冬到来のサイン

今日は先週土曜日に引き続いて亀岡稽古でした。

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土曜日には実に鮮やかな紅葉が見られました。

今日同じ木の下に行ってみたのですが、早くも盛りは過ぎて、僅かですが色褪せて見えました。

季節は足早に移ろっていきます。

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稽古場のすぐ横には、見上げるような大銀杏が立っています。

昼過ぎに襖を閉めて稽古をしていると、襖の向こうで雨のように頻りに何かが降り落ちるシルエットが見えました。

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稽古の切れ目に襖を開けてみると…

辺り一面には、降り落ちた銀杏の葉が絨毯のように敷き詰められていたのです。

木々達も急ぎ足で冬支度をしているようでした。

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そういえば、昨日の深更に京大稽古を終えて百万遍から四条河原町の宿に歩く途中、冴えた冬の夜空に高く昇ったオリオン座と冬の大三角形を今シーズン初めて見ました。

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そして時間は更に戻って昨日夕方。

宿から京大稽古へと歩く途中、疎水の夷川発電所辺りでは…

冬空の下で水鳥達が羽を休めていました。

向こうに見える山は嵐山です。

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昨日と今日で、様々な”冬のサイン”を見つけました。

またあの京都の寒い冬がやって来たのだな…

と、しみじみ実感したのでした。

舞台に彩りを生む謡

今日は京大宝生会の稽古でした。

「能と狂言の会」以来の稽古です。

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新しい仕舞がたくさんと、素謡も新しい曲でした。

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この間までの「能狂」直前の稽古では、完成された曲をどうしたらより良く出来るか、という事に焦点を合わせて稽古していました。

一転して今日は、新しい曲を皆がどう解釈して舞ってくるのか、謡ってくるのかを先ず見せてもらう事から始めました。

それはある意味でとても楽しみな作業でした。

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成る程、こんな風にイメージして来たのか!

と少し驚いたり、

フムフム、手堅く稽古しているな。

と納得したり。

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総じて、いつもながら短期間で新しい曲を殆ど完全に自分のものにしていて大変感心いたしました。

「関西宝連」までにもう一度稽古すれば、また大きく伸びると思われます。

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稽古を終えて皆で遅い晩御飯を食べている時、「能狂」翌日にお囃子の稽古を受けた部員の話を聞きました。

そのお囃子の先生は能「竹生島」を打ってくださった先生です。

そして、

「竹生島は場面場面で謡の位取りをきちんと変えていたので、”次はどんな謡を謡ってくるのだろう”と舞台上で楽しみに聴いていた」

と仰ってくださったそうなのです。

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私は謡を稽古する時に、

「場面ごとの位取りを良く理解して、謡分けをしっかりとする事で、舞台に鮮やかな彩りが生まれるはず」

という事を常に考えています。

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その狙い通りの事をお囃子方が感じてくださったとは、非常に嬉しいことでした。

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「能狂」という舞台は終わりましたが、その大きな成果は部員それぞれの中に確実に蓄積されたと感じます。

各々がその大きな力を携えて、新たな舞台へと再び船出した京大宝生会。

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次の舞台がまた良いものになるように、私はあと1回の稽古を全力で頑張りたいと思います。

新しい月を眺めて

すみません今日は能にほとんど関係無いお話です。

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「E.T.」というスピルバーグ監督の映画があります。

私がまだ中学生の頃に上映されました。

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そのE.T.を、私は当時住んでいた高田馬場の古い映画館で観て非常に感動した覚えがあります。

主人公の少年がE.T.と一緒に自転車で宙を飛んで、背後に大きな月が浮かんでいるシーンが印象的でした。

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そして今日スマホで、そのE.T.の4分間だけの続編が作られたというニュースを知り、映像も観ることが出来たのです。

あの月と自転車のシーンなどもリメイクされており、再び感動いたしました。

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今日の夕暮れには、東京三ノ輪のビルの谷間に浮かぶ、新しく生まれた月を見ました。

その右斜め下の明るい星は木星でしょうか。

あの二週間前の満月から、京大宝生会の舞台の成功を経てこの月を眺められるのは幸せだと思います。

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次の満月は、まさにE.T.と少年が宙を飛んだ時期に当たります。

そしてその頃には次の舞台「関西宝生流学生能楽連盟自演会」が控えています。

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充実した稽古を経てその満月を迎えられるように、また頑張って稽古して参りたいと思います。

私はE.T.の存在を信じているので、いつの日か私の前にも現れてくれないかなぁと願っております。。

これから始まる歴史

少し時間を遡って、今週月曜日のことです。

京大宝生会が火曜日に能「竹生島」などの熱演でまた部の歴史に大きな一歩を記した、その前夜のこと。

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私は栃木県の自治医科大学に稽古に行きました。

彼らの初舞台である「関東宝生流学生能楽連盟自演会(関宝連)」がいよいよ来週末12月7日に迫って来たのです。

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内容は仕舞「鶴亀」「葛城クセ」と素謡「鶴亀」で、出入りの作法などを含めて時間をかけて丁寧に稽古いたしました。

何しろ、

「当日の着物はどうしましょう?」

「帯もありません…」

「そもそも、部の正式名称を考えないといけないのです。何か良い案はありますでしょうか…?」

まだまだ万事がこういう感じなのです。

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手探りで初舞台へと進んでいる彼らですが、謡と仕舞はとても良い仕上がりになって来ました。

同じように手探りで稽古している日本女子大の2人を含めて、当日は良い初舞台をお目にかけられることと思います。

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長い歴史を刻む部があれば、これから新しい歴史を始める部もあります。

12月7日土曜日、宝生能楽堂にて正午開始の

「関東宝生流学生能楽連盟自演会」。

もちろん自治医科大学と日本女子大の初舞台以外にも、舞囃子、仕舞、素謡など見応えのある番組になっております。

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新たな歴史の始まりを少しでも多くの皆様に御覧いただきたく思います。

どうかよろしくお願いいたします。

見えない力に支えられて

昨日の京大宝生会の能「竹生島」では、舞台上の現役達は力一杯に頑張って素晴らしい能を演じてくれました。

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その成功は、実は見えないところで沢山の人達のサポートに支えられていたのです。

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「竹生島」は最初の作り物を出すのに4人必要です。

まずその作り物を運ぶ「台持ち」としてOBのK嶋君が来てくれました。

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更に「竹生島」は”幕上げ”の回数が多く、また今回シテが高身長なこともあり中々難しかったのですが、この幕上げをOBのK崎君と、一回生が1人手伝ってくれました。

おかげで舞台が滞りなく進行しました。

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そして…

舞台を無事に終えて私が楽屋を出て帰ろうとした時、背後から「あのう…」と声をかけられました。

「澤田先生ですよね?いつも○○がお世話になっています。私○○の母親です」

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今回は見所がほとんど一杯になる程の多くの方々にいらしていただきました。

その中には先程のお母様のように、部員達のご家族が大勢いらっしゃったことと思います。

ご家族の応援は何よりの心の支えになったことでしょう。

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また東京や神戸や名古屋などご遠方からも沢山の皆様にいらしていただき、その応援もまた舞台の現役達に更なる力を与えてくれたのだと思います。

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「竹生島」ではありませんが、番外仕舞の地謡も何人かの若手OBが駆けつけて、力を合わせて謡ってくれました。

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見える力と、”見えないけれど確かに存在した力”が合わさって、昨日の舞台が成功したのです。

その見えない力を与えてくださった皆様に、改めて御礼申し上げます。

「竹生島」に力を与えてくださってどうもありがとうございました。

4件のコメント

あの時の竹生島

今日は京大能楽部自演会が滞りなく開催され、京大宝生会の能「竹生島」もおかげさまで無事に終了いたしました。

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昼過ぎに「竹生島」がいよいよ始まり、私は後見座で祈るような気持ちでシテツレの同吟を聴いておりました。

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やがて地謡が始まります。

最初低い調子で謡い始めますが、「ところは海の上」という部分で”下の下”という調子から”上”という高い調子に急に変わり、そこで船が広い湖上に出たことを表現します。

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しかし今日そこで私は「ハッ」と驚きました。

地謡の調子が、申合とも稽古とも微妙に違うのです。

今日はよりキッパリと、強い調子の謡に聴こえました。

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そしてその謡は、春の長閑な湖ではなく、もっと熱い風が吹いて強烈な日差しが照りつける夏の湖面を想像させたのです。

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そうです。

それはあの9月始めに皆で行った「竹生島合宿」の時の琵琶湖でした。

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「我々は今、”あの時の竹生島”への船旅を再び辿っているのだ…」

と思い、舞台上で震えるように胸が熱くなりました。

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そこから先は、天女も龍神も”あの時の竹生島”で舞っているように感じられました。

舞台が進んでいくにつれて、「最後まで無事に終わってほしい」という気持ちと「終わってほしくない、もっとこの旅を続けたい…」という想いが同時に湧いて来ました。

こんな気分になったことはこれまで一度もありませんでした。

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この先能「竹生島」に関わることは何度となくあるでしょう。

しかし今回の京大宝生会の「竹生島」のような経験は二度と出来ないと思います。

今日の「竹生島」を私は生涯忘れることはないでしょう。

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お世話になった先生方、見所で応援してくださった沢山の皆様、誠にありがとうございました。

稽古の結晶の輝き

明日、京大能楽部自演会「能と狂言の会」が京都観世会館にて開催されます。

京大宝生会の能「竹生島」もいよいよ本番を迎えます。

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これまで何十年もの間、繰り返して現役達に言い続けてきたことがあります。

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「ちゃんと稽古を積んできた舞台は、必ず見所にその努力と想いが伝わる」ということです。

そういう舞台では、もしも何ヶ所かの失敗があろうとも、その稽古の結晶の輝きには何の影響も無いのです。

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そして今回も、我々京大宝生会は能「竹生島」に向けて、個々人の持つ最大限の力をひとつに合わせて、其々の想いを持って懸命に稽古して参りました。

その結晶は既に眩しい輝きを放っています。

明日の舞台でその輝きは間違いなくお客様に伝わることでしょう。

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なので現役達は明日の本番ではどうかあまり気負わずに、緊張し過ぎずに、稽古と同じように冷静な心持ちで臨んでほしいです

そして一期一会の「竹生島」の舞台を五感で存分に味わって楽しんでほしいのです。

このメンバーでひとつの舞台を作るのはこれで最後、という気持ちよりも、このメンバーで「竹生島」を作れた喜びを舞台上で感じてくれたらと思います。

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京大宝生会が120%の本気を出して作り上げた稽古の結晶「竹生島」を、皆様どうか御覧くださいませ。

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京都大学能楽部自演会「能と狂言の会」

京都観世会館にて明日11月26日午前10時始曲。

能「竹生島」午後12時35分開始予定です。

どうかよろしくお願いいたします。

ジャケットとマフラーの出番は…

一昨日の京大「竹生島」申合の時のこと。

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申合の舞台上では、色々バタバタと動いたり考えたりしてとても暑いと感じていました。

そして終わって着替えて外に出ると、夕方の冷んやりした空気に包まれて大変心地良い気分になりました。

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京都駅行きの殺人的に混雑した市バスでまた暑い思いをして、ようやく帰りの新幹線に乗ってホッとした時。

なにやら身が軽すぎることに気がついたのです。。

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私はその時薄手の長袖シャツ1枚で、行きに身に付けていた筈のジャケットもマフラーも京都観世会館に置いてきてしまっていたのです。

それでも全く寒さを感じなかったのは、申合で心身ともにフル回転していたからだと思われます。

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今日は改めて観世会館にそのジャケットとマフラーを受け取りに伺いました。

事務所の方に「帰りお寒くなかったですか?」

と聞かれて、

「いや〜、むしろ暑いくらいだったのです…」

と答えて呆れられてしまいました。

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しかも、今日は天気が良かったので観世会館からブラブラ歩き始めたところ、そのまま京都駅まで歩いてしまい結局また暑くなってしまったのです。

そして受け取ったジャケットとマフラーは鞄に押し込まれたまま、身に付けることはありませんでした。。

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これから夜遅くまで芦屋稽古なので、終わった後の帰り道でようやくジャケットとマフラーの出番となりそうです。

能「竹生島」申合が終わりました

今日は京都大学能楽部自演会「能と狂言の会」の申合がありました。

京大宝生会の能「竹生島」がいよいよ申合を迎えたのです。

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本番用の大ぶりな船と宮の作り物。

初めて身に付ける能装束。

宝生流の謡本と微妙に異なるワキの言葉。

御囃子の手組と地謡との何ヶ所かのズレ。

思ったよりも長い橋掛り。

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などなど、本番前に修正すべき点の最終チェックが色々と出来て、得るものの多い申合になりました。

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1週間後の11月26日火曜日。

京都観世会館にて、京都大学能楽部自演会「能と狂言の会」の本番が開催されます。

宝生流能「竹生島」は12時半頃からの予定です。

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京大宝生会の竹生島へと向かう旅は、遂に終盤に差し掛かりました。

私の稽古は本番までにあと1回。

今日の申合を踏まえて、本番が少しでも良い舞台になるようにギリギリまで改善したいと思います。

新しい月の生まれる頃に

今日は朝からずっと電車で移動しています。

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日が落ちて暗くなってくるとともに、東の低い山脈から濃い黄色をした巨大な月が上って来ました。

今年見た中で一番大きく見える満月な気がします。

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ちょうど1週間前には、亀岡で冷え冷えとした半月を眺めました。

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そしてあと1週間後、この満月が半分になる頃には京大宝生会の能「竹生島」の申合がある予定です。

更にその1週間後、この月が消えてまた新しい月が生まれる頃に「竹生島」は本番の舞台を迎えるのです。

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私が「竹生島」の稽古を出来るのは、おそらくあと3回ほどでしょう。

全身全霊をかけて残りの稽古をして、なんとかこの能を成功させたい。

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右手の車窓の空にかかる巨大な満月を、今祈るような気持ちで眺めています。