ずつの曲です。

その合間に数分の尺八ソロと写真のスライドショーが挟まり、私は仏像の部屋で素早く装束を替えて再び舞台に出て行くわけです。

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装束は曲に合わせて4回かわります。

しかし装束つけをしてくれる楽師は、辰巳和磨さんただ1人です。

最小人数で、最短の時間で早替わり出来るように様々な工夫を凝らしました。

その甲斐あって、本番の着替えは実にスムーズに進みました。

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ラルフさんの尺八と私の舞も、この1週間みっちり稽古したおかげで本番では今までで一番良く合っていました。

稽古段階では、舞が終わっても尺八が残ってしまったり、逆に尺八演奏が終わっても舞が終わらない事がありました。

しかし本番では4曲全てぴったり同時に終えることが出来たのです。

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見所には台湾からの20人ほどの団体もいらしていて、とても熱心にご覧くださり、終了後には大変喜んでいただきました。

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他の分野の芸術、芸能との本格的なセッションは私にとって初めての経験でした。

そして沢山の方々の力がひとつになって、「地水火風」の舞台は成功裏に終わることが出来たのです。

実に勉強になり、また多くの縁が結ばれた本当に貴重な経験になりました。

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改めてまして岩手未来機構の皆様始めスタッフの方々、正法寺の皆様、そしてマグダレナ・ソレ様、ラルフ・サミュエルソン様、装束や撮影などにご協力くださいました皆様、誠にありがとうございました。

心より御礼申し上げます。

「地水火風」無事に終了いたしました

昨日のリハーサルに続いて、尺八×写真×能のセッション「地水火風」の本番が先ほど無事に終了いたしました。

正法寺の皆様、また岩手未来機構を始めとする関係者の皆様、そして連日お手伝いいただいた辰巳和磨さん、誠にありがとうございました。

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大変貴重な経験になった今回の「地水火風」。

書くことは山ほどありますが、また明日以降にゆっくりと書かせていただきたいと思います。

今日はこれにて失礼いたします。

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「地水火風」リハーサル

今日は岩手県の「正法寺」にて、能楽と尺八と写真のセッション「地水火風」のリハーサルに参加いたしました。

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正法寺に到着するとこんなポスターが飾られていました。

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舞台となる正法寺本堂は、「日本一大きな茅葺き屋根」を持つ建物だそうです。

水沢江刺駅から山道をくねくね登っていくと、山あいの斜面に突如としてこのような巨大建造物が現れるのです。

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…と言っても、この写真では大きさがわかりづらいですね。。

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というわけで、もう一枚撮ってみました。

写真の左下に、”ウォーリーを探せ”レベルの小ささで人が写っています。

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この巨大な本堂の中で、曹洞宗の非常に高い位におられる正法寺山主様の前での「地水火風」リハーサルでした。

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縦に長く取られた舞台、短時間での3回の早替わり、そして次々と投影される写真と尺八とのタイミングの合わせ方など、難しい要素がたくさんありました。

しかし本番と全く同じ進行で、見所には山主様など10人ほどがいらっしゃる中で、何とかリハーサルを無事に終えることが出来ました。

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あとは体調を整えて本番を待つのみです。

日本とアメリカ。岩手と東京と京都。

今週末に、岩手県水沢江刺の「正法寺」という曹洞宗の古刹にて、尺八奏者ラルフ・サミュエルソン氏と写真家マグダレナ・ソレ氏との合同舞台があります。

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「地水火風」をテーマに、素晴らしい尺八演奏と美しい写真に合わせて、日本最大の茅葺屋根を持つ正法寺本堂で私が舞う、という企画です。

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今日も朝から江古田舞台でラルフさんとの稽古がありました。

著名な尺八演奏家でありながら、いつもニコニコして実に柔らかな雰囲気をお持ちのラルフさん。

「オールドグランダッド」

という柔らかな味の、私の好きなバーボンウィスキィを何となく思い浮かべてしまいました。

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尺八に合わせて舞う、という企画ながら、私は1年前まで尺八演奏を殆ど聴いたことがありませんでした。

ラルフさんの演奏のCDを聴いても、当初は全くリズム感や抑揚を掴むことができずに焦りました。

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しかし、ラルフさんは春頃に、「地、水、火、風」という4曲の尺八演奏をアメリカから送ってくれました。

それぞれが5〜6分のこれら4曲を繰り返して聴くうちに、尺八のゆったりとしたリズムが徐々に感じられてきました。

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これらの曲に、東北地方の自然と歴史を織り込んだ舞を重ねていくことは、困難ながらもとても勉強になる楽しい作業でした。

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そして一曲ずつ出来上がっていく「地水火風」を、東京芸大の青年や京大宝生会の部員の力を借りて動画にして、アメリカのラルフさんに送りました。

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そうして太平洋を跨ぐやり取りの末に、昨日ついに日本でラルフさんの生演奏に合わせての「地水火風」稽古が行われたのです。

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初めての稽古ながら、聴き込んで耳に馴染んだラルフさんのメロディに合わせてごく自然に舞うことが出来ました。

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あとは正法寺でのリハーサルを経て本番を迎えます。

岩手未来機構の皆様には、この企画に向けた準備段階から大変お世話になりました。

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日本とアメリカ。

岩手と東京と京都。

遠く離れた土地の沢山の方々のお力をいただいて完成した「地水火風」。

その舞台が良いものになるように、あとは体調を整えて、装束などの準備をしっかりとしたいと思います。

鞍馬天狗 天狗揃

今日もまた水道橋宝生能楽堂に行き、「秋の別会能」に出演して参りました。

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私は能「鞍馬天狗 天狗揃」の地謡を勤めました。

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「天狗揃」という小書(特殊演出)は、宝生流の定例会では数十年に一度しか出ておりません。

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通常の「鞍馬天狗」の後場では、シテ大天狗が1人出るだけです。

しかしこれが「天狗揃」になると、ツレ小天狗が7人、シテと合わせて計8人の天狗が登場して、それぞれ順番に牛若丸に稽古をつけていきます。

ちなみにツレは”小天狗”と言いながら、実はそれぞれが主役を張れるほどの名のある天狗達なのです。

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最後の部分で大天狗は牛若丸に、

「今後の合戦においては、我々天狗勢が影ながらあなたに加勢いたしましょう」

と告げて鞍馬山中に消えて行きます。

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今日の場合はその言葉が、全国の有名な天狗達を引き従えた大天狗から告げられる訳で、謡っていて大変な説得力を感じました。

義経が平家との合戦において連戦連勝したのは、彼ら天狗の超人的な能力に助けられたからなのかもしれません。

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一ノ谷で、また屋島や壇の浦で、宙空を翔け回って源氏に加勢する無数の天狗達を想像して、何かそんなお話でも書いたら面白いかも…

などと思いながら帰路についたのでした。

2019年篁風会大会に出演して参りました

今日は水道橋宝生能楽堂にて、藪克徳師主宰の「篁風会大会」に出演して参りました。

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例年通りの盛りだくさんの内容で、朝から晩までなんと10時間にもわたる舞台でした。

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藪克徳さんは昨日一昨日の申合から含めて3日間、殆ど舞台に出突っ張りの状態で、これも例年のことながらその超人的な働きぶりには驚かされました。

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そして息子さんの俊太朗君も、今日は朝一に仕舞「経政キリ」を舞い、その後には能「百万」の子方を勤めていました。

更に明日開催の「別会能」で俊太朗君は能「鞍馬天狗 天狗揃」の花見児を勤めるのです。

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ちなみに父親の克徳さんは後ツレ天狗と、親子で同じ曲への出演になります。

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俊太朗君も、どうやら働き者のお父さんの血を引いていると思われます。

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年々頼もしくなる息子さんの成長と共に、篁風会の更なる発展を祈念しております。

篁風会関係者の方々本日は誠にありがとうございました。

御息所が抜けていって…

昨日の五雲会には、ご遠方からもたくさんの皆様にお越しいただきまして、誠にありがとうございました。

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能「葵上」に関しては、自分でやろうとした事の大半は表現できたと思います。

あれが私の今回の”六条御息所”の解釈でした。

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しかし舞い終えて感じたのは、この「葵上」という曲は、今回と違う解釈で演ずれば全く異なる色の曲に変貌するのだろうという事でした。

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願わくばこの先何回も「葵上」を、それぞれ違うカラーで演じてみたい。そう強く思いました。

そういう願望を感じた曲は初めてで、なんとも不思議な能と出会ったものだと思います。

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私はあるシテが終わると、独特の”虚脱感”を感じます。

そして今回”六条御息所”が抜けた後には、これもまた過去感じたことの無い規模の、大きな”空虚”が残りました。

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このシテの後の虚無感を埋めて現実に戻るために、私はいつも初めての道を当てもなく歩くようにしています。

今は三河島駅の横の公園で、ブランコの練習をする親子をぼんやりと眺めながらブログを書いております。

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今日は日暮れまで歩いて、明日からの稽古の日々に向けて徐々に現実に帰りたいと思います。

“闘い”の日々

今日は予定の稽古が延期になり、「葵上」の最終稽古のみの1日になりました。

昨日の五雲会申合でいただいた色々なご注意と、自分で感じた修正点を水道橋宝生能楽堂の舞台でじっくりと確認いたしました。

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「葵上」という曲と格闘した日々も今日で最後、明日は本番なのです。

今は何か武者震いするような「早く舞いたい」気持ちと、「明日で終わってしまうのか…」という感慨と、少しだけ寂しいような気持ちとが色々入り混じっています。

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今回の「葵上」に関してのブログでは、”悪戦苦闘”、”闘い”、”格闘”というような言葉を多用しました。

この曲に取り組む時には、稽古というよりも何故か”闘う”という心持ちになってしまったのです。

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稽古中に、これはシテ「六条御息所」の強い想念と真正面から向き合う闘いであると感じました。

また逆に「六条御息所」の目線での、自分を覆い尽くそうとする激しい怨みや悲嘆や絶望感との闘いにも感じられました。

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「道成寺」以外では、これまで舞った中で一番難しい曲でした。

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この”闘い”を明日の舞台でどのように昇華させることが出来るのか。

それを思うとやはり「早く舞いたい」と武者震いを覚えてしまいます。

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皆様明日は是非宝生能楽堂の「五雲会」にお越しくださいませ。

正午開始で、

能「敦盛」辰巳和磨

能「井筒」大友順

能「葵上」澤田宏司

という番組です。

どうかよろしくお願いいたします。

地上40階の「八島」

今日は午前中に五雲会申合がありました。

私の能「葵上」も申合をいたしました。

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その後に新宿の高層ビルの40階で「八島」を謡うという仕事があり、これは私の経験中でも最も高い場所での舞台のひとつでした。

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終わって装束を返したらもう23時近くで、「葵上」の申合で色々ご指摘いただいた注意点や、自分で感じた諸々は明日じっくりと時間をかけて消化したいと思います。

短いですが今日はこれにて失礼いたします。

六条御息所の形態変化

今日は午前中に宝生能楽堂で五雲会の稽古がありました。

私の「葵上」も勿論稽古していただきました。

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悪戦苦闘の末に、謡と型はようやくひとつの方向にまとまろうとしております。

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しかし、「葵上」には謡や型とは別の、ある難しい問題があるのです。

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シテ六条御息所が一番上に纏っている「唐織壺折」という装束がそれです。

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この一枚の「唐織壺折」という衣が、「葵上」一曲の中で様々に形態を変えて使用されるのです。

そして衣の形態変化に合わせて、六条御息所は”人間の姿”から”真の鬼の姿”へと少なくとも4通りに変化していきます。

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その衣の使用形態の変わり目で、シテの技能が色々と必要になるのです。

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この衣の扱いが上手くいかないと、変化した姿がいびつなものになってしまいます。

しかし何度かある変化の全てが上手くいくかどうかは、「時の運」による部分もあるのです。。

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この衣の扱いの稽古もしっかりとしておいて、美しくも恐ろしく変化していく六条御息所の姿を本番の舞台でお見せ出来ればと思っております。