理想的な稽古時間

今日は松本稽古でした。

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有り難いことにこの半年で人数が増えた松本稽古場ですが、今日は久しぶりに静かな稽古日になりました。

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13時半から稽古を始めて、夜に終えるまでにいらしたのがベテラン組お1人、新人さんお2人、仕舞のみの親子の合計5人。

ゆっくりと稽古いたしました。

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一方でおとといの紫明荘組稽古などは、同じくらいの時間で15人いらして、人が多過ぎてお1人あたりの稽古時間が短くなってしまったのです。

その日の参加人数ばかりは、稽古を始めてみないとわからないのが悩みどころです。

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私の理想とする稽古時間は、お1人あたり仕舞2〜3回、謡20〜30分なのです。

それが一昨日の紫明荘組稽古では仕舞1〜2回、謡15分前後になってしまいました。

かたや今日の松本稽古ではお1人仕舞3回、謡1時間くらい稽古したことになります。

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紫明荘組で短い稽古だった方は、また今日の松本のような時にゆっくりと稽古させていただきたいと思います。

どうかご容赦くださいませ。

4曲の強者達

今日は午後に江古田で何人かの個人稽古をして、夕方から田町稽古に移動して夜まで稽古しました。

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江古田から田町までの移動中は、普段は文庫本を読んでいます。

しかし今日私は電車に乗るとすかさず”小本入れ”を取り出しました。

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今月の18日〜28日の間に、「忠信」「藤戸」「昭君」「新作能 王昭君」という4番の能の地謡を謡うことになっているのです。

最近ではこの4番の小本を常に持ち歩き、時間があれば見るようにしています。

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短い曲ながら、戦闘シーンの謡で似た言葉が多く出てきて、謡が飛んだり、抜けたり、ループしたりする危険性のある「忠信」。

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強弱、緩急、心持などに繊細な気遣いが求められる、難易度の高い名曲「藤戸」。

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構成がかなり特殊で、また数年に一度しか出ない希曲であり、地謡の量の多い「昭君」。

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一度しか上演されておらず、従って地謡の経験も一回だけの新作能「王昭君」。

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何れ劣らぬ手強い武芸者が4人並んでいるようです。。

これから今月末までは、この強者達4曲を同時に相手にして、厳しい鍛錬を積んで参りたいと思います。

日本女子大初稽古

今日は昼から江古田稽古でした。

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団体稽古を夕方に終えて、個人稽古の時間になってしばらく経った17時頃。

「お邪魔いたします」

と礼儀正しい声が聞こえてきました。

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稽古場に入って来たのは、日本女子大の新入生2人。

これまで日本女子大の和室で母親が稽古していたのですが、今日は初めて私が江古田稽古場で稽古することになったのです。

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記念すべき(?)初稽古は、「羽衣」の謡から始まりました。

ワキ「我三保の松原に上がり…」から、地謡「天人の五衰も目の前に見えてあさましや…」まで。

弱吟の8つの音の説明なども含めて、30分ほど稽古しました。

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2人ともちゃんと声が出ており、しかも素直な声質に聞こえました。

そして稽古が終わると2人仲良く足が痺れて立てないというのも、お約束でした。。

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少し足の痺れを直して、今度は仕舞「羽衣キリ」に取り掛かりました。

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今度は1人ずつのシテ謡です。

自分だけでは謡えません…というので一緒に謡ったのですが、聞いていた限りではちゃんと力の入った、やはり素直で大らかな謡でした。

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型も一緒にやれば完全について来れるレベルまで達していました。

私の経験からすると、この先半年も稽古すれば全宝連の学生達と比べても遜色無いほど上達するのは間違いないと思われます。

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2人は稽古後に母親と、夏休み中の稽古日程なども相談していました。

日本女子大の学風で非常に真面目な彼女達が、この先どのように稽古を重ねていくのか、そしてどんな舞台を見せてくれるのか。

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今日の初稽古を経て、非常に楽しみになって参りました。

合掌マスター…?

全宝連の心地良い興奮が冷めやらぬまま、私は通常の稽古の日々に戻りました。

昨日は松本稽古でした。

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仕舞の稽古でちょっと面白いことがありました。

「敦盛キリ」と「女郎花キリ」と「花筐クルイ」の仕舞を順番に稽古した時のことです。

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これらの仕舞には、ある共通した型がありました。

「合掌」です。

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現代日本人が普通に「合掌」する時は、両手のひらを合わせますが、能の型の「合掌」は少しやり方が異なります。

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①扇を握っている右手を開いて、指を完全に伸ばして揃えます。

②同時に扇をひっくり返して持ちます。(紙と竹の境目付近を親指の付け根で挟み、要の部分が中指の先付近にあたるようにします)

③左手も右手と同様に開きます。

④両手のひらが上を向くようにして持ち上げていき、小指と薬指が触れるように身体の正面で合わせます。

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…というのが大まかな手順なのですが、この中の②の「扇をひっくり返して持つ」という箇所で、3人の方々が全く同じように苦労されていたのです。

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私は稽古の時には「親指と人差し指で扇を固定して持ち、残りの3本の指を扇の内側に握り込み、その3本を伸ばしていくと扇がひっくり返ります」

と教えるようにしています。

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ところがそのやり方でやっているのに、何故か結果的に全然違う持ち方になっており、ご本人も私も思わず笑ってしまう、というのが3回続いた訳です。。

昨日はその後も皆さんで顔をつき合わせて扇を何度もひっくり返している姿を横目で見て、微笑ましく思いながら続きの稽古をしておりました。

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…しかし、実は「合掌」にはさらに難しい段階が存在するのです。

それは、

「能面をかけて合掌する」

というやり方です。

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能面をかけていると、合掌する時の自分の指先が全く見えません。

つまり目をつぶって合掌するのと同じです。

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すると不思議なことに、持ち上げた両手の指先が前後や上下にずれてしまい、なかなかぴったり合ってくれません。。

確実に両手が合うには、経験と集中力が必要なのです。

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…というわけで、上記①〜④の合掌が出来るようになった方は、今度は目を閉じての合掌に挑戦してみてください。

それが出来るようになれば、立派な「合掌マスター」と言えると思います。

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次回の松本稽古で「合掌マスター」にお会いするのを楽しみにしております。

子供達との夏休み

京都紫明荘組の稽古場として、最近毎月「ゲストハウス 月と」さんを使わせていただいております。

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築100年以上の京町家を改装したこのゲストハウスで、夏休みに地域の子供達を主な対象とする「寺子屋」形式のイベントが開催されることになりました。

そしてなんとその「寺子屋」の先生として、私にも参加のオファーが届いたのです。

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寺子屋の先生というと、非常に厳格であり、また何でも知っている博学の人、というのが私のイメージです。

そのイメージとは対照的に何ごともいい加減な私などに、何故白羽の矢を立ててくださったのか実に不思議です。。

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しかし歴史ある京町家で、地元の子供達に能楽を体験してもらうというのは貴重な機会です。

せめて1日だけでも真面目な寺子屋の先生になったつもりで頑張ります。

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今年の夏は、大阪の枚方市と岡山の吉備津神社でも子供向けの仕舞教室があります。

京都の寺子屋と合わせると、ひと夏で60〜70人の子供達に能楽を教えることになるのです。

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子供達の夏休みの記憶に「能を経験して楽しかった!」ということが残るように、各地の教室を精一杯頑張りたいと思います。

急坂登りと仕舞稽古

今日は午前中に大山崎稽古でした。

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JR京都線の踏切を渡った所に天王山の登り口があり、そこから稽古場の「宝積寺」まで続く坂道は、私の知っている中では一番急で長い坂道です。

昔内弟子の頃に、タレントが坂道を全力疾走で登るという深夜番組を何度か見ましたが、宝積寺への急坂は、常人ではとても走っては登れないと思います。

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それほど急な坂道を、大山崎澤宝会のある御高齢の会員さんは、毎回歩いて登って稽古に来てくださいます。

数年前に膝を悪くされたという事なのですが、杖をつきながらも確りとした足取りでゆっくりと登って来られるのです。

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そして、仕舞の稽古も「膝がまだ治らず、座れなくてすみません」と仰りながら、休まず毎回参加されています。

今日も仕舞「女郎花クセ」と「松虫キリ」の2番を、他の3人の会員さんと並んで頑張って舞っておられました。

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この2番のうちのどちらかを、9月21日の澤風会京都大会の舞台で舞っていただきたいと思っています。

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膝への負担を出来るだけ軽くするように、私も気をつけてお稽古して参りますので、どうかこの先もずっと、毎年大江能楽堂での澤風会大会で仕舞を舞っていただきたいと願っております。

幼稚園以来…!

今日は終日江古田稽古でした。

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澤風会最高齢90歳の会員さんは、今日も元気にいらしてくださいました。

夏の「七葉会」では素謡「草紙洗」の王と、仕舞「鮎之段」に出演してくださるので、今日はその稽古をしました。

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稽古を終えて、「変わらずお元気ですね!」と声をかけると、

会員さん「いえいえ、私もう先生の3倍も生きているんですから…」

私「いやいや、それだと今は150歳になるはずですよ(笑)」

しかし、本当に150歳までお元気でいらっしゃるような気もいたします。。

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更に、

私「これまで病気で稽古お休みというのは一度も無いですよね」

会員さん「ええ。でも病気をした事はあるのですよ。幼稚園の時にジフテリアになって、もう大変で…」

…!!

なんと幼稚園以来病気とは無縁なのですね!

それは実に驚異的で素晴らしいことです。

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これからも澤風会全員のお手本として、いつまでもお元気で稽古にいらしていただきたいと思っております。

第9回七葉会に向けて

今日は午後に少しだけ江古田稽古、その後に田町に移動して夜まで稽古でした。

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江古田と田町で今稽古している仕舞と謡は、大半が8月10日、11日に宝生能楽堂にて開催される「第9回七葉会」に出す演目です。

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例えば今日は仕舞「是界」、「松虫クセ」、「田村クセ」、「笹之段」、「嵐山」などを稽古したのですが、いつの間にか皆さんほぼ完成していて驚きました。

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私の場合、仕事のひとつの山場を越えるまでは、次の舞台のことをあまり考えられない傾向があります。

最近では能「鵜飼」と「草紙洗」の稽古をしている間は、頭の中はその2曲でいっぱいいっぱいでした。

しかしもちろんその間も、澤風会稽古は変わらないペースで淡々と積み重ねていたのです。

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そして「鵜飼」と「草紙洗」が終わって冷静になってみると、江古田田町の皆さんが夏の「七葉会」へ向けての準備を順調に進めてくださっていた事に気がついた訳です。

これは大変有り難いことでした。

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もちろんまだ改善する余地はありますし、謡の方はまだこれから役の稽古をする段階です。

ここから暫くは、江古田田町は「七葉会」に向けて力を入れて稽古して参りたいと思います。

江古田田町の皆様、この調子で本番までどうかよろしくお願いいたします。

御夫婦揃っての稽古

昨日は松本稽古でした。

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今年に入ってから稽古を始めたばかりの信濃大町の御夫婦は、いつもお2人揃って稽古場にいらっしゃいます。

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昨日も夜の初心者向け稽古時間の少し前に仲良く一緒にいらして、

「先日2人で山に行って採ってきたのです。」

と、山菜のお浸しを全員に振る舞ってくださいました。

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仕舞の曲と進度もほぼ同じで、お2人とも昨日で仕舞「鶴亀」が完成して、次の仕舞「猩々」に入りました。

今年11月に予定されている「松本澤風会大会」では、やはり御夫婦揃っての”初舞台”となることでしょう。

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しかし実はこのパターンは澤風会においては非常に珍しいのです。

御夫婦で稽古されている方でも、大抵は時間をずらして稽古に来られます。

また例えば奥様が稽古されていて、私が「よろしければ御主人も稽古されませんか?」

などと聞いても、

「向こうに先に上達されると癪なので、絶対いやです!」

と、断固として拒否されたりするのです。。

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また別の御夫婦などは、奥様はダイビングが、御主人は能楽がそれぞれプロ級の腕前なのですが、お互いの領域には決して入ろうとしないようです。

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なので、信濃大町の御夫婦は本当に貴重な存在なのです。

これからもどうか仲良く稽古を続けてくださり、夫婦で上達して行っていただければと願っております。

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ずっと同じ仕舞曲で進んで行くのか、ある段階でそれぞれ曲の好みが出てきて、別の曲になって行くのか、その辺りも楽しみに見守りたいと思います。

記憶に残る日にするために

私が能「鵜飼」のシテを勤める「五雲会」が、いよいよ明日本番を迎えます。

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今回は澤風会郁雲会の皆さんに加えて、京大宝生OB会の方々、また京都からは京大宝生会現役達、そして松本から、仙台から、青森からも、合わせて50人を超える知己の方々が観にいらしてくださる予定です。

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そして驚いたことに、15年前に京大宝生会で能「鵜飼」のシテを舞ったOBが、ドイツから今回の私の「鵜飼」に合わせて一時帰国して観に来てくれることになりました。

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さらに。

京大宝生会から今春自治医科大学に転学した青年が、早速能楽部を立ち上げた話を先日ブログに書きました。

その自治医科大学能楽部員と顧問の教授が、明日初めて宝生能楽堂にやって来るというニュースもあるのです。

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明日は色々な意味で記憶に残る日になることでしょう。

でも先ずは能「鵜飼」の舞台を無事に勤めることが第一です。

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今朝は渋谷のNHKに行き、ラジオ録音で「采女」の地謡を謡いました。

その後に水道橋に行き、昨日の申合で御指摘いただいた点をいくつか修正するための稽古をしました。

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胴着など明日必要なものの準備も終わって、あとは静かに本番を待つばかりです。

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皆様明日はどうかよろしくお願いいたします。